主要国で金融緩和政策が続けられる一方で、新型コロナウイルス・ワクチンの普及や、バイデン米新政権下での大型経済対策の成立見通しなどを背景に、経済活動正常化への期待や物価上昇見通しが拡がり、米国を中心に長期金利が上昇しています。こうしたことを受け、「バーナンキ・ショック」あるいは「テーパー・タントラム」と呼ばれる、約8年前に起きた金融市場の混乱が再び訪れるのではないかとの記事が散見されるようになっています。

2013年5月、当時の米FRB(連邦準備制度理事会)議長バーナンキ氏が議会証言で、量的金融緩和として行なっていた資産買入れについて、段階的な縮小を開始する可能性を示唆すると、世界の金融市場に大きな動揺が走りました。同緩和策は、2008年のリーマン・ショックに象徴される世界金融危機への対応の一環で導入されたもので、その縮小は経済や金融システムの回復の証しという点でプラス材料と言えます。実際に、先進国株式は、下振れを交えながらも、堅調を維持しました。しかし、バーナンキ発言は、FRBの金融緩和姿勢そのものが従来の想定より早く修正されるとの憶測を呼び、新興国資産などへ流入していた、米国発の緩和マネーの引き揚げという形で、金融市場に大きなマイナスの影響を及ぼしました。当時の新興国経済は、世界金融危機後の中国での大規模な景気対策の効果などもあり、先進国を大きく上回る高成長を続けていました。そこに大量の緩和マネーが流入し、新興国資産が割高になっていたことが、バーナンキ・ショックでの同資産の軟調を際立たせました。さらに、2014年後半以降、米ドルが上昇傾向となったことが、新興国資産の軟調に追い打ちをかけました。

足元では、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、新興国資産が緩和マネーで押し上げられているとは言い難いだけでなく、米ドルが動意づいている様子もありません。そして、何よりも、バーナンキ・ショックからの教訓もあり、FRBが量的金融緩和の縮小について、事前に余裕をもって周知させるとの意向を示しています。こうしたことなどから、長期金利の上昇が、景気回復を反映した秩序だったものである限り、FRBがそれを静観するとしても、バーナンキ・ショック時のような動揺が拡がるとは考えにくく、過度に懸念する必要はないとみられます。

【図表】米長期金利と米ドル指数および主要資産の推移(月末値)
  • (信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
  • 上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。