米国では今年、新型コロナウイルス向けワクチン接種の普及や大規模な経済対策の成立などに伴ない、長期金利の上昇が目立ちます。ところが、4月に金利上昇は一服となり、先週は、予想以上に堅調な経済指標が発表されたにもかかわらず、10年国債利回りが1.5%台に低下しました。ただし、バイデン政権が巨額のインフラ投資の導入を目指していることなどもあり、米長期金利は更に上昇するとの見方が優勢で、先進国資産にとどまらず、新興国資産へも影響が及ぶと見込まれ、今後の動向が注目されます。
米長期金利の上昇が、ワクチン接種や景気に関する米国の好ニュースを反映したものであれば、多くの新興国では、海外からの投資資金の流入増加や、債券のスプレッド*縮小につながると期待されます。なぜなら、先進国経済に関する好ニュースは、輸出増加などを通じ、新興国経済の回復につながると期待されるからです。ただし、新興国でのワクチン接種の普及に想定以上に時間がかかる場合、こうした恩恵を当面は十分に享受できない可能性があることには注意が必要です。
米国債利回りに対する、新興国債券の上乗せ利回り。スプレッドの縮小は新興国債券が米国債より選好されていることを、拡大はその逆を意味する。
また、米長期金利の上昇が、FRB(連邦準備制度理事会)による量的緩和策の縮小など、同国の超緩和的な金融政策が正常化に向かうとの観測を背景とする場合、投資資金の引き揚げや通貨下落など、新興国市場に悪影響が及ぶ可能性があります。好ニュースを背景とした米長期金利の上昇との違いは、緩和政策の修正観測を受け、米国で「ターム(期間)プレミアム」(満期がより長い債券を保有する際、リスクが高くなる分、投資家が求める上乗せ金利)が上昇するのに伴ない、新興国債券のスプレッドも拡大を余儀なくされる点です。
その米金融政策について、政策金利は少なくとも2023年末まで現行水準を維持というのがFRB当局者らの中心的な見通しです。また、量的緩和については、完全雇用と物価安定に近づくまで継続するとの指針が掲げられていますが、パウエル議長は先週、利上げを検討するかなり前の段階で緩和の縮小を開始する可能性に言及しました。景気回復が続く中、緩和縮小について行き過ぎた憶測が拡がることのないよう、FRBが将来のシナリオについてさらなる指針を示すことが期待されます。
なお、IMF(国際通貨基金)の世界経済見通しでは、来年にかけて、新興国と先進国の間の成長率格差が縮小するものの、再来年には同格差が拡がるとされています。新興国でワクチン接種の普及が早まるなど、経済活動の再開が想定より早く進み、高い経済成長が実現するとの期待が強まれば、新興国資産への投資家の注目も高まると見込まれます。
![【図表】[左図]米国債と新興国債券の主要指標の推移、[右図]先進国、新興国の経済成長率の見通し](/files/market/rakuyomi/images/rakuyomi_vol-1699.jpg)
- 上記は過去のものおよび予測であり、将来を約束するものではありません。