本稿は、2024年12月2日発行の英語レポート「Future Quality Insights: pandemic memories and ongoing impact on companies」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

2025年2月


新型コロナウイルス感染症の世界的大流行時に他の多くの家庭もそうだったように、我が家にも新しい住人が仲間入りした。ふわふわの子犬、名前は「ベンジー」だ(右写真)。長男が巣立つことになったので、恥知らずのようではあるがその代わりに犬を飼うことにした。家のどこにいても息子のジェイミーが私たちの後をついて回り、食べ物をねだっていたというわけではないが(少なくとも、いつもそうだったわけではないが)、彼が大学進学でいなくなったときに家中が静かになったと感じたが、コロナ禍を受けたロックダウン(都市封鎖)時にはその感覚がさらに強まった。多くの人がそうであるように、与えてくれる安心感や忠誠心、愛情に我々も癒された。犬を飼っている人ならよく分かるだろう。

この話が投資レポートとどのような関連性があるのかと不思議に思っている人は、ベンジーがもう4歳になろうとしていることに注目してみるとよいかもしれない。心はまだ子犬だが、思春期を経験して人間だと20代に相当する年齢に差し掛かっている。今が全盛期だが、それもそう長くは続かない。あと2、3年もすれば、ロックダウン中に飼われ始めた世界中の何百万匹ものペットが中年期に入る。一定の年齢に達した人間なら重々承知だろうが、医療費がかさみ始める時期だ。

つまり、かつてないペット医療ブームが到来すると考えられる(筆者の息子も獣医学のような実用的な勉強をしていればよかったのだが)。この来るブームは獣医師に恩恵をもたらすだけでなく、我々が最近リサーチを強化してきた動物用医薬品業界の企業にもチャンスをもたらすとみられる。

当社グローバル株式チームでは、こうしたコロナ禍とペット医療の間のつながりをきっかけとして、コロナ関連の需要サイクルの影響を受けた他の業界についても考察してみることにし、それが現在どのように明らかになってきている可能性があるか、また長期投資の機会を生み出しているのかを検討した。

そのなかで最初に気づかされたのは、人間の記憶にはコロナ関連のサイクルのことが鮮明に残っており、それが妨げとなって過去のある部分を思い出し難くなっているように感じられることだ。前からそうした傾向はあったのかもしれないが、それもあまり思い出すことができない。私たちはこの20年間、記憶するという行為を一貫してGoogleに任せてきたのだろうか。筆者の場合、ほぼ間違いなくそうである。私たちは想像するという行為をAIに任せようとしているのだろうか。これについても、おそらくそうなるだろうとみられる。

心理学者が証明しているように、株式投資がうまくいかなかったときの苦しみなど、私たちは感情と紐づいた出来事を記憶しているものだ。では、なぜ新型コロナウイルス大流行時の詳細な状況を思い出すのがこれほどまでに難しいのだろうか。私たちの人生のうちのほぼ2年間を大混乱に陥れた出来事であったにもかかわらず、いつ何が起こったのかを正確に思い出すのに苦労している。一説によると、コロナ禍の間、私たちは死者数、ロックダウンの規則、自由の制限などに関する状況が日々変わるストレスの多い生活を送るなか、感情を処理しきれない状況に陥っていた。そうした大変な状況に直面した場合は単純に忘れてしまう方がずっと楽なのだということらしい。

Googleの助けと少しChat GPTの力を借りることで、この厄介な歴史の断片をつなぎ合わせ、最も影響を受けた業界を思い出すことも可能になる。というわけで、ロックダウン中に私たちが行った、あるいは目にした動向の上位10位程度をなんとかして(網羅的ではないが)リストにしたので、ここで紹介する。神経質な性格で、まだ忘れておきたい人は遠慮なく目をそらしてほしい。紹介用の音楽はベンジーにお願いしよう。

まずは、より多く目にするようになったもの…

  1. ビデオゲーム、そしてデジタルメディア消費の増加
  2. オンラインショッピング/生活必需品の争奪戦(トイレットペーパー戦争を覚えているだろうか)/デジタル決済
  3. 在宅勤務/ビデオコミュニケーション
  4. 住宅リフォーム
  5. ホーム・フィットネス・ワークアウト
  6. アウトドアレジャー(ゴルフ、ランニング、冷水での水泳)
  7. ペット飼育
  8. 自炊/ミールキット
  9. アスレジャー
  10. ビットコインと赤字のグロース株への投資
  11. 医薬品・ワクチン開発支出の増加

そして、あまりしなくなったこと…

  1. 旅行
  2. 現金決済
  3. 外食/交流を深める機会
  4. 握手
  5. ネクタイ着用

上記の例は、ややのんきな内容で、人々の体験談の域を出ないものであるようにみえるかもしれないが、こうした需要サイクルの結末がまだ実感されているケースは多数存在する。その例としてNestleのマーク・シュナイダーCEOの退任や、最近ではStarbucksのラクスマン・ナラシムハンCEOの退任などが挙げられる。両氏とも多国籍消費者ブランドのリーダーであったが、物価動向が不安定に推移し、消費者の嗜好の変化も進んだコロナ後の世界への適応に苦しんだ。

