主要通貨に対して、足元で円安が進んでおり、昨年末からの騰落率をみると、米ドル(対円)は約7%の上昇となっています(3月末時点)。

【日米金利差の拡大などから円安進行】
その背景として、米国で、追加経済対策の進捗・成立や新型コロナウイルスのワクチン接種拡大により、景気回復期待が拡がったことや、超緩和的な金融政策の早期正常化観測が強まったことを受け、長期金利が上昇し、日米金利差の拡大が意識されたことがあります。

米長期金利の上昇につられて、主要国の金利も上昇したことで、カナダ・ドル、英ポンド、豪ドルなども対円で上昇しました。なお、新興国通貨を見ると、南アフリカ・ランドやメキシコ・ペソ、ロシア・ルーブルなどは足元で、堅調な資源価格を背景に対円で上昇した一方、ブラジル・レアルやトルコ・リラは、インフレ懸念や個別の悪材料などから、対円で弱い動きとなるなど、まちまちの展開となっています。

【金融政策を占う上で、米賃金動向に注目】
今後の為替市場を見るうえでは、米国の金融政策に影響が及ぶインフレ動向が重要になると考えられます。一般に、労働者の賃金上昇率が加速することで、需要が拡大してインフレが進む傾向にあり、米国の労働市場において大きな割合を占めるサービス業の賃金動向がポイントになるとみられます。

サービス業は、昨年から新型コロナウイルスの感染拡大に伴なう外出制限などにより、飲食や旅行などを中心に大きな影響を受けました。今後は、ワクチン普及などに伴なう経済正常化の過程で、サービス業も回復に向かうとみられるものの、賃金上昇率が加速するほどまで回復するには時間がかかるとみられます。また近年、主要先進国ではデジタル化とグローバル化の進展などにより、構造的に物価上昇が抑制される傾向にあり、コロナ禍で弾みがついたデジタル化の進展が賃金上昇率の抑制につながる可能性もあります。

【一方的な円安は限定的となる可能性】
米国において、景気回復が予想以上に進み、金融緩和の早期縮小観測が強まる場合、金利上昇とともに、円安傾向が続く可能性はあります。しかし、日米欧などの中央銀行は、コロナ禍で悪化した景気を刺激するため、いずれも金融緩和姿勢を維持しており、金融引き締めにはまだ動きそうにありません。特に、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融緩和政策が当面維持される場合、米金利が足元の水準から大きく上昇するとは想定しにくいといえます。

こうしたことなどから、短期的な円安トレンドはしばらく続く可能性があるものの、今後、為替が一方的に円安の方向に動く可能性は低いと考えられます。

【図表】主要先進国通貨(対円)の推移
  • 信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。