3周年特別対談 山崎元、再来!3倍3分法を2年越しにレビュー

2021年10月に3周年となった「グローバル3倍3分法ファンド」。コロナ・ショックなどの大きなマーケットの変動も経験し、投資環境も日々変化する中、当ファンドのこれまでの運用実績はどのように評価され、また長期の資産形成に活用できるファンドと言えるのか。2019年10月開催の公開イベント「山崎元が斬る!グローバル3倍3分法」から2年を経て、2021年10月、再び経済評論家山崎元氏と、日興アセット商品開発部長有賀潤一郎の対談が実現しました。

-商品性と設計への想い

山崎氏(以下敬称略):
まず、3周年ということで、おめでとうございます。私は、商品について面白いとか楽しみだとかだけ言っていれば良いので気楽な立場ですけれど、その後どうなったのかなと気になっていました。今回、こうしてまたレビューをできる機会があり、とても嬉しいことですね。

有賀:
私も山崎さんとまたお会いできて嬉しく思います。では、まずこのファンドの商品性を改めてご説明します。当ファンドは、株式とREITと国債の3つの資産に投資を行なう「3分法」ファンドです。資産配分比率は、国内外の株式に60%、国内外のREITに40%、さらに先進国の国債に200%、合計で300%。純資産の3倍相当額の投資を行なっており、「3分法」の「3倍」なので「3倍3分法ファンド」というファンド名としています。

山崎:
ファンドの設計思想も今一度お聞かせください。

有賀:
一般に分散投資をすると、ポートフォリオ全体のリスクを低減させる効果が期待できるということはよく知られています。この商品を組成するにあたりこだわったところは、分散の効果だけでなく、リターンも享受できる仕組みにしたいということでした。株式と債券を組み合わせる時に、非常に分散の効いた効率的なポートフォリオを一旦作った形にし、それに対して3倍のレバレッジをかけることで、リターンを薄めずにできるのではないかと考えました。効率的な分散ポートフォリオ曲線、つまり有効フロンティアに対して、同じリスクでありながらより高いリターンの位置に、ファンドのリスクリターン値をプロットさせたい、それを目指して商品設計をしました。

山崎:
1リスク当たりのリターンの比率をシャープレシオと言いますけど、シャープレシオが最大になるところを作って、全体のリスクを最適な大きさまで倍率をかけて持っていくということですよね。金融理論の入り口のところの基本的なアイディアですが、それを本当にファンドとして実現しようとしたところにすごく面白さっていうか、なんかすごくオーソドックスなやる気、みたいなものを感じたのを覚えています。

-純資産の3倍分の投資、その仕組み

有賀:
当ファンドは先物を活用して純資産の3倍相当額に投資をしています。まず、現物の海外先進国株式、海外新興国株式、日本REIT、海外先進国REITにそれぞれ20%ずつ合計80%。そして現金を20%程度キープし、そのうちの数%を証拠金として、日本株式20% と世界の国債200%を先物で手当てしています。それにより、合計300%の資産に投資をすることができています。

山崎
これを個人がやろうとすると相当の金額が必要ですし、証拠金のオペレーションだとか、先物でポジションを作って管理するっていうことはかなり大変です。株式と債券を組み合わせると、効率の良い点ができるかもしれないなと思っても、現実の個人が同じような運用をすることは非常に難しい。ですから、こういった仕組みをファンドの形で管理してくれるというところに、ファンドならではというか、投資信託ならではの商品価値があると2年前にそう思いましたが、また今改めてそう感じます。

-設定来の運用実績について

有賀:
このファンドは2018年10月に設定、運用を開始しました。当ファンドを設計する際、ファンドのパフォーマンスが高い確率で構成資産よりも上位にあるようにすることを目指していました。足元では、概ね設計通りのイメージにあると考えています。設定来のリスクリターンでは、日本株式、海外先進国株式、海外新興国株式、日本REIT、海外先進国REITという5つのリスク資産よりも当ファンドのリスク値は低い水準となっています(2021年9月末時点)。さすがに世界国債よりはリスクは高いですが、この期間、その他の5つのリスク資産よりも低いリスクで高いリターンを提供できていたと考えます。

