本稿は2024年11月27日発行の英語レポート「Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

トランプ氏の再選に投資家が身構えるなかアジア株式市場は動揺


サマリー

  • トランプ大統領の1期目の任期中において、中国株式市場は米国株式市場(S&P500)だけでなく、チャイナ・プラス・ワンの恩恵を受けたとみられるいずれの国・地域の株式市場もアウトパフォームした。歴史が繰り返されることはないかもしれないが、トランプ氏の2期目の大統領任期中に、中国の国内政策や市場環境が大きな要素となることは明らかである。
  • 10月のアジア株式市場(日本を除く)はそれまでの上昇から一転して下落し、米ドル・ベースの月間リターンが-4.6%となった。米国の9月のCPI(消費者物価指数)上昇率が市場予想を上回る加速を示したことで、米FRB(連邦準備制度理事会)の利下げスケジュールに影響が出る可能性があるとの懸念が投資家のあいだで広がった。当月は、米国の大統領選挙を控えて不透明が高まった。国・地域別では、インド(米ドル・ベースの月間市場リターンが-8.3%)やマレーシア(同-8.0%)のパフォーマンスが特に低調となり、リターンがプラスとなったのは台湾(同3.7%)だけであった。
  • 今後のニュース・ヘッドラインは、米国の選挙結果を受けた動向で占められるだろう。これらの動向は、開始されて間もないFRBの金融緩和サイクルの方向性を変え、エネルギー市場に大きな変化をもたらし、世界の貿易や地政学にさらなる混乱を引き起こす可能性がある。当社では大統領選の結果を予測することはせず、いずれの結果となる場合にも備えてきており、ますます混迷する環境を乗り切り、好機を見出す能力が特に優れた企業や経営陣に着目することを重視している。

市場環境

当月のアジア株式市場は下落
当月のアジア株式市場は、前月の大幅上昇から一転して下落した。米国の9月のCPI上昇率が市場予想を上回る加速を示したことで、FRBの利下げスケジュールに影響が出る可能性があるとの懸念が投資家のあいだで広がった。米国の大統領選挙が迫るなか、支持率調査がドナルド・トランプ候補とカマラ・ハリス候補の接戦を示していたこともあり、慎重な姿勢が強まった。こうした不透明感を受けて、大半のアジア通貨が大幅に下落する一方、米ドルは上昇した。域内では、中国政府が9月に相次いで景気刺激策を発表したのち、景気低迷を阻止するためのさらなる包括的な措置を発表しなかったことが失望を招いて市場は失速し、当月のアジア株式市場(日本を除く)の月間リターンは、米ドル・ベースで-4.6%となった。

北アジアでは台湾市場がアウトパフォーム
北アジアでは、中国が低迷する景気を押し上げるためのより強力な政策措置を講じなかったことを受けて、同国の市場(米ドル・ベースの月間リターンが-5.9%)が失速した。中国の藍仏安財政相は、経済の活性化や政府債務の拡大、消費者や不動産セクターの支援を行う計画を改めて示した。中国の第3四半期のGDP成長率は、不動産セクターが引き続き重石となるなか、過去1年超ぶりの低成長となった。9月の工業部門利益も、需要が低迷するなか2024年で最も大幅な落ち込みとなった。

香港では、李家超行政長官が地域経済および金融市場を強化し、住宅をより購入しやすくする措置を取ることを公約した。公約を支えるものとして、同氏は酒税の引き下げ、金取引ハブの設置、証券取引所上場規制の合理化、住宅ローンの借入比率の緩和、公共住宅をより利用しやすくする方針などを示した。李氏の公約にもかかわらず、香港市場(同-5.9%)は中国株式の下落に追随する動きをみせた。

韓国市場(同-7.5%)は、世界的に需要が低迷するなか、輸出企業や一般消費財・サービス・セクターの銘柄が下落を主導した。韓国の中央銀行はインフレが安定的に推移するなか、経済成長をめぐる懸念に対処するため、2年ぶりに利下げを実施した。韓国の第3四半期GDP(速報値)は市場予想を下回った。海外需要の低迷を受けて9月の製造業活動は1年超ぶりのペースに低迷した。台湾市場(同3.7%)は、テクノロジー分野が上昇を牽引し、域内で唯一良好なパフォーマンスをみせた。指数構成比率の高いTSMC(台湾積体電路製造)は、AI(人工知能)関連の先端半導体需要が堅調となったことを受けて、第3四半期決算が市場予想を大きく上回った。

アセアンの各中央銀行の政策措置は様々

アセアン地域については、シンガポール(米ドル・ベースの月間リターンが-3.3%)の9月の非石油地場輸出や鉱工業生産(速報値)が、地政学的不透明感のあるなかで減速した。一方、シンガポールの製造業活動は、電子機器部門の回復を受けて底堅さを示した。マレーシアでは期待できる予算案が発表されたものの、月間市場リターンが-8.0%となり、年初来の上昇の一部を吐き出した。マレーシア株式が下落した主因はリンギットの下落であった(対ドルで5.8%の下落)。マレーシア経済は底堅さを維持しており、9月の失業率は4年ぶりの低水準となった。

