日本の金融市場は12月20日、日本銀行(以下、日銀)の政策変更を受け、大きく反応しました。以下では、日銀の政策変更の概要などを整理し、当面の見通しについて、弊社チーフ・ストラテジスト神山直樹の見解をお伝えします。
想定されていなかった12月の政策変更
日銀は12月19-20日の金融政策決定会合で、国債買い入れ額を増額しつつ、長期金利の変動許容幅を、従来の±0.25%程度から±0.50%程度に拡大することを決定しました。声明では、今回の許容幅拡大を決定した背景について、債券市場の機能低下が、企業の起債など金融環境に悪影響を及ぼす惧れがあるため、としましたが、9月に黒田日銀総裁が「許容幅拡大は、明らかに金融緩和の効果を阻害する」と発言していただけに、今回の決定はサプライズとなりました。
今回の措置は利上げではないというが
総裁は記者会見で、今回の措置は金融緩和の効果をより円滑に波及させるために行うものであり、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)がよりよく機能するように市場機能の改善を図った、と述べました。さらに、利上げではないことを強調し、市場関係者に十分伝えたいとも述べました。マイナス金利政策や資産買い入れ方針、政策金利の先行き指針を据え置いたことで利上げではないと言えますが、これまでの市場への介入の効果がなかったのか、より円滑になるのかはまだわかりません。
金融市場は事実上の利上げと受け止め
12月20日の日本の金融市場では正午過ぎ、日銀の決定内容を受けて国債利回りや円相場が急上昇し、株式市場は急落しました。10年国債利回りは、長期金利の変動許容幅が拡大されたことから、午前の0.25%から0.46%に急上昇(引けは0.40%)、円相場は対米ドルで同137円台から132円台に急騰しました。株式市場は、金利上昇による投資抑制懸念や円高進行などから、日経平均株価で同27,315円から26,568円に急落しました。

- (信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
- 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。
当面の見通し
今年に入ってから、10年国債利回りは、日銀のYCCで利回りの変動幅が人為的に抑え込まれ、0.25%で張り付いていましたが、すでに上昇していた30年国債利回りと比べれば、インフレの進展に合わせて本来上昇すべきだったといえそうです。黒田日銀総裁は、日本の賃金上昇を確認してから政策変更する、と市場に思わせてきたので、春闘の結果がわかる来春ごろの政策変更を想定していました。ただし、コロナ禍からの正常化による賃金上昇などで、インフレが継続する可能性がこれまでよりも強まっており、来春の日銀総裁交代と関係なく政策変更は時間の問題であったと思います。
しかし、唐突な政策変更で市場が驚いてしまうと、市場心理はリスクを避けがちになります。今回、金利変動許容幅の中心を0%程度で変更しておらず、利上げではないとした、日銀のメッセージは分かりにくく、市場の不安が高まってしまいました。今後、10年国債利回りが0.50%に張り付けば、市場機能改善のために変動幅の再拡大が必要となり、市場に引きずられることで日銀の信頼が低下する恐れがあります。日銀の今回の政策変更は、日本経済全体に大きな影響を与えるものではありませんが、しばらくは、市場心理の悪化と政策への不信から市場の変動幅が大きくなるとみています。
●国債・社債利回りはしばらく上昇か
10年国債利回りは0.50%程度に上昇するでしょう。0.50%程度にしばらくとどまった場合、市場機能を改善させるという日銀の説明を当てはめれば、変動幅を再拡大する必要性が生じます。市場に引きずられて変動幅を拡大したとなれば、日銀の信頼を損なうことになりかねません。日銀は市場の機能を損なうことがわかっていながらYCCを導入したのですし、市場に合わせるのであれば、変動幅を決めなくても良いはずです。日銀の論理がわからなくなれば、政策の予測もできなくなります。結果として市場参加者は、リスクを取ることを避けるようになり、日銀の金融緩和継続とも矛盾することになります。市場と十分にコミュニケーションを取らずに政策変更したことは、今後の政策実行に大きな痛手です。ベースとなる国債利回りが上昇すれば、社債などクレジット商品のリスクを避ける動きが強まるでしょう。
●円相場(対米ドル)は円高圧力高まりそう
円高方向に円相場(対米ドル)のレンジが変わることになるでしょう。米国の利上げペースは減速してきましたので、米ドル高の勢いは鈍っています。そこで唐突に日本の金利が上昇すると、円高の圧力が加わることになります。円高に勢いがつくとはみていませんが、方向性としてはしばらく円高圧力が続きそうです。
●日本株はセクターにより跛行色
企業収益などへの影響は限定的とみられるほか、バリュエーションに大きな影響を与えるような金利上昇にはならないでしょう。しかし、政策当局が何をするのかわからないという心理は、しばらく株式市場のネガティブ要因になると思われます。
日銀の政策変更発表時点では、円高を受けて輸出企業の株価が下落しましたが、輸出数量が増えていることから、設備投資や雇用増・賃金上昇の動きは大きな影響を受けないとみています。金利上昇で不動産株なども下落しましたが、賃金上昇を背景に不動産賃料が上昇し、回復していくとみています(REITも同様)。銀行株については、長期金利上昇は住宅ローンなどの収益性を高めると考えられ、良いインパクトがしばらく期待されるでしょう。
簡単にまとめると、日銀の唐突な政策変更は経済に大きな影響を与えませんが、市場心理を悪化させ、インフレのピークアウトが明確になるであろう来年1-3月ごろまで、変動の大きな展開になると予想します。