本稿は2024年12月5日発行の英語レポート「Global multi-asset outlook 2025」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
2025年の展望
2024年も過ぎようとしているなか、資産市場のパフォーマンスを中期的に予測することがいかに難しいかを改めて思い知らされている。2024年を迎えたとき、多くの識者は依然として債券市場にとって追い風となる米国の景気後退が訪れると考えていた。しかし、大方の予想に反して景気後退は訪れなかった。それどころか、グローバル株式市場は年初来で約19%上昇しており、一方でグローバル債券市場は1.50%の小幅上昇にとどまっている。先行きの予測は難しいものではあるが、2025年に市場がどのような状況に向かう可能性があるかを分析してみる。現時点において当社マルチアセット・チームが注目しているのは、米国経済が金融政策の緩和や共和党の経済重視路線の効果によって前進し、潜在成長率と同等の成長を続けるという「ノー・ランディング」シナリオである。
トランプ政権2期目:減税、関税、金融緩和
共和党が連邦議会の上下両院を掌握したことで、2025年の米国リスク資産にとって経済面の見通しの明るさが増している。現段階ではまだ共和党の政策目標の全体像はみえていないが、ドナルド・トランプ次期大統領の選挙公約には減税、関税導入、移民制度改革などが含まれていた。トランプ政権1期目では、こうした政策が米国の株式市場と信用スプレッドにプラスに働いたが、債券にはマイナスの影響を与えた。
チャート1は、トランプ政権1期目における主要政策をめぐる動向と米国株式市場のパフォーマンスを示したものである。減税案の発表は市場に非常に好感されたが、関税の導入は市場の低迷を招いた。しかし、中国による報復措置を受けて見通しがより固まると、市場は上昇した。
債券市場では、トランプ政権の政策はあまり好意的に受け止められなかった。関税と減税はともにインフレ要因と市場でみなされ、政策が変更されるなかで名目債券回りとブレークイーブン・インフレ率が上昇した(チャート2参照)。関税と減税はともにインフレ要因と市場でみなされたからだ。
2025年を見据えて、当社マルチアセット・チームでは、共和党の政策案がリスク資産市場に及ぼし得る影響について検討している。また、米FRB(連邦準備制度理事会)や他の中央銀行が政策金利をどこまで引き下げる可能性があるかについても分析している。金融緩和は米国株式市場にとってプラスに働くとみているが、債券市場については、拡張的な財政政策とFF(フェデラル・ファンド)金利の低下が債券利回りに相反する影響を及ぼすなか、やや異なる見通しが浮上すると予想している。
株式市場の見通し:米国、日本、その他
米国では、先日の選挙における「レッド・スウィープ」(大統領職と上下両院の多数派を共和党が占める状態)が米国株式にとってプラスに働くとみている。その理由としては、トランプ次期政権が規制緩和と法人税減税に傾倒していることが挙げられる。テクノロジーや銀行など一部のセクターは、政府規制当局による監視が緩和されることで恩恵を受ける可能性がある。同様に、エネルギーセクターでは、石油・ガス探査の認可が増え、活動が活発化する可能性がある。財政支出増加の見通しは経済成長の加速を示唆し、また、輸入関税の引き上げは国内企業に恩恵をもたらすと見込まれる。こうしたシナリオは、米ドル高と金利高止まり長期化をもたらすかもしれない。
特に欧州と中国に対する輸入関税の引き上げは、米国市場での売上がある両地域の企業が厳しい状況に置かれかねないことを意味する。さらに、欧州と中国の経済指標は依然低調で、企業収益も不振が続いている。ドル相場と逆相関の関係にある新興国市場もアンダーパフォームする可能性が高い。新興国の中央銀行は、米国金利が高止まりするなかで自国通貨を防衛していくときには利下げに動けない可能性があるからだ。こうした見通しを踏まえ、2025年の新興国地域については慎重な見方をしている。
対照的に、日本はドル高の恩恵を唯一受ける国となる可能性がある。日本の大企業の多くは輸出企業であるため、円安は企業収益にプラスに働く。一方で、足元における円相場のボラティリティの高まりは世界の投資家にとって逆風をもたらしており、当社マルチアセット・チームでは、円がより高い水準で安定化すれば日本株の見通しを引き上げる方針である。日本の魅力はバリュエーションだけではない。日本のコーポレート・ガバナンスや株主還元の改善といった中期的な構造改革ストーリーも良好な追い風となっている。
世界の金利:米国と欧州の比較
