本稿は2024年10月21日発行の英語レポート「Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
金融政策と中国の景気刺激策がアジア株式市場を押し上げ
サマリー
- 市場では、米FRB(連邦準備制度理事会)による追加利下げが予想されており、これがアジアの各中央銀行に利下げ余地をもたらし、国内の経済成長にとって大きな下支えとなる。また、中国のさらなる景気刺激策が見込まれるなか、国内外から中国株式への資産配分ペースが加速して、市場全体が押し上げられると予想する。
- 9月のアジア株式市場(日本を除く)の月間リターンは米ドル・ベースで8.4%となった。FRBが大方の予想通り利下げを決定し、利下げサイクルの初回とみられる動きをみせたことを受けて上昇した。投資家のあいだでは、中国政府が低迷する経済成長に対処するために発表した数々の措置も、好感された。国・地域別では、中国(米ドル・ベースの月間市場リターンが23.9%)や香港(同17.1%)のパフォーマンスが特に良好となる一方、韓国(同-3.0%)やインドネシア(同1.1%)は相対的に劣後した。
- 中国によるさらなる景気刺激策が市場で期待されるなか、PBOC(中国人民銀行)は預金準備率を一段と引き下げることを示唆しており、これにより市場により多くの資金が供給されるとみられる。また、中国の銀行の資本増強についても議論されている。企業の業績やファンダメンタルズ面では、アジア(日本を除く)市場の第2四半期決算は良好となり、50%の企業が市場予想を上回った。マレーシア、韓国、台湾を中心に業績の修正は良好なものとなっている。中国や香港では、2025年にかけて業績が大幅に上方修正されると予想する。
市場環境
当月のアジア株式市場は上昇
9月のアジア株式市場は、FRBが大方の予想通り利下げを決定したことを受けて上昇した。この動きにより、利下げサイクルが始まったとみられている。米国の中央銀行は、FF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標を0.50%と大幅に引き下げて、4.75%~5%のレンジにした。ジェローム・パウエルFRB議長は、この動きは現在の経済状況から判断して「良好且つ力強いスタート」だと述べた。米国の過去2ヵ月間の主要指標は、小売売上高、消費者センチメント、鉱工業生産、製造業生産など、大半が市場予想を上回っており、経済が引き続き良好な状態であることを示唆している。当月のアジア株式市場(日本を除く)の月間リターンは、米ドル・ベースで8.4%となった。
北アジア市場は中国が牽引役となり上昇
北アジアでは、中国政府が低迷する経済成長に対処するために発表した数々の措置が投資家に好感されるなか、中国株式の月間リターン(米ドル・ベース)は23.9%となり、地域をアウトパフォームした。このニュースを受けて、中国人民元は対ドルで1年超ぶりの高値をつけた。
異例の動きとして、PBOCの潘功勝総裁は、他の2人の金融規制当局者とともに記者会見を開き、流動性を改善させるために、銀行の預金準備率と7日物レポ金利を引き下げるとともに、LPR(ローンプライムレート、最優遇貸出金利)を引き下げる可能性を発表した。中国の株式市場も、5,000億人民元のスワップ制度を通じてノンバンク金融機関に株式購入資金が提供されるほか、3,000億人民元の再貸出制度計画によって自社株買いを行う上場企業や大株主が支援を受けるなどの形で、後押しを受けた。
多くの中国人が多額の投資をしている不動産分野では、既存の住宅ローンや2軒目の住宅購入時の頭金比率が引き下げられた。その他、貧困層に1回限りの現金給付が行われる。中国の習近平国家主席も、直後に開かれた月次の政治局会議でこれらの措置を繰り返し述べ、不動産価格の下落に歯止めをかけ、家計所得の伸びを支え、資本市場を活性化するとともに、若者や出稼ぎ労働者の失業率上昇に対処することを約束した。
中国では失業率の高止まりやインフレの状況を背景に全面的な対策が打ち出される一方、8月の鉱工業生産、製造業活動、小売売上高は低水準にとどまった。中国当局はまた、急速な高齢化に伴う公的年金制度への負担を軽減するために、法定の退職年齢を引き上げた。その他、香港では金融当局の利下げや本土の景気刺激策のニュースが好感され、月間市場リターンが米ドル・ベースで17.1%となった。香港の8月の失業率とインフレ率は、ほぼ横ばいとなった。
韓国では、ウォン高が輸出企業に打撃を与える可能性が懸念されるなか、当月の月間市場リターンが-3.0%となった。前月のデータでは、CPI(消費者物価指数)が減速する一方、製造業活動、鉱工業生産、輸出のペースが加速して、経済が堅調であることが示された。また、国内株式が割安な水準で取引されているという慢性的な問題に対処するために、収益性と株主リターンで選ばれた100社で構成される韓国バリューアップ指数が正式に導入された。
台湾株式(米ドル・ベースの月間リターンは1.5%)は、8月に月間として過去最高を記録した好調な輸出を受けて上昇した。中央銀行は、輸出中心の同国経済は新興テクノロジーに対する世界的に旺盛な需要から恩恵を受けるとみて今年の成長予測を引き上げたが、政策金利は据え置いた。8月のインフレ率は緩和したものの、台風(ケーミー)の影響による果物や野菜価格の上昇を受けて、中央銀行の目標である2%を引き続き上回った。
