当レポートは、英語による2024年11月11日発行の英語レポート「FOMC meeting: uptick in uncertainty with jobs, inflation and price expectations in focus」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。


FRBの決定は予想通り、ニュースと言える情報の大半はパウエルの声明に

11月7日に行われた米FOMC(連邦公開市場委員会)において全会一致で決定された金融政策は、0.25%の利下げと事前に十分示唆されていた通りの内容となり、ニュースと言える情報の大半が見出されたのは、その発表後に行われたパウエル米FRB(連邦準備制度理事会)議長の記者会見だった。利下げ自体は11月の会合前に市場にほぼ織り込み済みで、政策声明に加えられた変更も微妙なものであったため、FOMCの声明は表面上は議論の種になるようなものには見受けられなかった。

文言の変化:フォワード・ガイダンスは削除され、リスクは今や上下双方に

FOMCの政策声明における目立たないが重要な変更の1つは、2つの項目が省かれたことだ。1つ目の削除はインフレが2%の目標に向かって持続的に減速していることに「自信を深めている」という文言、2つ目の削除は「インフレとリスクのバランスにおける進展」である。これらの変更について質問されたパウエル議長は、この2つの文言の省略はフォワード・ガイダンスの削除であり、すでに利下げサイクルを開始したFRBとしては、フォワード・ガイダンスはもはや必要ないと判断したと説明した。加えて、同議長によると、中立金利の調整ペースと「最終的な目的地」はいずれも未定だという。

フォワード・ガイダンスの削除に加えてFRBが緩和ペースを落とす可能性

パウエル議長は、インフレと経済成長率の両方について楽観的な見方を維持しながらも、FRBが依然引き締め的と判断している金融政策の調整を続けるにあたって慎重である理由として、上振れ・下振れ双方のリスク(米国の雇用情勢が悪化する、あるいはインフレが2%への減速基調を維持できない)を強調した。FRBの慎重さは、利下げのペースや数値目標が設定されておらず、ターミナル・レート(利上げや利下げのサイクルにおける最終到達点の金利水準)が未だはっきりしない(FRBの9月の「経済見通し」によると、現在のところは2~2.5%のあいだと推測される)ことに表れている。しかし、重要なのは、FOMC後の記者会見で、市場は今後1年における利上げの可能性を除外すべきかという質問に対し、同議長が、現在のように不透明感が強い環境下では、そのような「長期」の見通しにおいてどのようなシナリオも除外できないと強調したことだ。

これらはすべて、政策の不透明感が増したことを示唆している。2025年(あるいは2024年12月も含めて)の追加利下げが見送られると考える理由はないが、インフレと景気(特に雇用)のいずれかが現状から大きく乖離すれば、金融政策の方向性は急速にシフトする可能性がある。これによって、イールドカーブの長期ゾーン・サイドは不透明感が少し増したと言えるだろう。

選挙の影響についてはノーコメント、しかしインフレ期待に注意

パウエル議長は記者会見のあいだ、まだ終わったばかりの米大統領選の結果がFOMCの意思決定に与える影響について何度も質問された。同議長は、次期政権の財政政策の具体的内容がまだ完全には示されておらず、影響を考察する上でのひな型がないという単純な理由から、選挙が金融政策に与える影響は今のところゼロのままだと述べた。したがって、新政権の政策がより明確になるまで、トランプ次期大統領の財政構想をめぐる思惑に金融政策が直接反応することはないと予想される。また、FRBがこれまでのところわかっていること、つまり、景気は底堅いものの物価と雇用の動向は冷え込みつつあるということに基づいて行動している可能性もある。FRBは、より控えめな引き締めスタンスに移行する機会を今のうちに捉えようとしているのかもしれない。新たな情報(財政がすでに過度な拡張状態にあるなかでの財政拡大など)が入れば、調整する必要が生じるとしてもだ。

しかし、トランプ政権下での財政緩和期待がインフレ期待の急激に高まる近因となるようであれば、状況は変わるかもしれない。FRBは、予想される財政緩和に起因するものであろうと、その他の理由によるものであろうと、インフレ期待を注視し続けるだろう。

