2021年7月、民間企業が開発したロケットで、民間人を乗せた有人宇宙旅行を相次ぎ成功させ、話題になりました。こうした、歴史に残るような「重要な一歩」は、宇宙分野だけでなく、ゲノム編集の分野でも起きています。

ゲノム編集技術の重要な一歩
米バイオ医薬品のインテリア・セラピューティクス(以下、インテリア社)とリジェネロン・ファーマシューティカルズ(以下、リジェネロン社)は2021年6月26日、ゲノム編集技術「CRISPR/Cas9(クリスパー/キャスナイン)」を利用して開発中の治療薬の臨床試験で有効な結果が得られたと発表しました。

「CRISPR/Cas9」は、従来の技術と比べて非常に扱いやすく、効率・コストの面でも優れることなどから、昨年、主要な開発者がノーベル化学賞を受賞しており、今後のゲノム編集技術の本命になると期待されています。

今回の臨床試験は、全身の様々な臓器に異常なタンパク質が沈着し、機能障害を引き起こす遺伝性疾患の治療を目的としたものです。両社の発表によれば、開発中の治療薬が、疾患の原因となる異常なタンパク質の水準を大幅に下げることを示しました。さらに、臨床試験から4週間の時点では、重篤な副反応は確認されていないとのことです。

この臨床試験は、治験者数が限られており、観察期間も短いものの、CRISPR/Cas9を利用して開発中の治療薬の臨床試験で初めての有効な臨床データであることから、同技術の医療における有効性と安全性を示す画期的な成果として、大きな注目を集めています。実際、開発を主導するインテリア社の株価は、翌営業日に50%超上昇(終値ベース)したほか、リジェネロン社や他のゲノム関連銘柄にも一時、買いが集まりました。

医療以外でも進むゲノム編集技術の活用
ゲノム編集技術の活用が進んでいるのは医療の世界だけではありません。様々な分野で、実用化に向けた動きが進められています。

2021年冬頃には、CRISPR/Cas9を使った食品として世界で初めて国の承認を受けた「GABA(ギャバ)高蓄積トマト」の一般流通が日本で始まる予定です。また、米国では動脈硬化などの予防効果があるとされるオレイン酸を多く含有する「高オレイン酸大豆」の商業栽培が始まっています。食品以外にも、ゲノム編集で改良した微生物で化学原料を生産する技術なども開発されており、すでに実用段階にあります。大量のエネルギーを使う化学合成を微生物を使った生産に置き換えれば二酸化炭素排出量の大幅な削減につながると期待されます。

OECD(経済協力開発機構)によると、ゲノム編集などバイオテクノロジー関連の市場規模は、2030年に約200兆円に拡大するとも予想されており、すでに巨大市場を見据えたM&A(合併・買収)の動きなども活発化しています。ゲノム編集など関連技術を保有する企業の今後の動向に、ますます注目が集まりそうです。

【図表】CRISPR/Cas9によるゲノム編集の仕組み(イメージ)
  • 資料作成時点で信頼できると判断した情報などをもとに日興アセットマネジメントが作成 
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。