アセアン諸国市場はFRBの動きやPBOCの措置を受けて上昇
アセアン諸国のなかでは、シンガポール市場(米ドル・ベースの月間市場リターンは8.3%)がFRBの利下げやPBOCの景気刺激策のニュースを受けて上昇した。8月のコア・インフレ率がわずかに加速したとは言え、鉱工業生産や非石油地場輸出が良好な内容となるとともに失業率が横ばいとなったことも、センチメントを後押しした。
マレーシア(同4.4%)では、低調な製造業データや貿易黒字の縮小が投資家のあいだであまり材料視されず、代わりに前述したポジティブな材料に注目が集まった。
一方、タイ(11.5%)は、低迷する経済にてこ入れするために、(国が低所得者向けに発給している)福祉カードの保有者と障害者を対象として、1,455億バーツの現金支給による景気刺激策の第1段階を開始した。該当者は、公式の電子決済システムを通じて10,000バーツを受け取ることになる。しかし、最低賃金の引き上げについては、意思決定者からの十分な支持を得られず、持ち越された。また、8月の同国の製造業PMI(購買担当者景気指数)は、緩やかなペースながらも拡大基調となった。
フィリピン(同5.6%)では、ラルフ・レクト財務大臣が、インフレが緩和するなか、中央銀行がFRBの0.50%の利下げに追随する可能性が高いことを示唆した。同大臣は、金融当局が銀行の預金準備率の引き下げを決定した直後にこれを発言した。
インド市場は小幅に上昇
インド市場(米ドル・ベースの月間市場リターンは2.1%)は、好調な国内の資金流入やFRBの大幅利下げなどの要因が追い風となり上昇した。インドの4~6月期の経済成長率は、農業やサービス部門の低迷が経済の重石となり、前四半期の前年同期比7.8%から同6.7%へと減速した。インドの9月の製造業PMI(速報値)は前月から低下したものの、景気拡大を示唆する範囲に留まった。8月の貿易収支は、輸出が地政学的な貿易摩擦、原油安、輸送費上昇の打撃を受けるなか赤字が拡大した。輸入は金の需要が好調となり急増した。この輸出の低迷を受けて、インド当局は海上運賃の引き下げ、輸送用コンテナの供給拡大、輸出手続きの迅速化、港湾の混雑緩和策を発表した。
今後の見通し
アジア市場の2つの材料:FRBの利下げと中国の景気刺激策
当社では、2つの重要な材料がアジア市場を下支えする可能性があるとみている。1つ目はFRBによる金融緩和で、市場では次回の米FOMC(連邦公開市場委員会)での追加利下げが予想されている。FRBによる金融緩和はアジアの各中央銀行に利下げ余地をもたらし、国内の経済成長の大きな下支えとなる。2つ目は、中国の政府機関が打ち出した数々の協調的な金融支援策である。以下では、中国によるさらなる景気刺激策の可能性について説明する。
中国市場はさらなる景気刺激策期待で一段と上昇へ
中国によるさらなる景気刺激策が市場で期待されるなか、PBOCは預金準備率を一段と引き下げることを示唆し、これにより市場により多くの資金が供給されるとみられる。また、中国の銀行の資本増強についても議論されている。当社では、足元の大幅な「全面高」の様相は短期的なものとみており、ファンダメンタルズ面の裏付けと収益の伸びに注目して引き続き銘柄を評価している。全体として、国内外から中国株式への資産配分ペースが加速して、市場全体が押し上げられると予想する。
日本を除くアジアの企業収益に対して強気な見方
企業のファンダメンタルズに目を向けると、アジア(日本を除く)市場の第2四半期決算は良好で、50%の企業が市場予想を上回った。マレーシア、韓国、台湾を中心に業績の修正は良好なものとなっている。中国や香港では、2025年にかけて業績が大幅に上方修正されると予想する。テクノロジー・セクターは収益成長の面でリードしているが、当社では消費や観光、一般的な支出、投資が加速するなか、市場の牽引役は金利感応度の高い分野や、消費関連銘柄、輸送銘柄などにシフトする可能性があるとみている。エネルギーや素材セクターは引き続き出遅れているが、具体的な需要がないため、こうした状況が続くだろう。中国は、これまでエネルギーや素材の限界的な買い手だったが、産業政策や資本配分政策のシフトにより、中国が再び限界的な需要源になることはないと予想している。
インドのマクロ経済状況に対して引き続きポジティブ、アセアンではマレーシアに注目
当社ではインドの経済や消費者の習慣、投資の構造的変化は今後も継続するとみており、同国に対してポジティブな見方を維持している。マクロ経済の状況は引き続き良好であり、インフレ圧力もないなか、中央銀行は経済を下支えするとみられる。年初来でインド市場を押し上げてきたのは、国内の資金フローであり、海外の資金フローではなかったが、投資家のあいだでは中国経済回復への確信が強まっており、インドに比べて中国への投資拡大が進むなか、インド市場は中国に比べて当面劣後する可能性がある。
アセアンでは、マレーシアが投資先として台頭していると述べてきた。マレーシアはテクノロジー生産の代替地として、またデータセンターのプロバイダーとして改めて発展を遂げており、こうした状況が続くと予想する。
当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。