半導体の安定供給確保の重要性が高まる
コロナ禍を受けてのデジタル化の進展やサプライチェーンの混乱は、世界的に深刻な半導体不足を招き、半導体は国の安全保障をも左右する戦略物資に位置付けられるようになりました。日本でも安定供給をめざした国家事業として、21年に「半導体・デジタル産業戦略」が打ち出されましたが、その後も生成AI(人工知能)向け需要の急拡大や米中半導体摩擦の長期化など、半導体供給を巡る危機感は年々高まっています。

政府は半導体産業への手厚い支援を継続
近年、日本政府は半導体分野への積極的な支援を展開しており、21年からの3年間に投じられた額は、GDP比で先進国最大規模となる、約4兆円に上ります。先月末に閣議決定された24年度補正予算においても、半導体やAI開発などの支援に約1.5兆円の大規模な予算が計上されました。

予算に先立って11月22日に決定された総合経済対策には、半導体やAI分野への新たな投資促進策が盛り込まれました。政府は最先端半導体の製造をめざすラピダスなどを念頭に、今後10年で50兆円を超える官民投資を引き出すとしており、その呼び水として、30年度までに10兆円以上の公的支援を行なう計画です。今回の補正予算はその第一弾となるもので、石破政権への交代後も、政府が半導体産業に継続して支援を行なう姿勢が改めて明らかにされました。

半導体産業による経済効果は非常に大きい
こうした中、日本の先端半導体の製造基盤として大きな期待が寄せられているのがJASMとラピダスです。政府が世界最大級の半導体メーカー、TSMC(台)の熊本県への誘致を実現し、設立されたJASMには、これまでに約1.2兆円もの公的支援が決定しています。間もなく予定される第1工場の稼働や第2工場の着工を前に、周辺地域では関連産業の大型投資が相次いでおり、熊本県に進出・投資する企業は170社超、全体の経済波及効果は11兆円超(22-31年)に上ると試算されています。

また、国内8社の出資で設立されたラピダスには、現時点で最大9,200億円の政府支援が予定されており、北海道千歳市の本拠地では27年度の量産開始に向けて工場建設が本格化しています。試算では、同社進出による経済波及効果は最大で累計11兆円超(23-36年度)となる見込みです。

今後も大規模な投資と企業の成長が期待される
製造工程の多い半導体は関連産業の裾野が広く、上記のように大きな経済効果を生むとされています。今回新たに打ち出された半導体・AIへの支援によって、政府は160兆円程度の経済波及効果を実現するとしており、巨額の投資をきっかけに、経済の好循環がつくれるかに注目が集まります。

日本が先端半導体分野で再び世界に追いつくのは決して容易ではありませんが、ここが最後のチャンスとも言えるだけに、政府の本気度は極めて高く、日本の半導体産業復活の機運は高まりつつあります。今後も、政府の後押しを受けた更なる投資拡大と半導体産業の成長が期待されます。

【図表】[左図]半導体・AI関連予算の概要、[右図]日本の主な製造業の設備投資額推移
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