2021年の世界の株式市場の振り返り

- (信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
MSCI ACワールド指数(米ドル・ベース)は、何度か調整する場面もあったものの、年間騰落率:+16.8%と、3年連続で上昇しました。(18年:▲11.2%→19年:+24.0%→20年:+14.3%)
以下では、同指数の動きを中心に、世界の株式市場の1年を振り返ります。
■上半期
3月末にかけて、米国で長期金利が上昇傾向となる中、中国での金融引き締め観測や、米国での個人投資家による投機的な株式売買に伴う混乱、新型コロナウイルスの感染拡大への懸念などもあり、株価が下振れする場面が何度かありました。
しかし、米FRB(連邦準備制度理事会)が金融緩和を長期間、維持する方針を繰り返し示したことなどを受け、4月以降、米長期金利は下落に転じました。また、米バイデン政権が大規模な経済対策案を相次いで発表したことや、欧米を中心にワクチン接種が進んだことが好感されたほか、米国での雇用の回復、企業業績の好調などから、世界株式は概ね上昇基調となりました。
■下半期
9月初めまで上昇を続けた世界株式は、その後、10月初めにかけて調整しました。この主な背景は、欧米などでデルタ株の感染が拡大したほか、米国での、長期金利の急騰や景気鈍化懸念の台頭、さらに、FRBが11月に量的緩和の縮小開始を決定する可能性を示唆したことなどです。また、中国での規制強化の動きや不動産開発大手の資金繰り懸念なども影響しました。
しかしながら、世界株式は10月初めに底を打つと、米・欧企業の好調な7-9月期決算などを背景に再度、上昇し、9月初め以降の下げを埋めただけでなく、11月には欧米の主要株価指数と共に最高値を更新しました。その後、オミクロン株の感染拡大懸念などから下振れしたものの、年末にかけては同懸念が和らぎ、値を戻しました。
- MSCI ACワールド指数指数に関する著作権、知的財産権その他一切の権利は、MSCI Inc.に帰属します。
- 上記グラフ、データは過去のものであり、将来を約束するものではありません。

- (信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
- コロナ禍は続いたものの、世界景気が回復傾向となったほか、主要中央銀行による超緩和的な金融政策が続く中、企業業績が大きく伸び、欧米先進国を中心に株価が上昇しました。
- 新興国株式については、中国本土、香港、米国に上場するインターネット関連の中国企業の株式が中国当局の規制強化などを背景に大きく売り込まれた影響で、マイナスとなりました。

- (信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
- 原油などの価格上昇の恩恵を受けたエネルギーや、コロナ禍においても成長期待の高い情報技術(IT)、長期金利の上昇で利ザヤの拡大が期待された金融などの株価が大きく上昇しました。
- 一方で、需要が比較的安定しており、景気回復の恩恵を期待しづらい、公益事業や生活必需品の株価上昇は限定的となりました。
- 世界株式:MSCI ACワールド指数、先進国株式:MSCIワールド指数、新興国株式:MSCIエマージング・マーケット指数、その他の指数:MSCI ACワールド指数を構成するサブ指数(いずれも米ドル・ベース)
- 各指数に関する著作権、知的財産権その他一切の権利は、MSCI Inc.に帰属します。
- 上記グラフ、データは過去のものであり、将来を約束するものではありません。

- (信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
- ベトナムは、中国からの製造業の移転など、海外からの直接投資の流入や、経常収支の黒字基調などが評価されたとみられます。フランスは、高級ブランド品の需要回復期待やユーロ安などが寄与、ナスダック100指数は米国のIT・半導体などの株価上昇がけん引役となりました。なお、トルコは、高インフレや通貨安に見舞われる中、資産価値の保全を狙った国内資金が株式に流入したことが株価を押し上げたとみられます。
- 香港は、中国の有力テクノロジー企業群などの株価下落が響きました。ブラジルは、2022年に大統領選挙が控えており、ばら撒き政策など、政治や財政への懸念などが響きました。
- 世界株式:MSCI ACワールド指数、先進国株式:MSCIワールド指数、新興国株式:MSCIエマージング・マーケット指数(いずれも米ドル・ベース)なお、その他の指数は、ロシアRTS指数を除き、現地通貨ベース
- グラフに掲載した各指数に関する著作権、知的財産権その他一切の権利は、当該指数の算出元または公表元に帰属します。
- 上記グラフ、データは過去のものであり、将来を約束するものではありません。

