金の価格は、今年3月に調整局面を脱して以降、米金融政策の見通しの変化などを受け、時に振れる場面はあるものの、概ね1トロイオンス=1,800米ドル前後で推移しています。こうした落ち着きの背景の一端として、金に対する投資需要および中央銀行などからの需要の回復が挙げられます。
金の需要をコロナ禍前の2019年のデータで大別し、そのシェアを見ると、約48%を占める宝飾品が最大で、金ETFや地金・金貨などの投資:約29%、中央銀行・その他機関:約15%、工業品などのテクノロジー:約7%となります。
昨年前半は、コロナ禍の影響などから、宝飾品需要が大きく落ち込んだ一方、金ETFを中心に投資需要は急拡大し、金価格の最高値更新につながりました。その後、宝飾品需要が持ち直しに転じた半面、投資需要が急減すると、金価格は調整を余儀なくされました。ところが、投資需要は、今年に入って地金・金を中心に2四半期連続で増加し、4-6月期にコロナ禍前の水準を回復しました。
宝飾品需要については、最大需要国で、新型コロナウイルスの感染拡大をいち早く抑え込んだ中国で、今年上半期にはコロナ禍前の水準を回復しました。しかし、世界第2位の需要国インドでは、昨年後半に持ち直した需要が、デルタ株が猛威を振るったことにより、今年は2四半期連続で減少しました。ただし、同国ではワクチン接種が拡がっていないものの、爆発的な感染拡大に伴ない、国民の抗体保有率が7割程度に及ぶとされ、足元では新規感染が比較的抑えられています。インドでの感染状況がさらに落ち着くようであれば、同国の金の需要も再び持ち直し、ひいては宝飾品需要全体でコロナ禍前の水準を回復すると期待されます。
また、足元で注目されているのが、中央銀行など、公的機関の準備資産としての需要です。昨年は、金の価格高騰などに伴なう需要減退にとどまらず、景気対策・外貨確保のための金売却の動きもあり、7-9月期には売り越しを記録しました。しかし、その後、需要は3四半期連続で増加し、今年4-6月期に2019年4-6月期以来の高水準となりました。この背景として、米国の超緩和的な金融政策の正常化プロセスの開始が近づいているほか、同国の公的債務や物価上昇などへの懸念もあり、為替市場の波乱に備えるべく、新興国の中央銀行が米ドルに代えて金を積み増しに動いたことが挙げられます。
なお、今年上半期に国別で金の購入量が最も多かったタイの中央銀行総裁は、「金は安全性、収益性、分散性、(可能性は低いが、起こると影響が大きい)テールリスクのヘッジという主要な準備資産管理の目的を満たすものである」と述べています。こうした観点などから、今後も金の購入を積極化する動きが新興国の中央銀行の間で拡大・加速するようであれば、金価格の下値を支えると期待されます。
![【図表】[左図]金価格と米長期金利の推移、[右図]金の主要部門別需要量の推移](/files/market/rakuyomi/images/rakuyomi_vol-1741.jpg)
- 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。