本稿は2024年11月29日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

グロース資産のスコアはやや引き上げてプラス幅を拡大、ディフェンシブ資産のスコアは中立に据え置き

投資環境

当月は大半の資産クラスにとってマイナス・リターンの月となり、債券と株式はともに下落した。グローバル株式市場はMSCI Worldインデックスで2%強、米国株式はS&P500指数で0.99%の下落となったが、企業決算への反応は好悪混合で、例えば「マグニフィセント・セブン」(Apple、Microsoft、Alphabet、Amazon、Nvidia、Meta Platforms、Tesla)のなかでは、AlphabetとAmazonが上昇する一方、Microsoftは決算が上振れしながらもフォワード・ガイダンスがネガティブに受け止められたため下落した。決算関連のニュースに加え、米大統領選を控えてボラティリティが上昇し、共和党勝利の可能性が高まっては沈むなかで市場は上下に振れた。しかし、株式市場のリターンは、当月は低迷したものの年初来では極めて好調で、MSCI Worldインデックスで15%超、S&P500指数で20%超となっている。

株式市場以外では、当月は債券市場も打撃を被り、米国債10年物の利回りが月末時点で4.28%と前月末比0.5%程度上昇するなど、市場リターンはブルームバーグ・グローバル総合債券インデックスで2.48%のマイナスとなった。前月に米FRB(連邦準備制度理事会)が0.50%の利下げを実施したにもかかわらず、市場では債券利回りが上昇し、24ヵ月後に織り込まれているターミナル・レート(利上げ・利下げサイクルにおける最終到達点の金利水準)も調整した。米国の選挙で共和党の勝利する確率が高まったが、これは米国の債券市場にとってマイナス材料とみなされ、名目利回りとブレークイーブン・インフレ率(期待インフレ率)がともに上昇した。選挙で共和党が勝った場合に実施される可能性の高い法人税減税や関税といった措置は、概してインフレを招きやすいとみられている。さらに、金融市場にとって比較的厳しい月となった当月の終わりには、ここ数ヵ月にわたって弱含んでいた米ドルが反発し始めた。


クロス・アセット

当月は、グロース資産のスコアのプラス幅を引き上げる一方、ディフェンシブ資産のスコアを中立に据え置いた。グロース資産については、FRBの利下げサイクルが始まったこと、共和党による政権がまもなく始まることから、リスク資産に対する選好度が増した。米国の経済指標は引き続き景気の堅調さを示しており、非農業部門就業者数は天候の影響を受けて鈍化したものの、GDPは潜在成長率を上回る伸びを続けている。FRBが利下げを続けるなか、当社では、現在の追い風の経済見通しが維持され当面はゴルディロックス状態(過熱も低迷もしない適度な経済状態)が続くと予想している。加えて、米国企業の最近の決算は好調であり、業績が市場予想から上振れした企業の数は平均をやや上回っている。ディフェンシブ資産については、債券のイールドカーブはかなりフラットであることから、長期のソブリン債を保有することが比較的難しくなっている。

グロース資産のなかでは、米国の選挙結果を受けて、先進国株式のスコアのプラス幅を引き上げる一方で新興国株式のスコアのプラス幅を引き下げた。共和党による「レッド・スウィープ」(大統領職と上下両院の多数派を共和党が占める状態)は、輸入関税およびインフレのリスクが高まることを意味し、延いてはドル高を示唆する。これは、当社が以前ドル安予想に伴い持っていた新興国株式へのポジティブな見方を覆すものだ。一方で、経済指標が底堅く金融政策が世界的にハト派寄りであることから、景気に対してはポジティブな見方を維持している。このようななか、リスク・エクスポージャーのバランスを見直し、先進国株式のスコアのプラス幅を引き上げて新興国株式のスコアのプラス幅を引き下げた。先進国株式のなかでは、欧州のスコアを小幅のプラスに維持する一方、長期的な成長テーマを牽引役として先行きが見通しやすい米国を引き続き最も選好している。日本については、円のボラティリティの高まりという当面の逆風を考慮してスコアをマイナスにとどめたが、コーポレート・ガバナンスの改善や収益成長の加速といった長期の構造的ストーリーは引き続き有望視しており、市場の調整局面を見計らってスコアの引き上げを検討する。エネルギー株は、過剰供給の拡大と需要の鈍化が進むなかで悲観的な見方が強まっていることから、スコアを引き下げてマイナス幅を拡大し、その分、ディフェンシブ性が相対的に強いMLP(パイプラインや貯蔵施設などのエネルギー事業を主な収益源とする共同投資事業形態)資産のスコアを引き上げた。上場インフラ資産では、データセンターの長期的成長に伴うエネルギー需要増加へのポジティブな見方を反映し、米国の公益事業株のスコアをプラスに維持している。新興国株式では、内需主導型経済や長期の構造的成長ストーリーの恩恵を享受するとみられるインドやインドネシアなど、特定の国の選好を継続している。また、足元の世界的なテクノロジー・アップサイクルが追い風となっている台湾も、スコアをプラスに維持している。

