IMF(国際通貨基金)は、10月12日に発表した最新の経済見通しで、世界の今年のGDP成長率を小幅に引き下げ、5.9%としました。感染力の強いデルタ型変異株の流行により、経済活動の完全な正常化が妨げられており、回復の勢いが衰えているとして、世界全体で0.1ポイントの下方修正となりましたが、それでも1980年以降で最も高い成長率となります。来年については、見通しを変えず+4.9%としました。

先進国では、世界全体と比較して下方修正幅が大きくなりました。この背景には、自動車関連の部材不足など、世界的な供給網の混乱による影響があります。特に、世界経済のけん引役である米国では、バイデン政権が3月に決定した財政出動と新型コロナウイルスのワクチン普及などで経済再開が加速し、需要が急拡大したことから、供給制約による物価上昇の影響を大きく受けることとなりました。加えて、足元の消費の弱さなどから、今年の成長率予測は1ポイント引き下げられました。しかしながら、経済再開が進むユーロ圏の今年の成長率予測が引き上げられるなど、ワクチン接種が進んでいるほか、継続的な財政支援が見込まれる先進国の見通しは引き続き強いものとなっています。

新興国では、ASEAN(東南アジア諸国連合)5ヵ国の見通しが大幅に下方修正されました。東南アジアのワクチン接種が伸び悩むなか、厳格な活動規制などを背景とした部材供給の停滞が、当該地域のほか先進国などの経済成長にも大きく影響しています。一方で、一次産品輸出国の成長見通しの改善などを受けて、今年の新興国全体の経済成長率は小幅に上方修正されました。

なお、物価について、IMFは、原油など国際商品市況の上昇が今後も続く可能性など、不確定要因が多いことを強調し、物価上昇が加速した場合には、各国中央銀行による迅速な行動が必要としています。ただし、物価はこの年末にかけてピークを付け、来年の半ばにかけてはコロナ禍前の水準に落ち着く可能性が高いとみられています。

IMFは、世界経済の回復は続いているものの、見通しには下振れリスクが引き続き大きいとしています。ワクチン普及の遅れなどに伴ない、新たな変異株が出現し、経済活動の低迷につながる可能性のほか、先進国と新興国との経済の回復の格差が今後拡大するとの懸念にも言及し、これを防ぐべく、世界全体でワクチン接種を公平に進めるための多国間行動が必要としています。

【図表】[左図]IMFの世界経済見通し、[右図]先進国と新興国の回復は二極化
  • 上記は過去のものおよび予測であり、将来を約束するものではありません。