インフレ警戒感が強まる中、11月中旬に金価格が1トロイオンス=1,850米ドルを上回る、今年6月以来の水準に上昇し、動意含みとなっています。

オイルショック時、金とインフレの連動性は鮮明
金はインフレに強い資産とされています。金価格とインフレの長期推移をまとめた左下のグラフを見ると、1973年および1979年の2度のオイルショックの影響で物価が高騰した際、金価格も急騰しました。その後、物価上昇が沈静化に向かうと、金価格も下げに転じるなど、概ね1990年代までは金価格とインフレの連動が鮮明でした。

2000年以降、実需の拡大が金価格を押し上げ
ただし、2000年以降は、連動性が不鮮明です。その背景として、それ以前に比べ、物価の振れがかなり限定的になったことに加え、実物資産としての金の需要拡大に伴ない、金価格の上昇が続いたことなどが考えられます。

実物資産としての需要拡大の理由として、まず、中国やインドなどでの、経済発展に伴なう宝飾品需要の高まりが挙げられます。両国は、伝統的に金への嗜好性が強いとされ、宝飾品としての金の需要において、両国を合わせた世界シェアは2020年で約52%に及びます。

もう1つの理由は、各国の中央銀行による公的準備としての金保有の増加です。米ドルに偏る外貨準備の分散の一環として、リーマン・ショックが起きた翌年の2009年以降、中央銀行による金の保有量が拡大傾向となっています。

足元、金価格は実質金利の動きに連動
なお、金価格は、足元でインフレと無関係に推移しているわけではありません。右下のグラフが示す通り、近年、金価格は、市場の予想インフレ率を織り込んだ「実質金利」とかなり連動しています。

実質金利は、債券利回りなどの名目金利から市場の予想インフレ率を差し引いて算出される金利水準で、名目金利が下がったり(上がったり)、市場の予想インフレ率が高まる(低下する)と低下(上昇)します。そして、保有しても金利がつかない金は、実質金利が低下(上昇)すると相対的に魅力が高まり(下がり)、価格が上昇(低下)することになります。

名目金利として米10年国債利回りを見ると、足元では1.6%弱となっていますが、市場の予想インフレ率はそれを上回る2.7%程度に及んでいるため、米国の実質金利はマイナスとなっています。欧米金融当局は、足元のインフレ昂進は一時的との見方を繰り返し示していますが、インフレが長引き、市場の予想インフレ率がさらに高まる場合、実質金利のマイナス幅が拡がり、金価格の押し上げ要因になると考えられます。また、米実質金利のマイナス幅拡大で為替が米ドル安に振れれば、それも金価格の上昇要因になると期待されます。

【図表】[左図]金価格と米インフレ率の推移、[右図]金価格と米実質金利の推移
  • 信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成
  • 上記は過去のものであり、将来を約束するものではありません。