ブラジル通貨、対米ドルで最安値、対円でも軟調
ブラジル・レアルは、コロナ禍に見舞われた2020年につけた対米ドルでの安値を割り込み、最安値圏で推移しています。昨年末からの下落率は18%強と、通貨切り下げのあった一部通貨を除くと主要通貨で最大となっているほか、対円でも約12%安と、軟調です。この主な背景は財政への懸念です。

左派政権の下、くすぶり続ける財政への懸念
ブラジルでは、労働者党のルラ氏が23年1月に大統領に返り咲きました。同氏は、16年8月以来となる左派政権を率い、低所得層向けの現金給付を増やしました。ただし、23年8月には、歳出の伸び率を歳入増加率の7割(基礎的財政収支の目標を達成できなかった場合には5割)以内とする新たな財政規則が導入され、歳出増に一定の歯止めがかかることとなりました。さらに、同年末には、複雑すぎると批判されてきた税制の簡素化が進みだしました。こうした動きが好感され、株価やブラジル・レアルの上昇につながりました。

ところが、政府は24年春、基礎的財政収支を同年に均衡させ、25年にはGDP比0.5%の黒字にするとの目標を取り下げ、均衡達成を25年、黒字化を26年にそれぞれ先送りし、26年の黒字の比率も0.25%に引き下げました。

さらに、11月には、基礎的財政収支の目標達成に向け、26年までの2年間で総額700億レアル(GDP比0.6%強)の歳出削減計画を発表したものの、低所得者層に対する所得税免除の拡大と、それを補うための高所得者層への増税という、所得税改革案を併せて公表しました。同案が政権の財政運営に対する懸念の再燃につながったほか、少数派にとどまる連立与党が、これらについて議会承認を得られるかどうかが不透明なこともあり、市場で警戒感が拡がることとなりました。

中銀は利上げを積極化させ、足元で大幅利上げ
一方、足元の同国では、干ばつや世界景気の鈍化の影響から外需が低調ながら、消費や投資など、内需をけん引役として景気は堅調で、労働需給もひっ迫気味です。また、レアル安の進展もあり、インフレ率が高止まりする中、中央銀行は、9月に約2年ぶりに利上げを決定し、政策金利を0.25ポイント引き上げたのに続き、11月には利上げ幅を0.5ポイントに拡大、さらに、12月11日には、1.0ポイントの追加利上げにとどまらず、25年1月および3月の会合での同幅での利上げの可能性を示唆しました。

市場予想を上回る利上げ決定および向こう2会合での大幅利上げ継続の示唆を受け、11日のブラジル市場では、ブラジル・レアルが反発しました。ただし、ルラ大統領はかねてから、高水準の金利が成長の妨げになっているなどとして、利下げを求めてきました。それだけに、今後のレアルの方向性を巡っては、財政健全化に向けた政府の取り組みや中央銀行による利上げの行方に加え、中央銀行に対するルラ大統領の姿勢なども注目されます。

【図表】[左図]ブラジル・レアルと株価、国際商品市況の推移(2019年1月2日~2024年12月11日)、[右図]ブラジルの主要指標の推移(2022年1月~2025年12月予想)
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