金の価格は、昨年8月上旬に史上最高値をつけて以降、緩やかな調整を続けていました。しかし、今年3月以降は持ち直しに転じ、5月28日にはニューヨーク金先物が1トロイオンス=1,905米ドルと、1月上旬以来の水準となりました。

こうした金価格持ち直しの背景として、このところの米長期金利の上昇一服や米ドル安基調などが挙げられます。加えて、通常時に最大の需要源となってきた宝飾品が回復したことや、金ETFを中心に投資需要が再び高まっているという、需要面の変化も注目されます。

金の需要をコロナ禍前の2019年のデータで大別し、そのシェアを見ると、約48%を占める宝飾品が最大で、金ETFや地金・金貨などの投資:約29%、中央銀行・その他機関:約15%、工業品などのテクノロジー:約7%となります。

昨年前半は、新型コロナウイルスの世界的流行や行動制限に伴なう景気悪化の影響などから、宝飾品需要が激減した一方、それを埋めて余るほど投資需要が拡大し、金価格の最高値更新につながりました。その後、投資需要の一巡と前後して、金価格は調整局面に入りました。ただし、景気が徐々に回復に向かったほか、行動制限の緩和などもあり、宝飾品需要は昨年10-12月期には大きく回復、今年1-3月期も堅調を維持し、投資需要の落ち込みを補う形となりました。

なお、今年1-3月期の宝飾品需要は重量ベースで前年同期比+52%、金額ベースでは約275億米ドルと、2013年1-3月期以来の高水準となりました。宝飾品需要回復の牽引役は中国とインドで、特に新型コロナウイルスの感染をいち早く抑え込んだ中国の需要は重量ベースで前年同期比+212%に及びました。一方、依然として深刻な感染状況が続くインドでの需要は+39%にとどまっており、感染拡大収束後の更なる需要拡大が期待されます。

また、足元で特に注目されるのが投資需要、中でも金ETFの需要です。地金・金貨の需要は、金価格がピークをつけた昨年7-9月期以降、増加傾向です。一方、金ETFの需要は、昨年の4-6月期に約436トンでピークを打った後、10-12月期には売り越しに転じ、今年1-3月期は売り越しが約178トンに拡大、続く4月も売り優勢となりました。しかし、5月は一転して買い越しとなり、その金額は21日までの3週間で約26.6億米ドルとなっています。

投資需要回復の背景として、今年に入り、ワクチン接種の普及などに伴なう経済活動正常化の進展もあり、米国の物価上昇率が高まりつつあることが挙げられます。また、ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)の価格や国際商品市況などの変動率の高まりも影響しているとみられます。こうした動きにより、投資家の警戒感が今後さらに強まる場合、投資需要が一段と膨らむことも考えられます。

【図表】[左図]金価格と米長期金利の推移、[右図]金の主要部門別需要量の推移
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。