本稿は2025年2月21日発行の英語レポート「On the ground in Asia」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

アジア現地通貨建て国債は良好なパフォーマンスを示し、キャリーリターンがアジア・クレジットのパフォーマンスのドライバーになると予想


サマリー

  • 米国債市場は、供給圧力が大幅に高まり利回りが上昇するなか、2025年は低調な出だしとなった。その後、米国の2024年12月の総合CPI(消費者物価指数)上昇率が市場予想通りとなる一方、コアCPI上昇率が市場予想を若干下回ったことを受けて、米国債利回りは低下した。米FRB(連邦準備制度理事会)は3会合連続で利下げを実施した後、月末に政策金利を据え置いた。月末の利回り水準は2年物の指標銘柄で前月末比0.044%低下の4.20%、10年物の指標銘柄で同0.031%低下の4.54%となった。
  • アジア域内では、インドネシアが経済成長を優先するべく、市場の予想外に利下げに踏み切った。シンガポールも、2020年以来となる金融政策スタンスの緩和を実施した。域内の12月の総合インフレ率はまちまちとなり、タイやインドネシア、フィリピンでインフレ圧力が高まる一方、中国やインド、マレーシアでは和らいだ。
  • 市場のボラティリティが低下するなか、アジアの現地通貨建て債券は2025年に良好なパフォーマンスをみせられる状況にあると予想する。アジアの現地通貨建て債券は、抑制されたインフレと緩慢な経済成長という環境のなかで、中央銀行の緩和的な政策に支えられるだろう。アジア域内では、マレーシア、インドネシア、フィリピンなどキャリー水準が高めの債券への投資意欲が、域内の他の債券市場と比べて旺盛さを維持するとみている。
  • 1月のアジア・クレジット市場は、信用スプレッドが0.016%拡大したものの、米国債利回りが低下したことを受けてリターンが0.46%となった。格付け別では、米国債が上昇するなか投資適格債はスプレッドが0.012%縮小して月間市場リターンが0.52%となり、ハイイールド債をアウトパフォームした。ハイイールド債は、スプレッドが0.13%拡大したものの、月間市場リターンは0.08%となった。
  • 関税引き上げの脅威や米国の政策変更の影響が見込まれる一部のセクターや特定の銘柄を除き、アジアの企業や銀行の信用ファンダメンタルズは良好なマクロ環境を背景に底堅く推移するとみている。全体として、収益は伸びが緩やかになるものの健全な水準を維持し、利益率は投入コストの低下を受けて安定的に推移する可能性がある。ハイイールド債分野でクオリティの低いクレジットが淘汰されていることから、アジア・クレジットのデフォルト率は低下傾向を辿ると予想している。また、投資適格債分野では、投資適格級未満に格下げされるフォールンエンジェル銘柄の割合が低下するだろう。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

FRBは足元の利下げを一時停止
米国債市場は、供給圧力が大幅に高まり利回りが上昇するなか、2025年は低調な出だしとなった。米国の雇用統計が堅調となったことを受けて、市場でFRBの追加利下げ観測が大幅に見直されると、利回りはさらに上昇した。その後、米国の2024年12月の総合CPI上昇率が市場予想通りとなる一方、コアCPI上昇率が市場予想を若干下回ると米国債利回りは低下に転じた。ドナルド・トランプ米国大統領の就任演説で政策がある程度明確になり、特に差し迫った関税について言及されなかったことを受けて、利回りは一段と低下した。FRBは3会合連続で利下げを実施した後、月末に政策金利を据え置いた。注目すべき点として、会合後のFRBの声明では、労働市場についてより楽観的な見方が示された。またFRBは、インフレが目標に向けて進んでいることを認める主な文言を2024年12月の声明から除外した。月末の利回り水準は、2年物の指標銘柄で前月末比0.044%低下の4.20%、10年物の指標銘柄で同0.031%低下の4.54%となった。

チャート1

インドネシアの中央銀行は政策金利を引き下げ、MASは金融政策を緩和
インドネシアの中央銀行は、インドネシアルピアを安定させるために金融政策設定を維持するとの市場予想に反して、経済成長の下支えを優先するべく政策金利を1月に0.25%引き下げて5.75%とした。同中銀は2025年の経済成長率予想について、輸出の低迷、家計消費の落ち込み、民間投資の抑制などの問題を挙げ、従来の4.8~5.6%から下方修正し、足元で4.7~5.5%と予想している。同中銀のペリー・ワルジヨ総裁によると、2024年の経済成長率は、内需の低迷を主因に4.7~5.5%の範囲の中央値を若干下回ると予想されている。

シンガポールでは、MAS(シンガポール金融通貨庁)が約5年ぶりに金融緩和を実施し、SGDNEER(シンガポールドル名目実効為替レート)の政策バンドについて、その幅および中心値を据え置く一方で傾きをやや緩やかにすると発表した。また、世界経済の不透明感が強まっていることを強調し、その主因は貿易政策の摩擦が高まるとの予想によるものであり、経済成長は2025年に減速するとの見方を示したが、2025年のGDP成長率予想については1~3%に据え置いた。MASは2025年のインフレ率について、総合インフレ率予想を1.5~2.5%に維持する一方、コアインフレ率予想のレンジを従来の1.5~2.5%から1~2%へと下方修正した。

