コロナ禍の影響で昨年4-6月期にGDPが前年比で大幅なマイナスを記録したブラジルでも、積極的な金融・財政政策に支えられ、景気は持ち直し傾向を辿ってきました。こうした中、今年1月には主要株価指数が最高値を更新したものの、同国の経済・政治面での先行き不透明感などを背景に、通貨レアルは安値圏で推移しています。

同国では、ボルソナロ大統領が新型ウイルスを「ちょっとした風邪」に過ぎないと軽視し、感染症対策が地方政府任せとなったほか、変異ウイルスの流行もあり、新規死者数が足元で世界最多となっている状況で、景気の先行きが懸念されています。しかも、原油市況の上昇に伴なう燃料価格引き上げの影響などから、今年2月の消費者物価指数は前年同月比+5.2%と、4年ぶりの高い伸びとなり、中央銀行の今年の目標上限の5.25%に迫っています。昨年8月に政策金利を過去最低の2.00%とした中央銀行は、同水準を維持するとの指針を今年1月に撤回しており、早ければ今週17日にも2015年以来の利上げが決定されると見込まれています。

金融政策の焦点が物価上昇への対応に移りつつある中、議会では現在、昨年12月に打ち切られた、低所得者層を対象とした現金給付の再開に向け、審議が行なわれています。同給付については、景気の下支えが期待される一方で、財政赤字の拡大により、投資家の信頼感が一層低下すると不安視する向きもあります。また、そうした不安に政治情勢が拍車をかけています。ボルソナロ政権は、ゲジス経済相を中心に、財政健全化など、構造改革に取り組む市場寄りの姿勢を示してきました。しかし、国民からの支持の低下にあえぐボルソナロ大統領は、燃料価格の引き上げを行なった国営石油会社のトップを2月に更迭したほか、議会で審議されているよりも大規模な現金給付を検討中と報じられるなど、足元で人気取りに動いているように見受けられます。さらに、元大統領のルラ氏に対する収賄などの有罪判決について、連邦最高裁判所が先週、無効との判断を下したことにより、同氏が2022年の次期大統領選挙に出馬する可能性が出てきました。多くの国民を貧困から救ったとして、いまだに人気が高いルラ氏が出馬することになれば、再選を狙うボルソナロ大統領にとっては大きな脅威になるとみられ、現政権の構造改革路線の頓挫につながる可能性だけでなく、ルラ氏の復権と共に大衆迎合主義に逆戻りし、財政がさらに悪化するとの懸念が拡がる可能性もあり、今後が注目されます。

【図表】[左図]ブラジル・レアルと株価の推移、[右図]ブラジルの主要指標の推移
  • 信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成
  • 上記は過去のものおよび予想であり、将来を約束するものではありません。