- (信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
- 上位には、経常黒字が見込まれている新興国の通貨が目立ちました。また、超緩和的な金融政策の正常化で先行する、米国や英国の通貨も堅調でした。
- 下位は、経常赤字が見込まれている新興国の通貨が中心となりました。トルコは、高インフレ下にも関わらず、利下げを執拗に求める大統領による金融政策への介入などが嫌気され、大幅安となりました。チリは、主要産業の銅の市況が軟調なことや、12月の大統領選挙で左派の候補が勝利し、自由貿易に慎重な政策を進めるとの懸念が膨らみました。
- 上記グラフ、データは過去のものであり、将来を約束するものではありません。
日興アセットマネジメントの2022年の見通し
景気:世界の経済成長は市場予想並みに
- 弊社では、広範なロックダウン(都市封鎖)は概して回避され、米国、ユーロ圏、日本、中国の経済が市場予想並みのペースで成長すると予想しています。(下表参照)
- 米国の物価上昇は年半ば以降、落ち着くとみており、同国での利上げは、7-9月期、10-12月期に1回ずつと想定しています。

- (半期の数字は前期比年率、通年の数字は前年比)
国債および為替:利回りはやや上昇、為替は円安
- 世界経済がインフレを伴って堅調に成長するとの見通しの下、米国・ユーロ圏・日本の国債利回りは上昇すると見込んでいます。ただし、インフレは失速するとの見方が債券投資家の間で大勢を占めているほか、主要中央銀行が金融緩和の縮小に前向きなタカ派寄りとなりつつあるものの、低金利が続くと見込まれること、また、新型コロナウイルスや中国の政策、地政学リスク、さらに、経済指標下振れへの懸念もあり、大幅な上昇には至らないと想定しています。
- 為替については円安を見込んでおり、6月末時点で1米ドル=115円、12月末時点で117円とみています。
株式:日本を中心に、上昇基調に
- 米国株式については、FRB(連邦準備制度理事会)の姿勢がタカ派寄りとなりつつあることに加え、弊社では追加の経済対策の成立を引き続き見込んでおり、それに伴う増税からも影響が及ぶ可能性があります。ただし、財政支出の拡大や世界でのワクチン接種の進展がもたらす企業収益の回復は、増税の影響を十二分に相殺するとみています。目先、重要なのは2021年10-12月期の決算で、弊社の見通し通り、実績が市場予想を上回れば、2022年通年の企業収益見通しの一段の上方修正に繋がると想定されます。これが現実となれば、足元で約20倍と、株価の割高感を示唆している2022年予想PER(株価収益率)が大きく低下すると想定されます。なお、EPS(1株当たり利益)成長率については、コロナ危機を受けて銀行が積み上げた貸倒引当金が戻入れとなる影響で、2021年に実体以上に高くなる分、戻入れがない2022年には見かけ上、低くなってしまう点を押さえておく必要があります。
- 欧州株式については、欧州経済の中期的な先行きに対する信頼感が大きく改善しています。また、欧州企業についても、予想EPSの大幅上方修正が見込まれるほか、2022年の予想PERは15倍程度と、過去の平均的な水準にとどまっていることや、配当利回りが高いことなどから、株価の上昇を予想しています。
- 日本株式については、政治的リスクが低く、デジタル化や代替エネルギーなどを中心に構造改革が続いているほか、財政出動も経済成長の押し上げ要因になると見込まれます。経済および株式市場の大きな部分を占める自動車セクターが多くの問題に見舞われたものの、状況は改善し始めており、今後、更なる大幅な改善が見込まれます。2022年の予想PERは13倍程度と、欧米に比べて既に低いばかりか、日本でも2022年の予想EPSが上方修正される可能性が高いことを踏まえると、割安感があり、最近の株価低迷から一転し、欧米株式を上回るパフォーマンスとなることが期待されます。また、配当利回りが2%強と世界的に見ても魅力的な水準にあり、国内資金の大規模な回帰も期待されます。
主なリスク要因
中国や中東、さらにウクライナの問題など、多くの地政学リスクには引き続き注意が必要なものの、少なくとも当面、大きな影響は見込まれません。なお、弊社の予想通り、米バイデン政権の追加経済対策が成立する場合、増税によってリスク資産市場や一部業界の首脳の間で慎重姿勢が拡がる可能性はあるものの、財政出動の拡大により、新エネルギーやテクノロジーといった分野が景気拡大を加速させると想定されます。
- 上記は予想であり、将来を約束するものではありません。
2022年の主な注目点~弊社チーフ・ストラテジスト、神山直樹のコメント
- 2022年の投資における3大テーマは、
- コロナ禍対応で行われた米国の財政出動のパワー継続
- 米国の高インフレは続かず、日本はデフレ懸念脱却へ
- リスクは米国の消費の腰折れ だと考えています。
コロナ禍対応で行われた米国の財政出動のパワー継続
2020年のコロナ・ショック後も主要先進国は感染者数増加の波に苦慮しました。しかし、英米を中心に、医療崩壊を避けられる限り経済活動の再開を続けるとの政治的意思が働いたほか、ワクチン接種の進展などで重症者数の増加が限定的となったことから、2021年の世界経済は概ね順調に回復しました。
最も注目される米国の雇用を見ると、コロナ・ショックで失われた2,200万人を超える雇用は、数字上ではまだ完全に戻っていないものの、FRB(連邦準備制度理事会)などはほぼ十分回復した、つまり正常化したと判断し始めています。コロナ禍で早期退職を決めた人が多かったほか、接客がない仕事など、新しい職に移るための職探しに向けて退職する「摩擦的失業」が多いと判断されているからです。経済データを見ると、確かに米国では仕事を探す人そのものが減ることで失業率が低下しています。また、レストランなどの求人はなかなか埋まらないようで市場にミスマッチがあります。

