最近、中国政府の規制などに関する報道を目にすることが増えました。しかし、これらは中国が経済を持続的成長に導くための政策実行手段であるとみられます。

戦略1:データエコノミーの確立
IT産業に対する規制が強化されていますが、これは、デジタルサービスの拡大により中国でも世界的な大企業が誕生したものの、企業が大きくなり過ぎたことで自由な競争の阻害や、集めたデータの乱用、海外への流出などが懸念されていることが背景にあるようです。

一方、政府はデータ活用で経済価値を高める取り組みを積極的に行なっており、データ利用に関する新法の起草に加え、全土に新たなデータセンターを建設するなどデジタルインフラに資金を投入しています。

これは、中国が5ヵ年計画の筆頭に科学技術のイノベーションによる成長を掲げ、次世代人工知能や半導体、遺伝子、宇宙など、7つを重点分野として挙げていることに起因します。

最近の動きでは、今年8月、工作機械や半導体、新素材、新エネルギー車の4分野について、海外に依存しない、自前の中核技術の開発を強化するよう、政府が企業に指示しました。これはハイテクやインフラを支える中国の大手企業が技術開発を加速させることで、産業全体を技術面で支え、サプライチェーン全体も強化する、というものです。

なお、企業や大学の技術力や国際化を示す指標とされる国際特許の出願件数をみると、中国が2020年に2年連続で世界トップとなっており、技術開発を加速させようとしていることがうかがえます。

戦略2:所得倍増計画
中国は、科学技術のイノベーションに加え、1人当たりGDPを2035年までに中等先進国並みに引き上げる長期目標を掲げています。

中等先進国とは、2~3万米ドルのギリシャやイタリア、韓国などを想定しているとされ、中国の現時点の2倍以上の水準です。(2019年時点)

当計画の実現に当たっては、内需主導型の成長、自給自足の強化、世界の中国依存度向上の3つを重視した成長戦略「双循環」での成長を目指すとしています。

また、最近の報道で目にする「共同富裕」政策は企業や富裕層への規制強化、との指摘もありますが、これは不動産価格の抑制や教育、医療費の負担軽減などにより、低所得者の収入を引き上げて中流階級に押し上げることで、貧富の格差を縮小させることを目指しており、所得倍増を達成するための手段の一つとみられます。

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このように、中国は自国産業の強化や、国民所得の底上げによる内需拡大との相乗効果などにより、今後も、着実な経済成長が期待されます。

【図表】[左図]国際特許出願件数の上位5ヵ国、[右図]主要国の1人当たりGDPの推移
  • 上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。