ディフェンシブ資産のなかでは、ハイイールド債のスコアのプラス幅を引き上げる一方、先進国・新興国ソブリン債のスコアを引き下げてマイナス幅を拡大した。当月のスコア変更は、トランプ次期政権が企業に有利な政策を実施すると予想されるなか、共和党の勝利を受けた経済環境見通しの好転を反映している。次期政権は企業に対して支援的なスタンスをとるとみられており、FRBが金融政策を緩和している局面で法人税減税が実施されれば、企業環境は改善すると予想される。当社ではこの機会を捉えて、ハイイールド債、なかでも米国よりも大幅な金利低下が予想されトータル・リターンの追い風になるとみられる欧州ハイイールド債のスコアを引き上げた。クレジット物のスコアを引き上げた分、先進国ソブリン債についてはスコアを引き下げた。共和党の勝利はインフレにつながりやすいとみられており、FRBの緩和策を困難にする可能性があるからだ。このように米国の債券市場環境は厳しさを増しているが、欧州、カナダ、英国は相対的に有利とみている。後者の国々の大半では、インフレが2%を下回っており経済成長率も低いことから、金融緩和が実施しやすいと考えられる。ソブリン債のなかでは、特にフランス国債を選好している。対ドイツ国債でのスプレッドが大きくイールドカーブがスティープであるため、キャリーの観点から見た投資魅力度が相対的に高い。

*マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながります。

資産クラスの選好順位


当社の見方

グロース資産

インフレが減速している一方で経済指標が底堅く推移していること、また世界各国の中央銀行が引き締め的な金融政策から脱却し金利を引き下げていることから、グロース資産は投資魅力度が高いと言える。米国の選挙が共和党の「レッド・スウィープ」に終わったことは、財政支出の拡大と輸入関税の引き上げにつながるとみられ、インフレ圧力を再燃させる可能性がある。これは高金利長期化の見通しとドル高を招き得るため、結果として当社も投資の視点を変えることになるかもしれない。しかし、トランプ政権による法人税減税実施への期待は、進行中の利下げサイクルとともに、投資リターンの強力な原動力となり続ける。当社では、足元の市場の調整は、長期的な成長ストーリーに基づく投資ポジションを拡大するにあたっての魅力的なエントリー・ポイントであると考えている。

第3四半期決算シーズンの採点

米国ではS&P500指数構成企業の90%超が第3四半期決算を発表済みだが、業績内容は予想以上に底堅く、決算発表済み企業のうち利益が市場予想から上振れした企業の割合は75%と、過去平均の74%を上回っている。売上高については、決算発表済み企業のうち上振れした割合が53%と、過去平均並みとなっている。利益の上振れ幅は7%と第2四半期を上回っており(チャート1参照)、前回のピークであった2023年の水準に迫る勢いだ。同様に、売上高の上振れ幅も1.4%と、2023年第2四半期以来の高水準となっている。

チャート1


利益をセクター別で見てみると、上振れした企業の割合が多かったのは通信、テクノロジー、ヘルスケア、金融、生活必需品の順となった(表1参照)。AlphabetやMeta Platformsなどのコミュニケーション・ソフトウェア企業は、クラウドやモバイル広告の好調な需要を受けて、売上高と利益がともに上振れした。同様に、CadenceやAMDなどの半導体企業も、引き続きAI(人工知能)関連の旺盛な需要が反映された決算内容となった。一方、エネルギーや原材料などの景気敏感セクターは、需要低迷と供給過剰に起因するコモディティ価格の軟化を受けて苦戦が続いた。

