e-ルピーとは
8月2日、インドのモディ首相は、給付金や補助金などの支給に使う新たな電子決済システム「e-ルピー」を導入することを発表しました。e-ルピーは、利用者の携帯電話やスマートフォンに送られてきたSMS(ショート・メッセージ・サービス)などから、QRコードなどの電子クーポンを画面提示することで、給付金や行政サービスを受け取ることができます。

既存システムと異なり、銀行口座は不要
インドは、2014年に「デジタル・インディア」というスローガンを掲げてデジタル化を進めてきました。生体認証技術を活用した新たな国民ID「Aadhaar(アドハ―)」と銀行口座、携帯電話の番号を紐づける仕組み「JAMトリニティ」を既に活用しており、個人への給付金などを、直接、銀行口座に支払えるようになりました。銀行口座を持たない人が多かったインドでは、JAMトリニティの導入により、銀行口座のニーズが高まり、これまでに約4億もの新規口座が開設されました。その背景には、これまで身分証明書の非保有が理由で銀行口座を開設できなかった人が、Aadhaarによって身分を証明できるようになり金融取引が可能になったことがあります。しかし、それでもまだ一定割合の国民が銀行口座を持たないインドにおいて、e-ルピーは、広く普及している携帯端末間でやり取りを行なうシステムで銀行口座が不要なため、より多くの人にとって利便性が高いと考えられます。

給付金が適切に使われる効果も
また、e-ルピーは、利便性や行政の効率を高めるだけでなく、財政の役割ともいえる「適切な所得の再分配」を確実に行なうことが期待できます。e-ルピーは、使用用途を指定することができ、利用者を本人に限定できるため、行政側の目的どおりに給付金の使用を誘導することができます。

デジタル化の更なる加速に期待
インドでは、デジタル・インディアにより、携帯端末の普及やデジタル化が進みました。Aadhaarについては、2009年から日本の大手企業の高い生態認証技術を使って開発・整備が続けられてきましたが、デジタル・インディアが後押しし、2017年に一般での実用化につながりました。また、2016年に実施された高額紙幣の廃止や、足元での新型コロナウイルスの感染拡大などが、キャッシュレス決済を加速させました。今後は、e-ルピーを使って、給付された新型ウイルス向けのワクチン接種費の支払いを可能にするなど、医療・福祉分野での導入を進めるほか、企業の福利厚生などでも活用できるように用途を拡大する予定であり、益々、デジタル化の加速が期待されます。

【図表】[左図]主要国のスマートフォン・ユーザー数、[右図]インドにおけるスマートフォン普及率の推移
  • 上記は過去のものおよび予想であり、将来を約束するものではありません。