当レポートは、英語による2025年1月30日発行の英語レポート「The Fed takes a leaf from the BOJ’s book and applies gradualism」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。


米FRB(連邦準備制度理事会)は市場の予想通り、1月29日に政策金利を据え置いた。FOMC(連邦公開市場委員会)メンバーは、翌日物金利の誘導目標を4.25~4.5%に据え置くことを全会一致で決定した。しかし、パウエルFRB議長は、金利は依然「中立金利を大きく上回っている」と述べた。これは、FRBがまだ緩和サイクルの終わりを迎えてはおらず、一段の緩和が期待できることを示唆している。ただし、次の利下げがすぐに実施されるとは限らない。「政策スタンスの調整を急ぐ」必要はないというFRBのスタンスは、日本銀行がとっている漸進的な政策アプローチを彷彿とさせる。

確かに、日銀が金融緩和を徐々に引き揚げている一方で、FRBは政策の引き締め度を緩めることで正常化を進めている。しかし、それでも日銀の金利調整のテンポは参考となり得る。2024年に日銀が利上げという形で実施した金利調整は2回にとどまった。同中銀は2025年1月、マイナス金利を解除した2024年3月以来3度目となる利上げを行ったが、そのテンポは緩やかだ。日銀の金融政策発表の大半は、翌日物金利の調整よりも政策ガイダンスの提供に焦点が当てられている。

FOMCは2つの使命を担っている。インフレ期待(延いては将来のインフレ)を安定させること、そしてインフレを誘発することなく雇用を「完全」に近い状態とすることだ。後者について、FRBは、失業率が当初は上昇したもののその後「安定した」と評価するとともに、労働市場を「底堅い」と見なしており、これらがFRBの様子見スタンスを正当化している。さらに、FRBの声明によると、インフレは「幾分高止まり」している。また、注目すべき点として、FOMCの「2%目標」に向けてインフレ鈍化が「前進」していたことへの言及が、声明から削除されている。

次の展開をめぐる不透明感がもたらすのはインフレなどにおける両面のリスク

FRBの目指す方向性が依然として金融引き締めの解除にあることに留意しながらも、潜在的リスクを忘れないようにする必要がある。そのリスクには、インフレが予想以上の根強さを見せた場合、利下げ回数が予想されたよりも減ることも含まれ得る。しかし一方で、景気が予想外に悪化すれば、FRBは対応として利下げを予想よりも前倒ししたり、予想よりも多い回数や大きな幅で行ったりする可能性もある。貿易関税がもたらすインフレ加速への影響は不透明感を伴うが、上振れリスクとなるには時間のかかる可能性が高い。関税が実際に実施されるのを待つ必要があるのに加え、近年実施された関税が消費に打撃を与えるにあたりタイムラグが認められるからだ。とりあえずのところ、実際のコア・インフレがFRBの目標である2%を依然上回っているなか、FRBが引き締め政策を徐々に緩和していく姿勢を維持しながらも潜在的なインフレ・リスクに対して無頓着になっているわけではないことを示すのは、妥当と言えるだろう。

季節的な「反動」が例年より大きい可能性があるため利下げの選択肢は残る

FRBはインフレ・リスクへの警戒を続けているが、継続的なインフレ減速に寄与している要因もある。その一例として挙げられるのが帰属家賃(実際には家賃の支払いが生じない自己所有住宅について、その住宅サービスを市場家賃で評価し計算したもの)の安定化で、当初の上昇が以来鈍化している賃貸料の動きに対して調整が遅れている。もちろん、FRBに今月の金利据え置きを促したかもしれない要因の1つは、クリスマス・シーズンの消費・雇用のペースが特に活発であったことにあったとも考えられる。2024年12月のコア小売売上高(季節変動の大きい自動車、ガソリン、外食、建設資材を除いた小売売上高)は、市場予想を大きく上回った。

しかし、季節的な傾向として、年の第1四半期はクリスマス・シーズンの後で納税時期を控えていることから、景気が鈍化を示しやすい。様子見とすべき理由の1つは、クリスマス・シーズンの消費が市場予想を過度に上回った可能性があることだ。もしそうであれば、特に金融市場の好況が季節的支出の奮発に大きく寄与していた場合、その反動として2025年における消費の落ち込みはより深刻なものになるかもしれない。

資産効果による支出拡大の余波は、季節的な景気減速を悪化させる可能性がある。投資所得にかかる税金は普通、給与所得とは異なり毎月の源泉徴収による「平滑化」効果がないからだ。家計は通常、投資所得に対する税金を年度末(今頃から4月初旬にかけて)に支払う。2024年の投資ポートフォリオの実現益に対する税金は高額になる可能性があり、他の条件がすべて同じであれば、税務申告時期を控えた一時的な消費抑制の波は例年よりも大きなものとなり得る。そのような状況が現実化し消費軟化の影響が雇用と物価の両方に及べば、2025年第1四半期中に追加利下げを行う条件が十分に整うかもしれない。そのような動きが現実化した場合、FRBは理論的に「中立」金利へと一層近づくことになるだろう。

「中立」政策はそこに辿り着いて初めてわかるのかも

中央銀行が繰り返し市場に伝えようとしているように、金利が「中立」に近づくにつれ、「中立金利」を見極めようとするプロセスに入るため、金利の調整は自然と緩やかになるはずだ。1、2回の利下げでFRBが「中立金利」に達するか、それともこの概念的金利がさらに低いものになるかは、事後的に判断される可能性が高い。「自然利子率」に影響を与える重要な(そして変動性が高い)要素の1つは、長期のインフレ期待である。FRBは長期インフレ期待が依然「落ち着いている」と指摘しているが、インフレ期待がFRBの目標である2%かその近辺にあることを示す指標はほとんどなく、インフレ期待が本当に鈍化し続けるかどうかはまだわからない。インフレ期待が鈍化しなければ、現在の「中立」金利はインフレ期待が持続的に低水準にとどまった過去のサイクルよりも高くなる可能性がある。インフレ期待がまだ流動的であることも、FRBが政策調整のタイミングに慎重な姿勢を維持している理由だろう。これもまた、(金利正常化の方向性は正反対であるものの)日銀の漸進主義的な金利正常化方針を彷彿とさせる。


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