9月13日の米国株式市場は、米消費者物価指数(以下、CPI)の前年比伸び率が市場予想を上回ったことを受けて大幅利上げが警戒され、投資家のリスク回避姿勢が強まったことなどから、急落しました。以下では、最近のFRB(米連邦準備制度理事会)の動向などを整理し、当面の見通しについて、弊社チーフ・ストラテジスト神山直樹の見解をお伝えします。
金融引き締め姿勢に変化なし
FRBは、7月のFOMC(連邦公開市場委員会)で、インフレ抑制を優先し、政策金利を2.25~2.50%と、中立金利とみられている水準に引き上げただけでなく、9月会合でも同様に利上げする可能性を示しました。その後に発表された、7月のCPIなどの伸び率が鈍化し、市場での積極利上げ観測が後退しました。しかし、FRB議長が経済シンポジウムの講演で、成長鈍化などの痛みを伴っても、インフレが抑制されるまで“当面”金融引き締めが必要との見解を示したことから、市場は再び積極利上げを警戒しました。
なお、FRBは、6月から開始したQT(量的引き締め)のペースを、9月から引き上げました(8月までの2倍、上限950億米ドル/月)。一連のQTの効果は、年0.25%ポイントの利上げに相当するとみられます。
CPI発表を受け、利上げ幅の予想に変化
13日に発表された8月のCPIの前年比伸び率は、前月から鈍化したものの、市場予想を上回り、エネルギーと食品を除く指数の伸びが加速したことから、今月開催のFOMCでの積極利上げ観測が強まりました。13日の金利先物市場が織り込む利上げ幅の確率では、0.75%ポイントが前日の91%から66%に低下し、1.00%ポイントが同0%から34%になりました。仮に1.00%ポイント利上げで政策金利の誘導目標が3.50%(上限)となった場合、6月公表のFOMC参加者による見通しの水準に達します。
米国株式市場は急落
9月13日の米国株式市場では、大幅利上げを警戒し、NYダウ30種の1日の下落幅は20年6月以来の大きさ、ハイテク株中心のナスダック総合の下落率も2年3ヵ月ぶりの大きさとなりました。米10年国債利回りは、前日比0.049%ポイント高い3.409%となり、3ヵ月ぶりに3.4%台乗せとなりました。なお、14日の日本株式市場も、大幅安となった米国市場の流れを受け、全面安となりました。
![【図表】[左図]米国:CPI、政策金利、FRB資産規模の推移、[右図]米国:株価指数と10年国債利回りの推移](/files/market/follow-up-memo/images/follow-up-memo_20220915_01.jpg)
- (信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
- 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。
当面の見通し
9月20-21日に開催されるFOMCを前に、FRBの行動をどう考えるべきか、といった質問が増えています。FRBは米国や世界の経済を後退させるつもりはないのですから、長期投資の観点からFOMCの行方を気にしなくても良いのですが、以下で、短期的な経済の動きとFRBの狙いについての見方を説明します。
Q、インフレは鎮静化するのか
9月13日に発表された8月CPIの前年比伸び率は市場予想を上回りましたが、その勢いは徐々に緩やかになると想定しています。そもそも、今年2月のロシアによるウクライナ侵攻と西側のロシアへの制裁の結果、インフレの問題が鮮明になりました。タイミングは難しいのですが、物価上昇が大きな問題になってきた時期からおよそ1年後の来年1-3月には、緩やかになる可能性が高いとみています。特に新聞などの見出しに載るインフレ率は、前年の同じ月との比較ですから、落ち着いた数字になりやすくなるでしょう。
物価とその背後にある小売売上高や雇用者数の伸びなどは、すでに横ばいになりつつあります。当面、注目される経済指標は、賃金上昇率だと思います。現在前年比5%を超えている水準が、3%を下回っていくことを、FRBは望んでいるとみています。

- (信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
- 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。
Q、FRBの狙いは何か
賃金上昇率が落ち着いてくれば、FRBは利上げを止めるでしょう。その後、物価上昇率が2%程度に落ち着くことが見通せるようになれば、利下げする可能性もあります。もっとも、物価が落ちつくまでに、FRBがどれほど政策金利を上げるのか、現時点ではよくわかりません。今のところ、市場では政策金利を4.00%まで引き上げるとの予想が強まっています。その後にインフレが収まれば、政策金利は中立金利とみられている2.50%程度まで引き下げられることになるでしょう。
Q、マーケットの見通し
物価や金利が、今後長い間上昇し続ける可能性は低いとみています。世界的なコロナ禍からの正常化で、海運・陸運や生産現場も正常化しています。コロナ対策の一時金も使い尽くされる日が来るでしょう。結果として、物価や賃金の上昇が、今のペースで続くとは考えにくいです。もちろん、FRBの利上げも、物価を抑える効果があります。24年には、長期金利が3%、政策金利は2.50%に向かうでしょう。
今のインフレの状況で、平均的な企業は販売価格を引き上げますから、来年1-3月に物価や金利が落ち着くと思われる頃には、企業の収益への信頼感が増し、株式市場も明確に上昇に転じるとみています。