米国では、バイデン大統領が今春に相次いで発表した、総額2.25兆米ドルの「米国雇用計画」と総額1.8兆米ドルの「米国家族計画」の実現に向け、関連法案の議会審議が8月に大きく進展しました。

まず、超党派グループがまとめた、5年間で約5,500億米ドルの新規支出(既に予算配分済みの支出を加えた総額は約1兆米ドル)からなるインフラ投資計画案が8月10日に上院で可決されました。同案は、米国雇用計画に掲げられたインフラ投資を部分的にカバーするもので、下院では9月27日までに採決する予定となっています。

一方、米国雇用計画に掲げられ、超党派のインフラ投資計画案に含まれなかった気候変動関連の投資や、米国家族計画に掲げられている項目については、バイデン政権が法人増税や富裕層を対象とした増税を主な税源とする意向であるため、増税に反対する野党・共和党の賛成を期待できません。このため、与党・民主党は、同党議員による単独過半数の賛成で可決可能となる特例措置を活用し、総額3.5兆米ドルの歳出という予算の大枠を予算決議案という形で採決に持ち込み、8月11日には上院、同月24日には下院で可決させました。

今後は、議会の各委員会が所管分野の予算編成作業に入り、9月15日までにまとめられる具体的な予算関連法案が今秋、上下両院で採決されることになります。なお、民主党内にも増税への反対意見があるほか、気候変動対応でも温度差があるため、予算編成作業で同党が結束できるかどうか、不透明な面があります。ただし、規模や内容の修正が必要となるなど、紆余曲折は予想されるものの、「全部ではないにしろ、大部分を実現できるだろう」とのバイデン大統領の見通しが実現する可能性が高いとみられます。

足元では、変異株の感染拡大が懸念され、欧米のようにワクチン接種が進んでいる国・地域でも、消費者信頼感などが下振れしています。ただし、米国では、昨年12月以降、緊急使用が認められてきた新型コロナウイルス向けワクチンの内の1つに対し、当局の正式承認が8月23日に下りたことを受け、職場などでワクチン接種を義務づける動きが拡がりつつあります。これに伴ない、今後、接種率が一段と高まれば、経済活動再開の更なる進展につながると見込まれます。そして、消費者信頼感などが回復に向かうだけでなく、家計に積み上がった過剰な預金なども活用した、リベンジ消費につながっていくことが期待されます。

米国では、量的緩和の縮小が年内にも始まる見通しながら、まもなく成立するとみられる成長戦略や、ワクチンの義務化の動きなどが、今後の景気回復を支えることになると見込まれます。

【図表】[左図]バイデン政権の成長戦略と関連法案、[右図]米家計の預金額の推移
  • 上記は過去のものおよび計画・法案であり、将来を約束するものではありません。