山崎
それぞれのリスク資産よりも低い位置にファンドのリスク値があるという、この実績には感心しますね。リターンというのは結果論なので3年間の累積リターンというのはそれほど参考にはなりませんが、その期間のリスク値というのは、各資産の本来的な特性を表すものとしてある程度参考になるものです。そう考えると、このファンドは分散投資の効果を発揮しながら、つまりリスクを抑えつつ、有効フロンティアの上を行くリターンを得たということですよね。これはもう設計思想が本当にそのまま現れているっていうことでしょう。運用商品を選ぶ観点から考えても、これは非常に価値の高いことです。運用報酬の何倍かの価値をうまく提供できていると言えると思います。

-ファンドの投資対象と資産配分がポイント

有賀:
当ファンドでは、「大まかなリスクパリティ」という概念を導入しています。株式60%、REIT40%、それから債券先物200%の基本資産配分というのは、各資産のリスクが概ね同じ大きさになる配分です。また各資産の上昇下落を予想し売買するといった人の判断は導入せず、基本資産配分を定めることで、大外しすることもないだろうとも考えました。実際、各国の債券先物と株式・REITとのそれぞれの相関係数を見ていただくと、すべてマイナスの数字、逆相関となっています。これを発見したことが、この商品を設計する大きなヒントでした。逆相関同士が組み合わさることで、値動きの打ち消し合いの効果が起きるだろうと商品設計段階でも期待していましたが、実際の運用においても、この期間その効果が発揮されていたと考えています。

山崎
逆相関の利用っていうのは、ある意味でちょっと大げさですけどファンドマネージャーの夢というか。このような逆相関のものを見つけてうまく組み合わせることがポートフォリオを作ることは最大の効果だと思います。しかし、なかなか都合の良い逆相関の組み合わせというのはないんですよね。むしろ相関係数がプラスの低い数値にある、あるいは無関係ぐらいのものを見つけられるだけですごくラッキーです。そういう意味で、債券先物と株式・REITがマイナスの相関を持っていることを見つけられたことは、非常に大きな発見でしたね。相関係数が今後も常にマイナスとなるかは分からないですが、しかしこれを利用しない手はありません。これを利用した人としない人とでは、運用の質に大きな差があっただろうなと思います。

-バランスファンドなのに、リターンランキング1位の時も

有賀:
各資産のリターンの水準をランキングした時に、一般的なバランスファンドですと真ん中くらいの位置になりやすいのですが、このファンドは月次で見ると1位になっている時も見られます。これは非常に珍しいことだと思います。また、債券がマイナスの時は、株式やREITがプラスである傾向が多く見られており、各資産がそれぞれ打ち消し合いをするという逆相関性も確認できます。この3年という期間では全部の資産がプラスになりました。これは少し運が良かった部分もあるかもしれませんが、いずれも長期的には値上がりが期待されるリスク資産を組み入れています。途中途中は上がるものや下がるものがありますが、なるべく逆相関性のある資産を組み合わせようという基本に忠実な商品設計と、その投資理論は効いていたのだ、と思える3年間だったと考えています。

山崎
お見事と思いますね。兜を脱ぎたいところです。

-投資環境の変化と当ファンドの付き合い方

山崎
例えば金融政策が引き締めに向かって、長期金利も上昇し、金利は上昇する・債券は下がる。金利が上昇するような環境ということで、当然株価にもマイナスの影響が出かねないので、そういった場合に両方下がるというようなことはありえますよね。