- 米労働統計局のデータをもとに日興アセットマネジメントが作成
米国の小売売上高はコロナ・ショック前の水準を大幅に超えたものの、2021年春以降はほぼ横ばいです。ただし、トランプ前政権がかつてない多額の一時金や失業手当の上乗せを行っただけでなく、バイデン政権による上乗せも行われました。この効果はまだ十分経済に出てきておらず、お金が預金などに滞留しているとみています。
![【図表】[上図]米国の小売売上高の推移、[下図]米家計の預金額の推移](/files/market/follow-up-memo/images/follow-up-memo_20220104_08.jpg)
- FRB(連邦準備制度理事会)のデータをもとに日興アセットマネジメントが作成
これまで、冷蔵庫や洗濯機などいわゆる耐久消費財は売れてきたため、一巡感もあるものの、今後は国内旅行などの正常化が家計のサービス業への支出増につながるとみています。また、海外旅行などまだ回復していない消費が主要先進国で残っています。本格的な経済活動の再開となれば、このような部分の消費が上乗せされると期待します。オミクロン株の流行はリスクですが、感染力が強いが重症化しにくいとの見方もあります。そうであれば、医療崩壊が経済活動の再開を妨げる可能性を強く見積りすぎないようにしなければなりません。
米国の高インフレは続かず、日本はデフレ懸念脱却へ
米国のインフレの本格化はそれほど早くは来ないとみています。一時的に高いインフレ率となっている理由は、主に供給側にあるとみており、時間が解決する分野が多いでしょう。シェール・オイルについては、ハリケーンやコロナ禍の影響が大きいとされます。SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)投資の影響で新規投資は抑えられますが、既存の生産は回復が期待されます。同じくコロナ禍で米国の港湾施設が部分的に閉じられ船荷の陸揚げが混み合っているようです。クリスマス商戦を前にしたモノ不足が一時的なインフレをもたらしました。これらは、結局コロナ禍に依存しているので、今後の変異種が重症者を増やさない限り、供給不足の解消は経済活動の完全な再開に向けた動きの中で緩やかに進んでいくとみられ、高いインフレが長く継続するとは考えにくいです。

