トランプ次期米大統領が11月下旬、就任初日(2025年1月20日)にメキシコとカナダからの輸入品に25%、中国からの輸入品に追加で10%の関税を課すと表明したことなどを受け、米国の関税政策の行方が警戒されています。そこで本稿では、同国の関税政策について、20世紀以降の歴史的変遷を長期比較が可能な実効関税率(関税収入÷輸入額)の推移とともに振り返り、さらにトランプ政権2期目での展開などについて考えてみます。
第二次世界大戦の反省から進められた自由貿易
下グラフにあるように、20世紀初頭から1920年頃にかけて、米国では、自由貿易への気運が徐々に高まる中、実効関税率が大幅に低下しましたが、その後、1930年代にかけては、大恐慌などを背景に、米国を含む主要国で国内産業の支援を目的とした保護主義政策が実施され、実効関税率は一時的に、大きく上昇しました。
もっとも、第二次世界大戦を経て、一連の保護主義政策は、大恐慌の影響を深刻化させただけでなく、世界の分断を生み戦争の一因になった、との認識が形成されました。こうした反省から、1947年締結、翌1948年にスタートしたGATT(関税及び貿易に関する一般協定)体制や、それを継承・拡充するかたちで1995年に発足したWTO(世界貿易機関)体制の下で、自由貿易が推進され、米国の実効関税率は2000年代にかけて低下傾向となりました。
しかし、2010年代に入ると、国内産業の衰退を背景にした反グローバル化の動きや、中国の台頭への警戒感などから、自由貿易への懐疑的な見方が強まりました。こうした中、2016年にはじまったトランプ政権1期目では保護主義政策が推進され、続くバイデン政権でも対中政策を中心に、その路線が継承されました。その間、実効関税率はWTO発足前の水準付近まで上昇しました。
トランプ政権2期目は1期目を上回る強硬路線か
このように保護主義が台頭する中、トランプ政権2期目の実効関税率がどの程度になるのかが注目されます。そこで、Tax Foundation(米国の民間独立税制調査機関)の手法に基づき試算してみたところ、大統領選挙戦からのトランプ氏の発言内容が実現した場合、米国の実効関税率は、GATT締結時の水準付近か、それ以上となる可能性が示されました(下図右のシナリオ別実効関税率①~③)。トランプ政権2期目の関税政策は、1期目よりも一段と強硬になるおそれがあるといえそうです。
ただし、トランプ氏の高関税発言は、次期米財務長官に指名されたベッセント氏が言及しているように、貿易交渉の手段に過ぎないとの見方があります。また、自由貿易への逆風は強まっているものの、実効関税率は依然として歴史的低水準にあり、今後の貿易交渉次第では、現時点からさほど上昇しない可能性も考えられます。こうしたことから、強硬路線のリスクに注意しつつも、実際の政策を冷静にみていくことが重要になりそうです。
- 上記は過去のものおよびシミュレーションであり、将来を約束するものではありません。