有賀:
金利上昇やテーパリングについてどう考えるか、というご質問はよくいただきます。金利上昇は債券価格の下落となりますので、もちろんリスクとしてはあります。ただし、今後債券先物の期待リターンが仮に相当に低くなっても、ポートフォリオ全体を考えると、この逆相関という観点からは債券先物に投資していく動機は十分にあります。ただ、マーケットは予測できませんので、そうした想定も含め、商品設計においては「金利リスクの(5ヵ国への)分散」を非常に重視し、国や資産の幅広い分散のもとで、マーケットのリターンを効率的に集められるよう設計しています。
テーパリングに関しては、金融緩和を先細りさせていくということですから、インフレとか景気拡大の期待があれば、むしろテーパリングをしてもらった方が良いので、それ自体に関しては中立です。ただし、マーケット全体が想定していたよりも強いテーパリングが起こった時に、たとえば2013年のバーナンキ・ショックがそれに近かったと思いますが、金利が上昇して一緒に株も同時に下がってしまうこともありますので、そのような時は注意が必要だと思います。

山崎
そうですね。ただそういう時は、他のファンドにとってもあまり幸せな状況にはならないっていうことでしょうから、投資家皆で我慢しなきゃいけないっていうようなことになるでしょうね。金利が上がりそうだからといって一旦手放して、金利が上がり切ったところでもう1回買い直そうなどということは、株価が予見できないのと同じぐらい難しい話なので、結局は、上げ相場も下げ相場も、全部付き合うつもりで長く持つことでしょうね。

有賀:
その通りだと思います。

山崎
コロナ・ショックの時の教訓というのは何だったかというと、その時々の情報というのはすでに資産価格に反映しているということでした。ですから、何かよほど特別な見通しでも持っているのではない限りは、もうそのリスクアセットを持ち続けて、リスクプレミアムを長い期間かけて実現させようとする、投資家にできることは基本的にそういうことだけです。将来、お金が必要になったときに部分的に解約して気持ちよく使うというような付き合い方をするのがいいと思うんですよね。このファンドはたぶん、そういう付き合い方ができるタイプのファンドだと思います。

-いつでも買えて、いつまでも持てるファンド

山崎
例えば、ある種のそのテーマファンドみたいなものってありますよね。そのテーマが有効なときには、持っていて楽しいかもしれないけれど、そういう商品は長く持ちましょうということにはあまり適さないと思います。一方でこのファンドは、分散してかつリスクを抑えるような組み合わせでオペレーションしているということなので、これは長く持てるファンドであるとは思います。

有賀:
ありがとうございます。加えて、当ファンドの投資対象はインデックスと先物であり、運用コストが低いものとなっています。商品開発段階においても、大きな規模の資産を目指して、その分、信託報酬を抑えた設計にしました。運用コストという点からも、長期投資に利用していただきやすい仕組みにできたと考えています。“マーケットを広く・厚く、思惑を入れずに固定・低コストで押さえ続けることで、「いつでも買えて、いつまでも持てる」”そんなことを目指しました。

山崎
長期的に運用しよう、なるべくリスクを抑えた状態で、でもポジションは持っていたいっていう人たちがちょっと興味を持つんじゃないかっていうような、そんなファンドですかね。iDeCo を使ってつみたてNISA 使って、もう少し資産形成が必要だなっていうようなときの候補に入ってくる商品だと思います。つみたてNISAの次として、その長期的な資産形成の手段になりうる、そんな位置付けなのかなと思います。

-最後に

有賀:
当ファンドは有効フロンティアよりも高いところを目指すというコンセプトで設計し、投資対象を3資産に分散し、レバレッジをかけたバランスファンドです。設定から約3年と、運用実績も整ってきました。投資家の皆様には、これからもより一層このファンドの特徴に注目いただき、ぜひ長期でご保有いただければと思います。

山崎
株式やREITのエクスポージャーが100%あっても、リスクを抑えることができるはずだという元々の設計思想が、過去3年の実績から具体的に理解できました。中身のわかる人向けのファンドだと思いますが、しかし長期的な資産形成の候補として十分選択肢になりうるファンドだと思います。いつでも買えて、いつまでも持てるというこのファンドに関するキャッチフレーズですが、いつまでも持てるものでなければ、本当、いつでも買えないですよね。そもそも長期投資に適してないものは短期にも適してないんです。ファンドに関しては、特にこの3年間、設計思想をきちんと実現し結果を出されたということに対して、大いに敬意を表したいと思います。