タイ(同-3.9%)の中央銀行は、景気減速に対処するために市場の予想外に0.25%の利下げを実施し、この利下げは現地市場でポジティブに受け止められた。フィリピン(同-5.7%)では、インフレが引き続き落ち着いた水準にあるなか、中央銀行が0.25%の追加利下げを実施した。9月のCPI上昇率は、輸送費の下落や食品価格の上昇鈍化を受けて過去4年間で最も緩やかなペースとなった。

タイやフィリピンとは対照的に、インドネシア(同-4.9%)の中央銀行は9月に0.25%の利下げを行った後、政策金利を据え置いた。しかし、他の中央銀行と比較して政策会合の頻度が高いことから、これが緩和サイクルの終了ではない可能性が高い。

インド株式は企業収益や経済指標が市場予想を下回るなか下落

インド株式市場は月間リターンが-8.3%となり、下落幅が域内最大となった。下落の主な要因は、第2四半期の企業収益や経済指標が市場予想を下回ったことであった。インドの中央銀行は、同国のインフレは鈍化しているとして政策金利を据え置いたが、農作物に影響を与える季節外れの天候パターン、世界で起きている出来事、サプライチェーン問題などを受けて上振れリスクに対する警戒感を示した。

今後の見通し

ますます混迷する環境を乗り切り好機を見出すことのできる企業に引き続き着目

今後1ヵ月間のニュース・ヘッドラインは、最近の歴史において最も接戦かつ極端な選挙戦の1つとなった米国大統領選を受けた動向で占められるだろう。選挙後の動向は、開始されて間もないFRBの金融緩和サイクルの方向性を変え、エネルギー市場に大きな変化をもたらし、世界の貿易や地政学にさらなる混乱を引き起こす可能性がある。当社では大統領選の結果を予測することはせず、いずれの結果となる場合にも備えてきており、ますます混迷する環境を乗り切り、好機を見出す力が特に優れた企業や経営陣に着目することを重視している。

「トランプ2.0」で重要な要素となる中国の国内政策および市場環境

トランプ大統領の1期目の任期中(2017年1月~2021年1月)において、中国株式市場は米国株式市場(S&P500)だけでなく、チャイナ・プラス・ワン(生産拠点を中国へ集中させることによるリスクを回避すべく中国以外の国・地域へも分散させる動き)の恩恵を受けたとみられるインド、メキシコ、アセアン諸国のいずれの株式市場もアウトパフォームした。歴史が繰り返されることはないかもしれないが、トランプ氏の2期目の大統領任期中に、中国の国内政策や市場環境が重要な要素となることは明らかである。中国は景気を過剰に刺激することに引き続き消極的であり、むしろ国内経済を安定化させることや、成長ドライバーを不動産から他のものにシフトさせることを引き続き目指している。輸出セクターがさらに低迷すれば、国内の消費およびサービスへの支援が強化されるだろう。香港では、ファンダメンタルズの変化がより鮮明となっており、中国の買い手が圧倒的な力をますます持つようになっている。そのため、当社では不動産およびヘルスケア分野など、より国内志向の強い企業を有望視している。

インド株式については質の高い事業を展開する企業に引き続き注目

インド市場はしばらく好調なパフォーマンスをみせてきたが、一服を余儀なくされている可能性がある。インドの足元の決算シーズンにおいては、見込まれてきた農村部や準都市部の消費回復の兆しがほとんど示されておらず、むしろ複数の消費関連企業が長年築いてきた流通ネットワークやブランドの地盤が、新たなeコマース企業や宅配業者との厳しい競争の脅威に晒されているようだ。これに加えて、インドの中央銀行が無担保融資やNBFC(ノンバンク金融会社)ローンの組成をともに抑制するべく積極的に取り組んでおり、その影響が最終需要に波及している。当社では、利益の持続可能性が過小評価されており、ファンダメンタルズの変化が進んでいるとみている分野において、質の高い事業を展開する企業に引き続き注目している。

台湾や韓国では半導体やコミュニケーション関連銘柄を選好

最近、韓国市場と台湾市場のあいだで大きな乖離が生じている。韓国では、企業価値向上を目指して導入された「バリューアップ政策」が期待外れとなっているとともにコモディティDRAM市場も冴えず、また、Samsung Electronicsが高帯域幅メモリで後れを取り続けていることなどが打撃となっている。対照的に、台湾は、TSMCやその他の複数の企業収益が示すように、AI関連需要の好調さが追い風となっている。テクノロジーに特化した多額の設備投資が行われ、インフラ構築が進められているなか、そうした投資がどれだけの利益を生み出すのかという点について市場では引き続き疑問視されているものの、インフラ拡大競争が和らぐ兆しはまだみられない。当社では選別的な姿勢を維持する方針であり、新たな機会にシフトする能力を確実に示しており、地政学的環境の変化への備えがより整っている半導体およびコミュニケーション関連銘柄を選好している。

アセアンでは、マレーシアが投資先として台頭していると以前述べた。マレーシアがテクノロジー生産の代替地として、またデータセンターのプロバイダーとして改めて発展を遂げているなか、こうした状況は続くと予想している。最近発表されたマレーシアの予算案は正しい方向へと向かうものであり、さらなる取り組みが必要であるものの海外からの投資誘致力を高めるとみられる。当社では、アセアンにおいて銘柄固有の要因やアセアンの他の市場における投資魅力の高まりの両方を理由として、インドネシア株式に対する選好度を引き下げている。


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