- 信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成
しかし、一方で財政拡大の結果として、需要が高い水準で支えられることとなり、これは緩やかな長期的インフレの要因となります。具体的には、小売売上高は多少のインフレでも縮小せず、コロナ禍前を大幅に上回る水準を維持できるとみています。元々緩やかに上昇する小売トレンドが、一時的な財政出動による需要急増後の反動減の可能性を押し下げます。つまり、コロナ禍で1%程度に低下した物価上昇率は、5%など一時的な上昇が続いた後、FRBの目標である2%かそれを少し上回る程度で安定するのではないかとみています。
米国の長期金利の水準はあまり上昇しないでしょう。短期的なインフレの変動を穏やかにするため、FRBが機動的に量的緩和の縮小、いわゆるテーパリングを終わらせ、政策金利を引き上げる可能性があります。しかし、政策金利が上がれば長期的なインフレ期待は低下するので、結果として長期金利は上がりにくくなると考えます。
米国の財政出動の結果、小売売上高と輸入が伸びており、日本の輸出が数量ベース、つまり輸出品の箱の数でリーマン・ショック前の最高水準を超えました。半導体供給不足が2022年早期に解消すれば、再度、最高水準を超えて伸びるとみています。これは日本企業の態度を改善させるかもしれません。輸出企業は過去最高を超える生産をする必要が出てくるので、これまでの年々の利益の額を超える設備投資が必要となってきます。従来はメンテナンスだけにとどめていた投資が成長への投資に変わっていくのです。そうなれば、企業は資金調達側になり、国内のお金が回り始めます。つまりコロナ禍対応の米国の財政出動が日本のデフレ状態の脱却のきっかけになるかもしれません。

リスクは米国の消費の腰折れ
2022年も、非接触型の商品やビジネスなど、コロナ・ショックからの回復に関わる成長機会が続くでしょう。例えばロボティクスは、工場での非接触を進めるためにさらに投資が拡大するとみられます。米IT大手4社、いわゆるGAFAなどインターネット・プラットフォーマーも引き続き利益の成長が期待されます。ここでのリスクは、デジタル課税、独占禁止、プライバシー保護、表現の自由と真偽確認要求などがインターネット関連企業に負担となる可能性です。一方、グロース銘柄は金利上昇に弱いと言われますが、金利上昇の影響があっても一時的、心理的で、むしろ、インフレ下の経済ファンダメンタルズは、価格支配力があるインターネット・プラットフォーマーの利益を相対的に押し上げやすいとみています。グロース銘柄への長期投資の観点からは、金利上昇を懸念する必要はないでしょう。
個別銘柄に言及していますが、売買を推奨するものでも、将来の価格の上昇または下落を示唆するものでもありません。
もうひとつの成長機会は、2021年に続いてESGに関わるものです。欧州のみならず日本も米国も政権が環境を重視し、二酸化炭素排出量を減らす政策を継続します。自動車産業を例にとると、太陽光発電、電気自動車、水素自動車、自動運転などさまざまな分野での新技術を必要としています。一方、電気自動車の生産では新規参入が容易となるので、既存メーカーのリスクとも考える必要があります。完成車メーカーが電気自動車に弱いほど、部品メーカーが新しい道を切り開こうとする動きが出る可能性もあり、リスクとチャンスの両面から見ていきたいところです。
米国の人々の消費の先細りリスクは予想が難しいだけに気になります。①人々の消費が経済活動の正常化後もサービス業に向かわず、高い貯蓄率が維持される、②企業増税や富裕層増税が11月8日の中間選挙の争点となる、また、米国に限ったことではありませんが、③新型コロナウイルスの突然変異などに伴う、想定外の医療崩壊と世界主要都市の大幅なロックダウンの再現、などが主なリスク要因と考えられます。しかし、米国の消費者は、2022年も消費を押し上げるだけの資金をすでに政府から受け取っていると考えられますので、変異種の大きなショックなどがない限り、消費の悪化は考えにくいです。ただし、今後も、適切なワクチン接種や治療薬の開発、医療システム強化の努力などが続けられる必要があります。

- 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。