表1

株価パフォーマンスの点では、第3四半期の決算発表が始まった今四半期初め以来のパフォーマンス(本稿執筆時点)で最も良好なセクターが金融、次いで情報技術となっている。両セクターとも、株価上昇の背景には、米大統領選でのトランプ候補の勝利を、投資家が当該セクターに対する監視・規制の緩和期待からプラス材料と捉えたことがある。金融セクターについては、高金利長期化シナリオとトランプ次期政権による追加の景気刺激策実施期待も株価上昇の要因となった。一方、米国でACA(医療保険制度改革法、通称「オバマケア」)が大幅に改正され、2025年の補助金打ち切りやメディケイド(低所得者向け医療保険制度)への資金配分削減につながるのではとの思惑から、ヘルスケア・セクターは売り込まれた。

注目すべき点として、企業の利益成長率の市場予想を見てみると、第3四半期は2024年における米国企業の利益成長の谷となっている。特にトランプ次期政権下において今後数四半期に法人税減税と利下げの実施が予想されることから、当社では今後企業の利益成長が加速するとみている(チャート2参照)。

チャート2

グロース資産に対する確信度の強い見解

  • 長期的な成長機会を含有する米国株式のスコアを維持:市場には対AI・データセンター投資の期待リターンをめぐる懸念があるものの、当社では引き続き米国のテクノロジー株を選好している。企業収益は底堅さを保っており、同セクターの長期的な成長ストーリーは損なわれていない。米国では株価上昇の流れが「マグニフィセント・セブン」以外へも広がりつつあり、市場全体に好影響を及ぼしている。インフレが落ち着いて金融政策がハト派化するのに伴い、米国のリスク資産は良好なパフォーマンスを示すとみられる。また、共和党による「レッド・スウィープ」は、自国経済を支えるための大規模財政支出の継続と保護主義政策につながると予想されるため、株式市場にとってプラス材料と言える。
  • 新興国株式のスコアを引き下げ:共和党による「レッド・スウィープ」を受けて、新興国株式のスコアを引き下げた。米国が2025年にかけて利下げを続けるとの見方に変わりはないが、そのペースは鈍化するとみられ、結果としてドルが予想以上に強くなる可能性がある。ドル高になると、新興国の中央銀行は国内景気を刺激するための利下げを行える余裕が小さくなるため、歴史的に新興国市場にとってパフォーマンスの逆風となりやすい。新興国のなかでは、内需主導型経済や長期の構造的成長ストーリーが追い風となっているインドおよびインドネシア、世界的なテクノロジー・アップサイクルへのエクスポージャーが大きい台湾など、特定の国の選好を継続している。
  • 日本株のスコアをマイナスに維持:日本株は、円のボラティリティが高まっていることから、スコアをマイナスに維持している。日本企業が資本・配当面での株主還元を拡大するという同国の構造改革ストーリーについては依然有望視しているが、円のボラティリティの高まりや(世界各国の主要中央銀行のハト派姿勢とは対照的な)日銀のタカ派姿勢が市場センチメントへの逆風となっている。円がより高い水準で安定化すれば、日本株のスコアを引き上げる方針である。
  • コモディティ関連株のスコアをマイナスに維持:経済指標の鈍化とエネルギーの過剰供給から、コモディティ関連株はスコアをマイナスに維持している。同資産クラス内ではスコアの調整を行い、投資家心理が低調な素材株およびエネルギー株のスコアを引き下げる一方、配当利回りの高さがもたらすディフェンシブ性とポジティブな構造的ストーリーを伴っているMLPのスコアを引き上げた。長期的には当該資産クラスがインフレに対して優れた分散投資効果を提供し続けるとの考えに変わりはない。コモディティ関連セクターのファンダメンタルズは、景気循環的にも長期的にも依然有望である。

