今年1月末、中国発のAI、「ディープシーク」の台頭によって米ハイテク企業の優位性が揺らぐとの懸念が拡がり、関連銘柄が一時的に調整しました。一方、中国の株式市場では、旧正月の大型連休が明けた2月上旬以降、米トランプ政権による追加関税が市場の重荷となる場面もあったものの、ハイテク銘柄を中心に株価が上昇基調となりました。
中国発AIの台頭がさまざまな産業を牽引
中国スタートアップのAI企業、ディープシークが1月20日にリリースした「ディープシークR1」は、開発費用を大幅に抑えたとされているものの、米オープンAIの「チャットGPT」と同等の性能を提供できるとして大きな注目を集めました。また、中国の巨大テック企業アリババは、世界最高水準とするAIモデル「Qwen」の最新版を同月29日にリリースしたのに続き、米アップルが中国で販売するスマートフォン向けAIでの提携を発表し、話題になりました。
こうした中、中国国内ではディープシークを自社製品やサービスに導入する動きが相次いでおり、AI開発企業はもとより、百度、アリババ、テンセントといった巨大ハイテク企業のほか、通信、自動車、製造、金融、ヘルスケアなど、多岐にわたる業種で企業によるAIの商用化が急速に進んでいます。
中国では、米中対立の長期化を背景にハイテク分野で様々な内製化が進められており、先端半導体や人型ロボットなどで一定の成果を上げ始めています。中国発AIの台頭は、ハイテク産業の更なる進展とともに、関連銘柄の再評価につながるとして市場の期待が高まっています。
中国政府が民営企業支援に舵を切るか
こうした状況下、2月中旬に習近平国家主席が大手民営企業との座談会に出席したことが大きく報じられました。企業側の出席者はそうそうたる顔ぶれであり、アリババ創業者の馬氏をはじめ、CATL、ファーウェイ、BYD、シャオミといった、中国を代表するハイテク企業などのトップが一堂に会しました。
中国政府はこれまで国有企業を重視する一方、民営企業への統制を強める政策を採ってきました。なかでもアリババは規制対象の代表格とみられていましたが、今回の座談会で習氏と馬氏が握手を交わす場面が公開されたことは広く注目され、政府による民営企業への友好姿勢を象徴するとの受け止めが拡がりました。加えて、座談会の開催が3月上旬に予定される全人代(全国人民代表大会、国会に相当)直前のタイミングであったことから、全人代では民営企業やハイテク企業に対する政策も重要なテーマになるとの見方が強まっています。
株式市場への資金流入が続くかに注目
米中対立の先行き不透明感に加え、長引く中国経済の低迷などから、海外投資家は中国株への慎重姿勢を維持することも考えられます。一方で、中国本土市場の売買主体である国内の個人投資家の間では、政府による財政出動拡大や景気支援強化への期待が根強く、今後も株式市場への資金流入が続く可能性があります。民営企業への支援の可能性も含め、まずは全人代の行方などが注目されます。
