当レポートは、英語による2025年3月28日発行の英語レポート「Sustaining the future: the ongoing case for sustainable bonds」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

ドナルド・トランプ氏が米国大統領に返り咲いて以来、事態は波乱に満ちていると言っても過言ではないだろう。世界秩序を根底から覆しかねない「トランプ関税」の実施に加え、新政権は陣頭指揮を執ってサステナビリティの取り組みをリセットしており、それが政府レベルでも企業レベルでも展開されている。今年初め、株主からの圧力を受けたBlackRockは、自主的な取り組みであるNZAM(ネット・ゼロ・アセット・マネージャーズ)・イニシアチブから直近離脱した大手資産運用会社の1つとなった。これに続き、(Goldman Sachs、Morgan Stanley、JPMorganを含む)米国の大手銀行6行がネット・ゼロ・バンキング・アライアンスから脱退した。

米国では少なくとも今後4年間はサステナビリティが支持されないとみられるなか、サステナブルボンドをはじめとするサステナブル投資は不利になると考えたくなる。しかし、米国は方向転換しているものの、サステナブルボンド、特にグリーンボンドを支えているファンダメンタルズは、当該資産クラスの追い風となっている世界的な機運を受けて力強さを維持すると考える。

一世一代のチャンスか

まず、債券そのものの投資魅力が高い。純粋にリターンの観点からして、債券利回りは過去20年近く見られなかった水準にある。これが重要なのは、債券の利回りが向こう3~5年の期待リターンを概ね決定づける要因であるからで、株式市場では得てして見出すのが難しい一定の予測可能性を投資家に提供してくれる。現在予測されるリターンを過去の債券利回り水準と比較すると、債券は今日の不透明な環境において魅力的な選択肢と言える。

さらに、グローバル・サステナブルボンド市場に鈍化の兆しはなく、発行総額は今や5兆米ドルを超えている。この数字には、政府や国際機関からモーゲージ担保証券や地方債まで、幅広い発行体が含まれている。このような市場の厚みは、投資家がグローバル債券インデックスに密接に連動するような分散性の高いポートフォリオを構築できるようになったことを意味し、投資の選択肢が限られたり流動性が制限されたりするのではとの懸念が軽減する。

米ドルはここ数年、他国との金利差と米FRB(連邦準備制度理事会)による積極的な金融引き締めを受けて上昇してきたが、マクロ経済情勢の変化は反転が迫っていることを示唆している。インフレ減速と利下げの可能性が視野に入るなか、バリュエーションが過去に比べて高水準にある米国資産からは資金の流出が進み、ドル安をもたらし得る。米国における財政赤字の拡大、国債発行の増加、政治面の不透明感もドルの安定をさらに脅かす材料であり、トランプ政権1期目の2017年のドル安を彷彿とさせる。ユーロ中心で構成されるサステナビリティボンド特化型インデックスは、通貨別構成においてユーロ建て債券が大きな部分を占めることから、ドル安が長引けば、ドル建て資産よりもユーロ建て資産が多いという構造が有利に作用し、伝統的な債券インデックスをアウトパフォームする可能性がある。

そしてもちろん、サステナブルボンド市場の成長・成熟に伴い、投資家が他の債券資産よりもサステナブルボンドを選択するにあたって支払いを想定されてきたプレミアム「グリーニアム」に対する懸念は後退してきた。市場で見られている利回り格差は数ベーシスポイントと僅かであり、為替リスクやデュレーション・エクスポージャーなど他の要因がパフォーマンスに与える影響の方がはるかに大きい。実際のところ、グリーンボンドはリターンという点では今や従来の債券とほぼ同様の動きを見せており、iBoxxグリーン・ソーシャル・サステナビリティ・ボンド・インデックスのパフォーマンスは、ブルームバーグ・グローバル総合債券インデックスなど債券市場全体のベンチマークと同水準にある。これは極めて重要な変化で、投資家はもはやサステナビリティと競争力のある金銭的リターンのいずれかを選択する必要はなく、金銭的リターンを得ながら社会にプラスの影響を与えられることを示している。

米国がサステナビリティで後退する一方、他の国は強化

米国の新政権は、サステナビリティに対して否定的な言動を発するとともに、(またしても)パリ協定からの離脱を決定しバイデン政権時代のグリーン化への取り組みを後退させているものの、当社では、この政策シフトが世界のサステナブルボンド市場に大きな影響を与える可能性は低いとみている。結局のところ、歴史的に見て、米国国内の発行体がサステナブルボンドの発行において果たしてきた役割は極めて小さい。例えば、企業によるラベル付きグリーンボンド(環境問題の解決を目的とするプロジェクトの資金調達のために発行される債券)やICMA(国際資本市場協会)原則適合債券の発行は、市場全体から見ればほとんどないに等しい。米国に関連するグリーンボンド発行の主な供給源は、ファニーメイ(連邦住宅抵当公庫)のグリーン・モーゲージ担保証券とLEED認証(環境に配慮した建物に与えられる認証制度)物件の商業用モーゲージ担保証券である。それ以外では、主要な発行体は依然として世界銀行や米州開発銀行(いずれも本部はワシントンにあるが複数の国に支えられている)のような国際機関である。これらの機関は米国政府の直接管理下にないため、米国の国内政策の変更から影響を受けにくい。