債券市場は共和党の選挙圧勝を受けて大きく売り込まれたが、足元では比較的妥当と思われる水準に近づいてきているように見受けられる。当面の債券利回りの見通しを判断する上で重要な指標の1つとなるのが、18ヵ月先のキャッシュレートの市場予想と比較して、どのように推移しているかという点である。過去10年間、米国の長期国債利回りは、18ヵ月先FF金利の市場予想を平均60ベーシスポイント(bp)上回る水準で推移してきた(チャート3参照)。したがって、債券市場の「公正価値」を判断する際には、FF金利の着地点となり得る水準を把握することができれば、それが目安になると考えられる。
2025年は、FRBにとって引き締め的な金融政策の必要性が後退しているときに、共和党が拡張的な財政政策案を打ち出すという状況に市場が対応しようとしていく展開になるとみている。トランプ政権2期目では物価上昇圧力が若干強まり、インフレ率が2%台半ばとなってFRBの目標をわずかに上回ると予想する。FRBとしては、そうしたなかでインフレを抑制して2%目標を達成するためには、実質金利を1~1.5%程度のプラスに維持する必要がある。これらの数字をまとめると、FF金利は3.5~4.0%になると予想され、それを受けて米国債10年利回りは4.5~5.0%のレンジで推移するとみられる。
米国以外では、ユーロ圏のインフレ率が2%まで低下していることや、GDP(国内総生産)成長率も1%を下回っていることから、欧州、そしてフランスの国債を選好する。米国のトランプ次期大統領は、特に中国に焦点を置いていることから、世界貿易をより困難にするとともにドル高を招く可能性がある。ドル高が進めば、ECB(欧州中央銀行)は低迷するユーロ圏経済を刺激するべく、米国よりも積極的な利下げに踏み切る可能性がある。ECBがそうした行動に出れば、欧州の債券市場が下支えされると期待される。
ドル/円の高止まりが長期化する環境に
このように金利の高止まりが長期化する環境は、ドルの対円相場を引き続き下支えするとみられる。日銀は利上げを継続する方向だが、そのテンポは市場が予想するFRBの利下げペースに比べるとはるかに遅い。2020年以降、ドル/円は米国債10年利回りと強い相関関係を示してきた(チャート4参照)。米国債10年利回りが4.25~4.75%のレンジで安定する場合、円相場は2023年と同様の水準で概ねレンジ内での推移を続ける可能性がある。
円相場が足元の水準で安定する場合、ドル円のロングポジションを取ることで良好な水準のキャリーがもたらされ、ポートフォリオにもプラスに働くことになる。そうしたポジションは、米国債と米国株式の両方に対する分散効果ももたらす。表1に示すように、債券と株式は正相関の関係にある一方、米ドルはリスク資産や債券と逆相関の関係にある。したがって、マルチアセット・ポートフォリオにとって、米国の金利高という構造は、利回りの上昇とともに資産配分の観点での分散効果という両方のメリットをもたらしている。
債券と株式の相関性:レジーム・シフト(構造変化)
先行き見通しは、マルチアセット・ポートフォリオを構築するにあたって常に重要な要素となる。一方で、相関構造は、最終的な資産配分において大きな役割を果たしている。2022年以降、債券と株式は正相関の関係に転じている。この結果、デュレーションの長期化は株式リスクを分散させるのではなく、むしろ増幅するようになっている。2025年を迎えようとしているなか、我々が導出した共分散行列はこの新しいレジーム(構造)がまだ続いており、ほとんどの債券市場が株式市場と正相関の関係にあることを示している。
このように、債券利回りの見通しを予測し、米国債市場のパフォーマンスのタイミングを計ろうとすることは、常に興味深いものとなり得る。資産配分の観点からみると、我々の定量分析を重視するポートフォリオ構築プロセスにおいては、ポートフォリオのボラティリティを低減するために満期の短いクレジットもの(オーストラリアやカナダなど)、中国債券、金、ドルを選好している。これらの市場セグメントは、米国債などの伝統的な無リスク資産に比べてボラティリティが低く、株式との相関性も低い。
まとめ
総じて、我々の2025年の見通しは比較的明るい。米国共和党の経済重視姿勢に加えて金融政策の緩和がリスク資産、特に米国市場の追い風になると予想する。米国債については、FF金利が3.50%になると長期債の魅力がわずかなものになることから、強気な見方を後退させている。米国以外では、債券市場について比較的明るい見通しを持っているが、トランプ次期大統領の通商政策をめぐる不透明感を考慮し、リスク資産についてはそれほどポジティブな見方をしていない。
当社マルチアセット・チームでは様々な見解を持ちつつも、戦略的資産配分を拠り所として長期的な先行きを見通すことに重きを置いている。中期的にはポートフォリオの柱となるポジションとして、良好なパフォーマンスが見込まれる株式、満期の短いクレジットもの、米ドル、金を選好している。
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