ディフェンシブ資産

当社では過去12ヵ月間、ソブリン債に対して比較的慎重な見方をしてきており、利下げサイクルが始まった現在も同様の見方を維持している。予想されていた米国経済の鈍化は実現せず、2025年には共和党政権が再び始まることから、当面は米国の経済成長が潜在成長率を上回るとの見通しが続くと予想する。したがって、クレジット物のスコアを引き上げるとともに、デュレーションを戦略的資産配分対比で中立化することにした。今月の本レポートでは、トランプ大統領(当時)が減税・関税第一弾を実施した2017年と2018年における主要債券価格の動向を検証する。

トランプ大統領の復活

共和党が下院も制し、これで議会と大統領府をすべて掌握したことから、法人税の減税案が提出されるものとみられる。減税にトランプ次期大統領お得意の関税が組み合わされば、インフレ見通しは従来の予想以上に高まるだろう。市場ではこれは債券にとってのマイナス材料とみなされ、米大統領選に向けてトランプ候補の勝利する確率が高まるのに伴い、債券は売り込まれた。興味深い点として、トランプ大統領(当時)が法人税減税を提案・実施した2017年には、米国市場に織り込まれた5年のブレークイーブン・インフレ率が上昇した(チャート3参照)。これと同様に、今回共和党が大統領選で勝利すると、ブレークイーブン・インフレ率は9月対比で0.50%上昇した。

チャート3

このような見通しの変化は、減税と関税の組み合わせによってインフレ減速の流れが逆戻りすることを反映しているが、これはインフレ抑制というFRBの仕事を若干やり難くするだろう。パウエルFRB議長は最近の記者会見で、「当面は選挙が我々の政策決定に影響を与えることはない」、「(新政権による)政策変更の時期や内容がわからない」ためFRBとしては金融政策の方向性の変化を推測も想定もしないと述べた。しかし、これは市場の読みとは異なる。大統領選でトランプ候補が勝利する確率が高まると、市場はすぐにフェデラル・ファンド金利の予想を織り込み直し始め、この調整は同氏の勝利が確定した後も続いている。FRBはまだ見解を修正したくはないのかもしれないが、市場は、今やインフレが加速しやすい環境になってきたこと、その結果として高金利が長期化する状況となり得ることを示唆している。

チャート4

ポートフォリオ運用の観点からは、これは債券市場に対する過去2ヵ月間の楽観的な見方を覆し、金利環境に疑問をもたらすものである。当社では依然、FRBが追加利下げを行うとの予想を変えていないが、ターミナル・レート予想はしばらくのあいだ3.50%程度にとどまるとみている。米国債10年物の利回りは予想されるキャッシュ・レートを1.00~2.00%上回る水準で推移しやすいことを考えると、10年債利回りが4.50%を超えて上昇しない限り、ソブリン債市場は投資価値が乏しいと言える。ソブリン債のなかでは欧州を選好している。欧州は、経済成長のペースが鈍くインフレが2%を下回っており、トランプ次期大統領の関税政策によって貿易がさらに打撃を受ける可能性もある。このシナリオは、ECB(欧州中央銀行)の追加利下げ拡大期待の高まりにつながり得る。

ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • 満期の短い投資適格クレジット:信用スプレッドは引き続き適正水準にあるが、多くの国で依然イールドカーブが長短逆転しているため、満期が長めのクレジット物は投資魅力度が相対的に劣る。イールドカーブがスティープ化し始めれば見解を変更していく方針だが、現段階ではイールドカーブの長短逆転が続いていることから、満期の短い投資適格クレジット物の選好を継続する。
  • 金はヘッジとして依然魅力的:金は実質金利の上昇やドル高にもかかわらず底堅さを示しており、地政学的リスクおよびインフレ圧力長期化に対するヘッジとしての有効性を証明している。実質金利が低下すれば金にとって追い風となることから、当社では金への配分を長期債ポジションの代わりとして活用している。
  • デュレーションを長期化:主要国の中央銀行が利下げを始めていることは、世界の債券市場にとって追い風と言える。利下げのタイミングを捉えるのは難しい場合もあるが、引き締め的な金融政策の終了は債券にとって好材料になるとみられる。当社では欧州で積極的に金融緩和が進められると引き続きみており、フランスやイタリアといった国で長めのデュレーション・エクスポージャーを取っている。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:


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