本稿は2024年12月5日発行の英語レポート「Global equity outlook 2025」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
はじめに
インフレの水準、経済成長の行方、消費者や企業部門の信用力、住宅市場、米国債の供給量、数々の選挙、地政学、さらには紛れもない株式市場のバブルなど、2024年における投資家の不安・懸念材料のリストは記憶にないほど長いものであった。2025年は投資環境が少しは良くなるだろうか。その答えは見当がついたかもしれないが、イエスでもありノーでもある。世界全体にわたって経済成長は減速している。金利上昇の影響を受けて、ほとんどの市場では消費者が財布の紐を締めている。一方、欧米の先進国全般にわたって国債の発行が膨らんでいるなか、地政学面の先行き不透明感の高まりを受けて資本の流れがシフトしており、実質金利はその影響を受けやすい状況にある。
これらの問題が重くのしかかっている上、人類の歴史上最も喫緊の課題とも言える気候変動にも直面している。投資家の目の前には不安の壁が立ちはだかっているが、それでも株式市場は前進を続けている。先行きが不透明ななかでも、楽観的な見方をするべき理由は存在する。コンピューティング・プラットフォームは進化を続けており、そのおかげで生産性のさらなる飛躍的向上が目前に迫っているように見受けられる。人工知能(AI)が社会をどのように変えていくかはまだ分からないが、変化があるところには投資家にとってのチャンスもあるものだ。
おそらく、10年以上の時間軸を持つ投資家にとって最大のリスクは、十分に分散投資されたグローバル株式ポートフォリオがもたらし得る機会を逃してしまうことだろう。ある賢明な投資家がかつて言ったように、「市場のタイミングを計るよりも、市場にいる時間の方がはるかに重要」である。今はこの言葉がかつてないほど当てはまるように思える。
2025年に考慮すべき3つの経済ファクター
当社グローバル株式チームはマクロ経済学の専門家ではないが、投資先銘柄が幅広い経済ファクターによる影響を免れないことは認識している。我々にとって、米国の実質金利、中国の動向、AIの設備投資サイクルなどのヘッドラインリスクは重要な検討事項となっている。ただし、2025年が近づくなか、これらの問題の行方は依然不透明だ。
1.米国の金利
厳しい地政学的情勢、貿易障壁、米国債の供給量が膨らむ見通しを考慮すると、今後10年間の実質金利水準は過去10年間よりも高くなるはずであり、つまり経済成長を下支えする力の弱まった金融環境が続くだろうと想定するのが賢明かもしれない。しかし、銀行や保険会社、一部の資本財・サービス企業、もしかするとエネルギー・セクターもこのシナリオ下で収益見通しが相対的に良好な推移をみせる可能性がある。バリュエーションのスタート地点が有利な水準にあることから、これらの業種は業績上方修正に伴って株価が上昇していくと期待される。それがAIブームの失速時に起これば、これらの業種は市場の牽引役となり得る。
2.中国の景気見通し
これまで実施されてきた政策対応は、債務デフレ・サイクルに陥ることを防ぐには不十分であるように見受けられる。我々は引き続き状況を注視しているが、そうした流れの持続的な転換はまだ実現していない。より大胆な財政出動が打ち出されなければ、中国の消費者の高い貯蓄率を変えることはできないだろう。
3.AIの普及
2023年にはAIインフラの開発が急速かつ大規模に進み、我々を含め大勢が驚かされた。狭い範囲のAI関連銘柄の圧倒的優位性は薄れつつあるようだが、なかには力強い成長を実現し続けているものもある。唯一の成長への切符となっていた感のあるAI関連支出は、今や投資対効果の評価がより難しくなっている。ハイパースケーラー各社は好調な業績を達成してきているが、資本負担が重く、後の減価償却もあることから、2025年には利益が伸び悩む企業も出てくる可能性がある。したがって、効果的な銘柄選択がカギになるとみられる。
2025年におけるフューチャー・クオリティ投資展望
2025年にどの銘柄が市場の牽引役となるのかはまだ分からない状況にあり、先行き不透明感も強まり続けている。しかし、唯一確かな点は変化が加速し続けていることである。こうした環境下では、多様な銘柄に投資するポートフォリオが勝つと確信している。当社グローバル株式戦略の組入銘柄のなかでも優れた年初来パフォーマンスを達成している勝ち組銘柄は分散効果を発揮してきており、我々は長期的に成功が見込まれる分野に改めてフォーカスしている。キャッシュフロー投資収益率を維持し伸ばしていくことができる企業に注目していく方針であることに変わりはない。多くの場合、その原動力となるのは競争優位性を生み出す独自の経営戦略である。