対照的に、韓国とマレーシアの中央銀行は、政策金利をそれぞれ据え置いた。マレーシアの中央銀行は、先進諸国との金利差縮小が、マレーシアリンギットにプラスに働いていると強調した。同中銀は、世界の政策の不透明感が市場のボラティリティを高める可能性があるものの、リンギットは良好な経済見通しや国内の構造改革、資本フローを押し上げる取り組みが引き続き下支えになっていると述べた。一方、韓国の中央銀行は政策金利維持の決定に伴う声明で、輸出の低迷や消費者心理の悪化を受けて2025年の経済成長は従来予想を下回る可能性があるとした。同中銀の李昌鏞総裁は、政策金利据え置きの決定は韓国ウォンの下支えも目的としていると述べた。また、理事会メンバー7名のうち6名は、今後3ヵ月以内の追加利下げに前向きな姿勢であると付け加えた。

アジア地域の12月の総合CPIはまちまち
アジア地域の2024年12月の総合CPIはまちまちとなった。インフレ圧力は、タイやインドネシア、フィリピンで高まる一方、シンガポールでは横ばいとなり、中国やインド、マレーシアで和らいだ。

タイの12月の総合インフレ率は、生鮮食品およびエネルギー価格の上昇を受けて前年同月比1.23%となり、前月の同0.95%から加速して、2024年5月以来初めて中央銀行の目標レンジに戻った。フィリピンの12月の総合CPIは、住宅費や水道、光熱費、燃料価格の上昇加速が一因となり、前年同月比2.9%と前月の同2.5%から加速した。シンガポールの総合インフレ率は、民間輸送費の下落が鈍化する一方、コアインフレや住居費の上昇が減速したことから前年同月比1.6%と伸びが前月と同水準となったものの、市場予想の同1.5%を若干上回った。その他、12月のマレーシアの総合CPIは、健康関連、通信、娯楽・文化、その他のカテゴリーにおける物価の上昇鈍化などを受けて、前年同月比1.7%と前月の同1.8%から小幅に減速した。

第4四半期の経済成長はシンガポール、韓国、マレーシアで減速
シンガポールの2024年第4四半期の経済成長率(速報値)は前年同期比4.3%となり、前四半期の同5.4%から減速した。2024年通年のGDP成長率は4.0%となり、2023年の1.1%を大きく上回った。同様に、マレーシアの第4四半期の経済成長は失速し、GDP成長率は前年同期比4.8%と市場予想の同5.2%を下回るとともに前四半期の同5.3%から鈍化した。2024年通年の経済成長率は5.1%と政府の予想レンジ内となり、2023年の3.6%を上回った。また、韓国の2024年第4四半期の経済成長率は、消費の低迷や建設セクターの鈍化を主因に前年同期比1.2%となり、前四半期の同1.5%から減速するとともに市場予想の同1.4%を下回った。通年のGDP成長率は2.0%に達し、2023年の1.4%から改善した。

中国の第4四半期のGDP成長率は前年同期比5.4%となり、前四半期の同4.6%から加速するとともに市場予想を上回った。2024年通年の実質GDP成長率は5%に達して政府の目標を達成したが、2023年の5.2%からは減速した。政策当局は年間の経済成長の主因は投資や輸出の増加であり、これが消費の低迷を相殺したとの見方を示した。一方、フィリピンの第4四半期の経済成長率は前年同期比5.2%と着実な成長を維持し、前四半期と同水準となった。しかし通年の成長率は5.6%となり、政府の目標を下回った。

今後の見通し

キャリーが高めの債券を引き続き有望視
市場のボラティリティが低下するなか、当社ではアジアの現地通貨建て国債は2025年に良好なパフォーマンスをみせられる状況にあると予想している。インフレが落ち着き、経済成長が緩慢となる環境で、中央銀行の緩和的なスタンスがアジア現地通貨建て国債の下支えになるだろう。進行中の世界的な金融緩和サイクルによって世界の利回りは低下し、アジア債券市場の追い風になると予想される。さらに、米国からの関税の脅威も見込まれるなか、中期的に世界の経済成長は鈍化するとみており、このシナリオは債券市場全般を下支えする可能性がある。アジア域内では、マレーシア、インド、インドネシア、フィリピンなどのキャリー水準が高めの債券への投資意欲が、域内の他の市場と比べて旺盛さを維持するだろう。

トランプ政権を取り巻く不確実性があるなか、当面はアジア通貨全般に慎重な見方を維持している。しかし、アジア地域の強い経済ファンダメンタルズがその影響を緩和するとみており、なかでもマレーシアリンギットに対して明るい見方をしている。

アジアのクレジット市場

市場環境

年初のアジア投資適格クレジットは好調
2025年1月のアジア・クレジット市場は、信用スプレッドが0.016%拡大したものの、米国債利回りが低下したことを受けて月間リターンが0.46%となった。米国債が上昇するなか、格付け別では投資適格債のスプレッドが0.012%縮小して月間市場リターンが0.52%となり、ハイイールド債をアウトパフォームした。ハイイールド債は、スプレッドが0.13%拡大するなかでも月間市場リターンは0.08%となった。