実際、こうした問題に苦しんでいる消費者向け企業は枚挙にいとまがない。Diageo、Remy Cointreau、LVMH、L’Oreal、Estee Lauder、Burberry、Kerry Group、Keringなどはそのほんの一部の例だが、いずれもコロナ後に株価の急反落に見舞われている。好循環が悪循環に転じたこれらの企業はおそらく回復していくだろうが、それまで成功を収めてきた実績のある有能な経営者が退任に追い込まれている状況は、循環的なトレンドと構造的な変化の見極めがいかに難しいかを示している。

こうした消費者向け産業は典型的なロングテール型の在庫サイクルを進んでいく可能性が高い。Diageoの場合、我々を含め投資家は、コロナ禍下での経済活動再開段階における高級品、化粧品、蒸留酒の需要動向を過度に楽観するようになっていた。景気刺激策を原動力として需要の拡大が加速していたところに、在庫補充の動きを受けて一段と需要が押し上げられた状況にあったのだが、投資家はそれを循環的なものではなく構造的なシフトと勘違いしたようだ。現在、その巻き戻しが起こり始めている可能性がある。金融施策の引き締めが消費に打撃を与え、在庫調整局面が始まった。需要減退、在庫圧縮の動き、バリュエーションの低下は、魅力的な長期投資機会をもたらしている可能性もあるが、(このコロナ後の世界では不足している美徳である)忍耐が必要になるかもしれない。

1990年代にITバブルで沸くなか後塵を拝していた企業が2000年代前半を代表する銘柄として台頭したように、こうした消費者向け企業は立ち直る可能性が高いとみられる。息を吹き返す可能性がある業界の1つがビデオゲームだ。コロナ禍をきっかけにゲームブームが訪れたが、コロナ後は成長率が自然と鈍化した。例えばSonyは、ゲーム事業部門の営業利益率が10%超からわずか5%に低下し、日本株市場が大きく上昇したなかでも株価が低迷した。しかし、Sonyの最近の業績が示すように現在は需要が回復しつつあり、ゲーム事業部門の営業利益率も14%に迫っている。ゲーム需要の回復をさらに裏付ける動きとして、Tencentのゲーム事業部門やスポーツ関連ソフトウェアメーカーElectronic Artsが発表した決算も好調な結果を示している。いかなるサイクルもやがて反転するということを忘れてはならない。

医療機器分野もまた、コロナ禍のもとで活況を呈したものの、ここ数年はコロナ後の急激な失速に見舞われている業界である。コロナ禍のなかで私たちが酒を飲み、贅沢品を買い、ビデオゲームで遊ぶのに忙しかった一方で、製薬業界やバイオテクノロジー業界は記録的水準にのぼる多額の資金を費やして新薬開発を進めていた。そうしたなか、これらの新治療薬の発見や生産に用いられる機器は過剰在庫状態となった。DanaherやBio-techneといった企業は、主要最終市場における在庫水準の高止まりや需要の鈍化への対処に苦戦してきた。幸いにも、こうした傾向は曲がり角を迎えている様子で、業界全体の受注と出荷が加速している。この変化は、当社グローバル株式戦略の投資先企業にとって歓迎すべきニュースとなっている。まさに忍耐は美徳であるようだ。

最後に、コロナ禍によって最も影響を受けた政治についても言及しておかなければならないだろう。大統領時代には新型コロナウイルス感染症は漂白剤を飲めば撃退できると示唆し、今回の選挙運動中でもある地域の住民が隣人のペットを食べていると言い出した候補者が、どうやって大統領に再当選することができたのかは説明し難い(ベンジーには、ソファの下から出てきても安全になったら知らせるつもりだ)。コロナ禍の影響で誰もが忘れっぽくなったことも一役買ったかもしれないが、米国の政治環境の変化においては、インフレが低所得世帯の実質所得に与えた影響の方がより関係しているかもしれない。おそらく近年では初めて、共和党は裕福でない有権者の過半数の支持を集める結果となった。民主党にとっては過去4年間を振り返り反省させられる深刻な事態となっている。

米国大統領選挙後の世界の見通しは依然として不透明だ。真の「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」政策が進められれば、その影響は広範囲に及ぶ可能性がある。一方で、そうした政策がもたらすテールリスクは、デフレ方向ではなくインフレ方向のものであるように見受けられる。したがって、当社グローバル株式チームでは、資本コストが以前の予想より高くなる可能性のある環境下でも成長が期待される、クオリティの高い企業に分散投資するグローバル株式ポートフォリオを投資家は追求していくべきであるとこれまで以上に強く感じている。コロナ禍で誰もが経験してきたことによって、そうしたアプローチの有効性を再認識させられている。


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