経済指標下振れの一方で、インフレ懸念も
中国や米国で足元、市場予想を下回る経済指標の発表が目立つ(左グラフ参照)一方、世界的にインフレが加速しています(右グラフ参照)。こうした中、景気の停滞とインフレが同時進行することを指す、「スタグフレーション」という言葉を耳にする機会が増えつつあります。

悪材料が相次ぎ、長引きつつあるインフレ
今春、インフレが加速し始めた際には、1年前に新型コロナウイルスの感染が世界に拡がり、物価が下落した反動の影響が大きいとして、インフレは長続きしないとの見方が有力でした。

しかし、経済活動の再開などに伴ない、需要が高まる一方で、原材料・部品の調達から生産・物流・販売・配送までの供給網、いわゆるサプライチェーンの混乱などを背景とした品不足という問題が生じました。例えば、世界の工場となっている東南アジアでの新型コロナウイルスの感染拡大が、様々な部材の供給停滞につながりました。

さらに、足元では、原油や天然ガスの価格上昇が顕著となっているほか、中国では、温暖化対策で石炭の生産が制限されたことを背景に、電力不足が起きています。こうした中、インフレの加速や長期化を懸念する声が拡がりつつあります。

中央銀行だけでなく、政府なども対応に動き出す
中央銀行など、各国当局が掲げる物価目標を上回るようなインフレが長引けば、今後もインフレが続くとの「インフレ期待」が拡がり、買い占めや売り惜しみなどを通じて、インフレ激化につながる恐れがあります。こうした事態を避けるべく、欧米の主要中央銀行などは、経済活動の再開に伴なう混乱が問題の主因だとして、足元のインフレは一過性との見解を繰り返し表明しています。

さらに、足元では政府なども対応に動き始めており、米国では、官民が連携してサプライチェーン問題への対策を強化するほか、EU(欧州連合)は、産業界への補助などの短中期の対応を発表、さらに、再生可能エネルギーへの移行を促進する考えを示しました。また、中国でも、当局が電力不足の緩和に向け、石炭の増産を指示しました。

目先、インフレは加速も、来年半ばにかけて鈍化
IMF(国際通貨基金)は、10月6日に発表した「世界経済見通し」の中で、主要中央銀行と同様に、足元のインフレは一過性との見解を示しています。そして、インフレ率は今年末にかけて、先進国で平均3.6%程度、新興国では平均6.8%程度でピークをつけ、2022年半ばまでには、先進国でコロナ禍前の水準の2%程度に落ち着き、新興国でも4%に低下するとの見通しを示しました。

インフレは一過性とみられているものの、目先、さらに加速する可能性もあり、警戒は怠れません。しかし、政府などの対応が拡がれば、来年にかけて落ち着く可能性も高まると期待されます。

【図表】[左図]経済指標のサプライズ指数の推移、[右図]先進国、新興国の消費者物価上昇率の推移
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。