1月のアジアの信用スプレッドは、米国債のボラティリティが高まるとともに発行市場の活動が活発となったにもかかわらず、概ねレンジ内で推移した。しかし、投資適格債とハイイールド債のパフォーマンスはまちまちとなり、投資適格クレジットは良好な需給環境を受けてほぼ横ばいとなったものの、ハイイールド債は香港の不動産セクターに対するネガティブなセンチメントが主因となり、月の後半に特に低調となった。香港の大手デベロッパーの状況や再編の可能性に対する懸念を受けて、香港の不動産セクターのクレジットは大きく低迷し、香港の銀行分野のクレジットものはスプレッドが拡大した。中国の不動産クレジット市場は、ある中国の大手デベロッパーの流動性をめぐる懸念が強まったことや同社のCEOが逮捕されたと報じられたことを受けて、月の前半に下落した。しかし、その後政府が支援を提供する可能性が示され、回復をみせた。

国・地域別でみると、1月はインド、インドネシア、マカオ、シンガポール、韓国、台湾で信用スプレッドが縮小する一方、中国、香港、マレーシア、タイ、フィリピンでスプレッドが拡大した。特筆すべき点として、インドのAdani groupの上昇が、インドのクレジット市場のパフォーマンスをけん引した。

1月は発行市場の活動が活発化
発行市場は昨年12月に閑散となった後、2025年序盤は起債が大幅に増加して発行総額は268億米ドルに達した。投資適格債分野では32件(総額245億米ドル)もの新規発行があり、その大部分はソブリンおよび準ソブリン発行体からのものとなった。主なものとして、Airport Authority Hong Kongの大型ディール(3トランシェで41.5億米ドル)、韓国輸出入銀行のディール(4トランシェで総額30億米ドル)、韓国産業銀行のディール(3トランシェで30億米ドル)、Standard Chartered PLCのディール(3トランシェで25億米ドル)、フィリピンのソブリン債のディール(2トランシェで総額22.5億米ドル)、インドネシアのソブリン債のディール(2トランシェで総額20億米ドル)などがあった。一方、ハイイールド債分野の新規発行は計6件(総額23億米ドル)となった。

チャート2

今後の見通し

アジア・クレジット市場は利回りが依然魅力的、スプレッドはレンジ圏で推移し、キャリーがリターンドライバーに
アジア・クレジット市場のファンダメンタルズは2025年も堅調を維持するとみている。中国は、経済のリバランスに向けた取り組みを続けながら、米国の関税リスクによる厳しい外部環境の影響を緩和し、経済成長全般を安定化させるために、より緩和的な政策を採用するとみられる。中国以外のアジア諸国のマクロ経済ファンダメンタルズは、輸出の伸びが圧迫されると見込まれるなか、2024年にみられた良好な水準に比べるとやや弱まる可能性があるものの、概して底堅さを維持するだろう。アジア諸国の中央銀行には、内需の下支えに向けた金融政策の緩和余地が十分にある。

良好なマクロ経済環境を背景に、関税引き上げの脅威や米国の政策変更の影響を受ける可能性のある一部のセクターや特定の銘柄を除き、アジアの企業や銀行の信用ファンダメンタルズも底堅く推移するとみている。全体として、収益の伸びは緩やかながらも健全な水準を維持し、利益率は投入コストの低下を受けて安定的に推移する可能性がある。アジアの大半の企業や銀行は、強固な財務基盤と十分な格付けバッファーを備えた状態で2025年をスタートしたとみている。アジアのハイイールド債分野ではクオリティの低いクレジットが淘汰されており、デフォルト率は2025年に低下すると予想している。また、アジアの投資適格債分野では、投資適格級未満に格下げされるフォールンエンジェル銘柄の割合が低下するだろう。

2025年のアジア・クレジット分野では、米国債利回りの低下を受けてオフショア債とオンショア債の間の資金調達コストの差が縮小するなか、総供給量が過去2年間に比べて増加するとみている。また、定期的に起債を行っている多くの発行体が、長期的なプレゼンスを維持するために米ドル建て債券市場での借り換えを望む可能性もある。しかし、償還が引き続き高水準で推移しており、正味供給量は抑制される可能性が高い。また、オールイン利回りが引き続き高水準にあることから、アジア域内の投資家からの需要は底堅く推移するとみている。

信用スプレッドは歴史的にみてもタイトな水準にあるが、マクロ経済や企業の信用ファンダメンタルズによる追い風に加え、需給動向も良好であることを受けて、2025年はスプレッドが概ねレンジ圏での推移を続けると予想される。BBB格とBB格に跨るクロスオーバー・クレジット分野については、スプレッドが200ベーシスポイント台前半から半ばで取引されており、慎重ながらも楽観的な見方を維持し選好している。2025年はキャリーがアジア・クレジット市場の主要なリターンドライバーになるだろう。


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