当社グローバル株式チームの投資理念の柱の1つは、業界内で市場シェアを拡大していく能力を持った企業を見極めることである。この能力は、マクロ経済面の逆風や業界特有の課題に直面した際に競争力を守るバッファーとなることが多く、そのことは2024年に業績が好調だった一部の保険会社や一般消費財・サービス企業によって実証されている。このテーマに合致する企業を発掘することは、我々が一貫して注力してきた分野である。そのなかでも特にフォーカスしてきたのは、データに基づく知見が治療成果を劇的に変えているとともに、コスト効率向上の原動力となっているヘルスケア・セクターだ。
ヘルスケア・セクターは強弱両様のパフォーマンスを示してきた。それが特に顕著なのが、新型コロナウイルスの世界的大流行時の並外れた需要急増が過ぎ去って苦境に見舞われているライフサイエンス・ツール分野だ(チャート1参照)。2014年から2019年にかけて、これらの企業は科学のイノベーションの進展、そしてアルツハイマー、一部のがん、肥満などの複雑な疾患を対象とした個別化治療の開発を原動力として、好調に右肩上がりの成長を遂げた。新型コロナウイルス流行時には、ワクチンの開発と生産拡大を急ぐ前例のない事態から需要が急増し、成長率とバリュエーションが一時的に大きく押し上げられた。
しかし、2021年から2023年にかけて市場の調整局面が訪れ、バリュエーションがより長期的なトレンドに近い水準へと再修正された。この期間には、同セクターがコロナ前の成長軌道に戻れるかどうか懐疑的な見方も市場で広がっていた。しかし、ヘルスケア業界では引き続きイノベーションや個別化治療が重点分野となっていることから、ライフサイエンス・ツール需要は持続していくとの確信を維持している。このセクターの長期的な成長ドライバーである科学の進歩とヘルスケアソリューション需要の高まりは健在であり、ライフサイエンス・ツール企業は2025年に回復へ向かう準備が十分に整っていると考える。
まとめ
今後15年間において、これまでの15年間と同じ展開が繰り返される可能性は低い。そのなかで投資家の最大の関心事になるとみられるのが実質金利の行方である。我々の最も確度の高い見通しとして、資本コストは世界金融危機以降の異常な低水準から上昇しており、今後も高止まりすることになるとみている。これには、急拡大している財政赤字を賄うために国債の供給量が高水準で推移すると見込まれることや、地政学情勢の影響で貿易が制限されること、エネルギー転換はインフレ圧力を伴うことなどを含め、多くのファクターが影響している。
投資の観点からは、そうした動向に左右されにくい勝ち組を探すことは、真の個別要因によるアルファを発掘する上で常に不可欠な要素であり、今日ではその重要性がかつてないほど高まっている。今後10年ほどの期間において実質金利が実際に上昇するのであれば、投資家にとっては10年後に得られるかもしれない利益への期待よりも、目先の利益の方がより価値が高くなるため、銘柄選択に影響を及ぼすことになるだろう。これは、利益やキャッシュフローも大幅に増加してきているAI関連銘柄がこれほどまで好調に推移している理由かもしれない。それと対照的なのが金利感応度の高いグロース株で、2025年以降の期待収益がまさにその単なる希望的観測にとどまることから、引き続きパフォーマンスが市場全体に後れを取っている。
限定的な成長を特徴とするマクロ経済環境下では、他社と一線を画す収益源、利益率、キャッシュフローを有する企業を見極めることが最重要となる。ボトムアップ・アプローチによる銘柄選択を行う当社グローバル株式チームは、フューチャー・クオリティ投資アイデアに分散投資するポートフォリオを構築・運用している。ますます複雑化するグローバル環境に臨んでいくなか、我々はAI、ヘルスケア、資本財・サービス、ディフェンシブ・グロースなど様々なセクターにわたる豊富な投資アイデアを見出しており、この先の難しい状況に対応してチャンスを掴んでいく体制が十分に整っている。
歴史を通して、株式投資家は長期的な視点、そして人類は逆境に直面しても打ち勝つことができるという楽観的な展望を維持することで利益を得てきた。そして、またしてもそうした状況となる可能性がある。つまり、分散投資されたグローバル株式ポートフォリオを通じて、最もクオリティの高い収益源へのエクスポージャーを持たないことこそが、最大のリスクとなるかもしれない。
当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。