神山解説

  • 2025年3月7日

vol.59 日本株は弱気相場入りなのか



消費回復が株価上昇のカギと考える

日経平均株価は2024年7月の急上昇と8月の急落の時期を除いて、この1年ほど38,000~40,000円のレンジで動いてきました。2025年2月の終わりにレンジ下限を37,000円に切り下げたのですが、米国のAIや半導体関連への過度な期待の揺れやトランプ政権による貿易関税率の引き上げが理由であり、これは心理的な動きに過ぎないと言えます。トレンドに変化は感じられません。

長期投資には弱気相場という言葉は不要で、強気や弱気がサイクルを持って相場を動かすとしても、例えば5年も経って見直してみれば影響は限定的です。

次に、サイクル的な弱気相場の定義は、最近の高値を2割下回った場合(2ヶ月で株価が2割下落という説もあるそうです)などと言うこともあるようですが、日経平均は今年の高値の40,083円ほどから2月28日の37,155円まで7%程度下がったところで、弱気を語るほどでもありません。

日本に生活していると実感が湧かないかもしれませんが、これからの日本株の上昇は賃金上昇による消費拡大に依存するとみています。生活感覚では、強いインフレ、特に米の価格のような生活に近い商品の価格上昇が、賃金上昇では追いつかないというものでしょう。これは経済統計で裏付けられており、2024年末ごろにインフレ率と賃金上昇率がやっと同じ程度まできたところです。生活感覚が改善してくるのは、インフレが終息し収入増が実感される25年の中ごろ以降とみています。

消費回復が株価上昇のカギと考える

ところで、日本の消費回復は、実は日本で生活する私たちが長らく見なかったものです。日本は、コロナ禍からの回復を通じて初めて、リーマンショック後のヒト・モノ・カネの余剰から不足への転換という構造変化、言い換えるとトレンドの変化を起こしつつあります。この余剰から不足への転換とは、脱デフレ体質への変化と考えてもいいでしょう。ヒト・モノ・カネが不足するから賃金が上がり、設備投資が強まり、金利がマイナスからプラスに転じているのです。

こう考えると、日本の場合、消費が回復するというのは、体質が変化しているのであって、単にサイクルとしての景気が良くなることとは違います。全ての資産を日本株に投資することが適切とは思いませんが、日本株への投資を意図的に避けてきた人には状況を知ってもらいたいと考えています。つまり、日本経済がリーマンショックやデフレから正常化する可能性が高い状態になっているのです。そうなると、日本経済は海外経済が良いからつられて良くなるのではなく、物が売れるから人手不足になり、賃金が上がり、消費が増え、また物が売れるという好循環に入ることができます。

人口が減る日本への投資はやめておいた方がいいのか

さて、余剰から不足への体質転換が進むと言っても、所詮日本なんてもう成長しない、人口減の国にあえて株式投資なんてしないという一見ロジカルな反応もあります。しかしこれは株式投資への誤解です。株式投資は経済規模への投資ではないです。株式投資は成長と効率への投資なのです。成長なら規模の成長だろうと思うかもしれませんが、株式投資は1株あたりの利益成長への投資です。この違いは大事です。

仮にこれから日本の人口が毎年1%(120万人くらい)減るとしましょう。貿易はないとして考えます。企業の売上も労働人口も同じペースで減るとすれば人手不足は今と同じです。輸出しない前提で企業はみんなで1%ずつ減る売上に合わせて1%生産を減らすからです。

これに合わせて株式会社は資本も1%減らします。生産が減るから投じるお金も減らせば良いのです。時価総額は1%減るでしょうが株数も1%減るので株価は一定です。そうです、株式会社制度の下では、人口減でも株価は一定になるのです。そうすれば、株価指数も変わりません。全ての企業が投下資本を減らした場合、個々の企業の時価総額が減少しても、株価指数内での割合は変わりません。そのため、人口減少は株価指数に影響を与えないでしょう。ポイントは、人口減・売上減に合わせて投下資本を減らすことができることです。株数が減れば株価も株価指数も低下しません。

労働人口が人口減よりも早く減る「高齢化」はここでは問題にしていませんが、高齢化への対応は社会的な課題であって株式会社の仕組みの問題ではありません。また、貿易が可能な現実世界では、海外からエネルギーや原材料を輸入し、製品を海外に販売することができるため、資本を減らす必要はないかもしれません。これは消費財などを生産する企業の国内人口減への対応として良いかもしれませんが、人口減で株価が下がるという問題とは別問題です。

結論は、人口減の国の株式は買わないというのは論理的には間違いだということです。人口減の国が高齢化に悩まされたり非効率な生産を残して成長できなくなったりするリスクはありますが、そうならなければ良いということです(詳しくは証券アナリストジャーナル25年2月号に書きました。ご興味あればどうぞ。ご参考:証券アナリストジャーナル [展望] 人口減と株価に関係はない(神山直樹) ※日本証券アナリスト協会のウェブサイトにリンクします)

一株あたりの利益が高くなれば株価が上がることと似ているのが、一人当たりのGDPが高くなれば個々人の幸せは高まるということです。GDP規模は幸せにつながりません。GDPで他の国に抜かれるよりも大事なことは、一人当たりGDPでより豊かになることです。これは一株あたり利益が上昇することと両立します。一人当たりGDPが増える、一人当たり売上が増える、労働者の権利が適切に守られ雇用者と資本への分配が一定とすれば、株式のリターンと給与上昇は両立します。

人口が減る日本への投資はやめておいた方がいいのか

日本株への投資の意味 ~神山解説

日本株は現在、大きな転換点にある可能性があります。人口減少が進む中でも、日本株への投資は有望です。言い換えると、この転換点をうまく掴むことで、日本が変わっていく可能性に賭けることができます。さらに、人口減少に対応して日本企業が賢く戦略を立て、非効率に陥らないようにすることに期待することも、日本株投資のテーマと言えるでしょう。どちらも少なくとも五分五分以上の確率で成功するとみています。

もしこのような日本の変化が実現すれば、コロナ禍で大幅にドル高円安になっているドル円が円高に正常化しても、日銀が政策金利をマイナスやゼロからプラスに正常化しても、日本株は上昇できるでしょう。

一方で、世界のイノベーションを支える企業の多くはアメリカにあり、欧州にも世界に誇るさまざまな企業群があります。またアジアなどに成長する国や企業があります。

日本だけが最高の投資成果を生むと言いたいわけではなく、このような日本の変化を知っておくことは重要だといいたいのです。日本には世界市場で受け入れられる企業が多く存在し、これまでと違う日本に期待できると考えられます。そのため、適切な程度にリスクを取る機会になっていると考えています。

この記事に関連する日興アセットのETF

日本株に分散投資ができるETF

1308 - 上場インデックスファンドTOPIX*

1330 - 上場インデックスファンド225*

※上記の*のついている銘柄は新しいNISA制度の「成長投資枠」の対象ETFです。

神山直樹

<解説者>
神山直樹(かみやま なおき)

日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト
2015年1月に日興アセットマネジメントに入社、現職に就任。1985年、日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)にてそのキャリアをスタート。日興ヨーロッパ、日興国際投資顧問株式会社を経て、1999年に日興アセットマネジメントの運用技術開発部長および投資戦略部長に就任。その後、大手証券会社および投資銀行において、チーフ・ストラテジストなどとして主に日本株式の調査分析業務に従事。

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