環境問題への取り組みは世界の優先課題に
近年、地球温暖化など環境問題への関心が世界的に高まっています。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が今年8月に公表した報告書では、2021~40年の間に、世界の平均気温が産業革命以前と比べて1.5度上昇するとの予測が示されました。これは2018年発表の予測と比べて10年ほど早いペースであり、温暖化は豪雨や干ばつなどの災害リスクを高めることから、環境問題への取り組みは待ったなしの状況といえます。こうした中、2050年までのカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量実質ゼロ)達成を宣言した国・地域の数は120を超えるなど、世界が脱炭素実現に向けて動き始めています。
世界中で水素活用に向けた動きが本格化
脱炭素への取り組みが拡がる中、大きな可能性を秘めたエネルギー源として、水素への関心が高まっています。水素は、エネルギーとしての活用時にCO2(二酸化炭素)を排出しないクリーンなエネルギー源であるだけでなく、水を原料に製造できることから、枯渇リスクが低いなどの特徴を有しており、「夢のエネルギー源」として注目されています。世界中で、水素活用の拡大に向けたロードマップの策定や、補助金制度による研究・開発支援など、官民が一体となった取り組みが進められています。
水素自動車のほか、ガソリン車での活用にも期待
水素は、CO2を排出しないエネルギー源として、自動車や船舶などのモビリティ分野を中心とした活用が見込まれており、世界中で水素自動車(FCV)の開発や、水素ステーションなどのインフラ整備が活発化しています。また、既存のガソリン車で活用できるクリーンな燃料として、水素とCO2を混ぜて作る液体合成燃料「e-Fuel」の研究・開発も進められています。e-Fuelは、再生可能エネルギーを用いて水から製造されるグリーン水素と、工場や発電所から回収したCO2を原料とするため、カーボンフリーな燃料といえます。なお、グリーン水素の製造過程で水を電気(electric)分解することから、頭文字の「e」が名称に使われています。e-Fuelは、ガソリンスタンドなど既存のインフラ設備活用による補給が可能なため、充電インフラの整備が不可欠なEV(電気自動車)などと比べて、導入時のコストが抑えられることもメリットと言われています。
このように、環境分野に大きな変革を起こし、社会や産業に巨大なインパクトを及ぼすと期待される水素への注目は、今後も高まっていくものと考えられます。
![【図表】[左図]気温上昇による大規模災害頻度(IPCC予測)、[右図]e-Fuel:製造から供給までのプロセス](/files/market/rakuyomi/images/rakuyomi_vol-1745.jpg)
- 上記は過去のものおよび予想であり、将来を約束するものではありません。