市場全体で見ると、サステナブルボンドは発行の大半が米国外で行われているため、米国の政権交代によってサステナブルボンド市場が混乱するという懸念は根拠がないように見受けられる。2025年のグリーンボンドの発行額は2月半ば時点ですでに1,280億米ドルに達しており、年末までに1.1兆米ドルを超える勢いとなっている。米国の参加が増せばこの市場はさらに拡大し得るのは確かだが、米国が不在だからといって全体の成長が妨げられているわけではない。

欧州諸国では規制に対する見方が進化

興味深いことに、米国の政治面の変化は、EU(欧州連合)内でサステナビリティ規制遵守の複雑さとコストに関する議論を呼び起こすという予期せぬ効果をもたらしている模様だ。フランス、ドイツ、デンマークといった国々からは、ESG(環境・社会・ガバナンス)報告に関する多大な要件がEUの競争力を低下させているという懸念が提起されている。このような規制の簡素化を求める動きの大元となったのは、2024年9月に発表された「EUの競争力に関するドラギ・レポート(The Draghi report on EU competitiveness)」で、EUの競争力を維持するために規制の簡素化を求めたこの報告書は、規制要件の削減・統合を目的とするオムニバス規制のアイデアにつながった。フランスやドイツなどの国々は、企業負担への懸念を理由として、この取り組みへの支持を公に表明している。EUがグリーンウォッシング(うわべだけの欺瞞的な環境訴求)の防止と企業にとって実行可能な枠組みの維持とのバランスを取ることができれば、厳しすぎるコンプライアンス要求によって市場の成長を阻害することなく、市場の成長を持続させることができるだろう。

一方、訴訟の多い米国市場を中心に、一部の資産運用会社が法務・コンプライアンス面の懸念により気候変動に対する公式のネットゼロの取り組み、コミットメントおよび協働エンゲージメントから撤退しているが、これがグリーン投資からの同様の後退につながっているわけではない。実際、グリーンボンドに特化したファンドの普及は拡大を続けており、バンク・オブ・アメリカのレポートによると、2024年のESGボンドファンドへの投資額は400億米ドル超と2022年の2倍のペースとなっている。投資家は引き続きサステナブル債券商品に価値を見出しており、ファンド運用会社からのグリーンボンドへの需要は高まる一方である。

拡大する日本のグリーンボンド市場への参加

最後に、日本のグリーンボンド市場への参加拡大が大きな変革をもたらす可能性を示唆する強力な論拠がある。2024年2月、日本政府はトランジションボンド(低炭素経済社会へ移行するためのプロジェクトを資金使途とする債券)の発行を開始したが、調達資金が充てられる「グリーントランスフォーメーション(GX)」プログラムは、今後10年にわたってサステナビリティ関連技術を発展させるために150兆円(約1兆米ドル)を動員することを目的としている。

歴史的に見て、日本の年金基金はESG投資戦略の採用が遅かったが、この流れはポジティブな方向にシフトしつつある。ここ1年で、日本の主要な7年金基金が国連のPRI(責任投資原則)に署名し、サステナブル投資へのコミットメント強化を示した。2024年6月以降には、警察官と公立学校職員の退職年金を監督する3基金が当該取り組みに参加し、サステナブル金融に対する日本のコミットメントがさらに強化された。このような変化の一因として、政府からの揺るぎない支援が挙げられる。岸田文雄前首相は日本の公的年金基金がESG原則に沿った運用を行うよう積極的に働きかけたが、後任の石破茂氏も同様の路線を継続している。

日本の年金市場規模が現在90兆円(約5,660億米ドル)を超えていることを考えると、このような変化をとりわけ重要だと言える。日本の年金基金が今やサステナブル投資へ資金配分を積極化させており、そのような資金配分が義務化される可能性もあるなか、現在の変化によってサステナブル投資の普及が加速し市場の厚みが大きく増し得る。サステナブル投資への日本の関与が増すのと時を同じくして、中国を含む他の主要経済国も自国のグリーンボンド・プログラムを拡大させている。

まとめ

現在、資産配分の判断を検討している投資家にご提案したいのは、債券利回りが世界的に低下し始めるまでに短期間ながら魅力的な投資機会があり、債券の価格と利回りが反比例の関係にあることを考えると、今後数年にかけて債券への配分を増やすことが有利に作用するとみられることだ。同時に、債券の見通しが明るいことは、グリーンボンドへのエクスポージャーを増やす好機ももたらしている。グリーンボンドは、その透明性と発行体の豊富さから、機関投資家のグローバル債券ポートフォリオにおいて不可欠な、かつ主流の部分を占めるべき資産クラスではないだろうか。今や、従来の債券市場の長期リターンに匹敵するようなサステナブルボンド・ポートフォリオを構築できるようになったことを考えると、なおさらである。

米国の発行体の参加が拡大した方が望ましいのは確かだが、サステナブルボンド市場の底堅さは証明されており、その成長は世界中の投資家からの需要によって牽引されてきた。したがって、市場の方向性は、米国の参加があろうとなかろうと変わることはない。当社では、より持続可能な未来に向けたこの長期トレンドを頓挫させるような重大な変化が生じることはないとみている。


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