インフレ期待については5年先の5年物BEIに注目

今のところ、米国のイールドカーブの長期ゾーンで債券利回りが上昇しているものの、パウエル議長は、FRBは金利やインフレ期待が特に想定から逸脱しているとはみていないと示唆した。同じ理由で、インフレのテールリスク・シナリオは市場に十分には織り込まれていない可能性もある。最近、パウエル議長が注目している指標に5年先の5年物BEI(「ブレークイーブン・インフレ率」、期待インフレ率)があるが、これは2020年以降の大半の期間において2%台をわずかに上回りながら2.5%を下回る範囲内で推移している(チャート1参照)。同議長の見方では、これはFRBの現在のインフレ目標と「整合的」である。長期のインフレ期待が再び高まる兆しの有無については、この指標に注目していくことをお勧めする。パウエル議長が示唆したところによると、インフレ期待がこれ以上上昇することをFRBが容認する可能性は低く、もし上昇した場合、FRBは概ね「中立」とみなされる金利水準に達したとして、利下げサイクルを中断または終了する可能性がある。

チャート1

「目的地」である中立金利は通常、長期のインフレ期待に「自然」利子率とみなされるもの(最近の長期平均的な実質金利水準から考えると、2%を優に下回るかなり低い水準にとどまっている)を足した値となる。長期のインフレ期待が上昇すれば、それを受けて「目的地」であるターミナル・レートもより高い水準に調整されるものと予想される。

しかし、留意すべき点として、長期のインフレ期待は固まるまでにある程度時間がかかるものであり、それが5年先の5年物BEIに反映されるにあたっては上下いずれの方向にも動く可能性がある。したがって、FRBは短期的な動きよりも長期的なトレンドの調整により大きな注意を払っていくだろう。

長期のインフレ期待は転換点に来ているのか、雇用とインフレ(特にコア・サービス)に注目

FRBがフォワード・ガイダンスをやめてデータに依存していることから、市場は毎回FOMC会合を迎えるにあたり、経済指標が正当化しているのはFRBの利下げ継続か、それとも金利据え置きかを問うことになる。注目すべき経済指標としては、パウエル議長が言及している(最近は米国での台風やストライキの影響で統計が歪んだ)就業者数や失業率、およびNIPA(国民所得・生産勘定)の統計が挙げられるが、後者は家計の貯蓄が修正前に比べて健全な状況にあることを示している。また、FOMCは、現在のPCE(個人消費支出)コアデフレーターが前年同月比2.7%と望ましい水準を上回り続けている(3ヵ月および6ヵ月の数値はそれほど高くないが)ことに留意しながらも、現在高止まりしているサービス価格インフレ(例えば家賃の調整)が、2023年後半のベース効果が計算対象から外れるのに伴い、2025年1月までに落ち着くと予想している。逆に、これが実現しなければ、利下げが一旦停止する可能性は高まる。次回のFOMCまでにインフレ統計の発表はあと2回(そして雇用統計はあと1回)あるが、これらはFRBが12月に再利下げを行うかどうかの重要な指標となるだろう。

2026年のパウエル議長の任期終了がFRBの独立性の転換点となる可能性

先日の当社レポート「トランプ氏当選を受けて財政政策とインフレリスクが焦点に」では、財政政策が引き続き金利とインフレに対する長期的リスクの1つであると述べた。最終的にはこれに、FRBの独立性に対する次期大統領のスタンスも加える必要が生じるかもしれない。パウエル議長は、記者団から次期大統領が同議長や他のFOMCメンバー理事に任期満了前の辞任や降格を強制し得るかと質問された際、法律上そのような行為は不可能であり、さらに辞任要求は一切受け入れないと答えた。パウエル議長の任期は2026年に終了するが、その時点での新たな議長任命がFRBの独立性後退の可能性をもたらし、インフレと闘う機関としての信頼性が損なわれるようなことにならないか(中央銀行は通常、インフレ加速方向に偏った非対称リスクに直面していることを思い出してほしい)、市場は注視していくだろう。


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