運用担当者が語る
グローバル高配当株投資の着眼点
JPモルガン・アセット・マネジメント(UK)リミテッド
サム・ウィスロー
ポートフォリオ・マネジャー
マネージング・ディレクター
マイケル・ロッシ
ポートフォリオ・マネジャー
アソシエイト
2023年の振り返りと今後
AIブームの市場環境下
高配当に注目する規律ある運用を継続
サム:
2023年の市場環境は、私たちの長年の経験の中でも非常に珍しいものでした。年初は低調な相場になるとの見方が強く、欧米の景気後退も見込まれるほどでしたが、その後、このシナリオは回避され、先進国株価指数*1は30%を超えて上昇するという、結果的には非常に強い相場展開となりました。
*1 MSCIワールド指数(税引前配当込み、円ベース)(当ファンドのベンチマークではありません)
この上昇は、一部の米国テクノロジー企業がもたらしたもので、低バリュエーション(企業価値評価)やコストカットの動き、人工知能(AI)の新たな開発を巡る熱狂などが背景にあります。
2023年のパフォーマンスを細かく見ると、プラスに寄与したのは、旺盛な需要の恩恵を得られた半導体関連の製造装置や素材メーカーでした。その一方で、先進国株価指数に対してのマイナス寄与は、当ファンドでの組入れがない、主に無配当や低配当・低配当成長が見込まれる銘柄でした。
AIブームのような形で市場全体が上昇するという大きな流れ自体は、当ファンドにも恩恵をもたらしました。ただ、当ファンドの戦略の性質上、選定の対象から外れる銘柄が市場全体をけん引する中にあっては、対市場平均という点からはやや見劣りする結果となりました。
AIの新たな活用の広がりというのは、とても魅力的な投資機会だとも思います。ただ、「全世界株式指数のリターンにおける寄与度上位7銘柄によるリターンの推移」からも分かるように、過去20年超の中でも2023年がやや特殊であったという点は忘れてはいけません。そして、2023年に起こったような特定の銘柄にリターンの源泉が集中するといったことが数年単位で続くというのは、想像しづらいものだと考えています。
全世界株式指数のリターンにおける
寄与度上位7銘柄によるリターンの推移
米ドルベース、期間:2001年〜2023年
出所:JPモルガン・アセット・マネジメント ※全世界株式指数(MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス)の毎年の騰落率について、寄与度上位7銘柄によってもたらされたリターンを示したものです。上記は過去の実績であり、将来の運用成果等を約束するものではありません。
高配当株にとってポジティブな
「利下げサイクルの終了」
サム:
これからは、米国連邦準備制度理事会(FRB)による政策金利の引き下げを見据えておくべきだと考えているわけですが、これは高配当株に何をもたらすのでしょう。
利上げサイクルの終了は、高配当株にとってはポジティブなものです。それは、「バリュー」と「クオリティ」の両方を、高配当株が兼ね備えていることに起因します。バリュー株というのは、高い実質金利が低下していくような局面で、うまく機能する傾向があります。また、クオリティ株は、経済が減速し景気後退に向かっていくような局面で注目されます。そして、先行きが不透明な中では、利益成長を背景とした株価上昇よりも、確実な配当収益に投資家の関心が集まり易いという側面があることも付け加えたいと思います。
2000年代のITバブル期ほどではありませんが、高配当株はバリュエーション面で魅力的な水準にあり、今後、割安感が解消していく過程ではリターンを生み出してくれると期待しています。
サム・ウィスロー
銘柄選定の視点とポートフォリオ
高配当だけではない
独自視点で銘柄を3つに分類
マイケル:
JPモルガン・アセット・マネジメントでは、「配当の質」と「配当の成長性」を優先するという投資哲学を採用しています。そして、そのために、世界レベルのリサーチ・プラットフォームの知見を用いています。配当の質と成長性を同時に達成する銘柄を選ぶ一方で、減配する銘柄を回避するというのは、実は非常に難易度が高いものなのですが、そこでアクティブファンドならではともいえる、アナリストの力が活きてきます。
強力な運用体制を敷くことによって、配当成長を犠牲にすることなく、高い配当利回りを達成するポートフォリオを構築しているわけですが、その際には個別銘柄を「成長」「高配当」そして「配当成長」の3つのセグメントに分類しています。
異なる配当の特徴を持つ3つのセグメント
※上記は2023年9月末現在の運用手法(プロセス)であり、将来変更する可能性があります。※配当利回りが高くても、収益力が低下する可能性のある企業への投資は避けます。
当ファンドでは、原則として無配当の株式には投資しませんが、現在の配当利回りが低くてもこれから配当が増えていく余地がある「成長」銘柄には投資をします。そうした企業は、利益成長によって配当の成長が可能になるわけですが、配当性向を引き上げていくための高収益を実現する強固なビジネスモデルを有していることが多くあります。
こうした低配当でも配当成長が期待できるという成長企業に加え、2つ目に挙げられるのが、配当の成長力は劣るものの、高い配当が期待できる「高配当」銘柄です。このカテゴリーの企業は、概して成熟産業に属する傾向がある一方で、競合企業が1~3社程度という魅力的な市場環境に身を置いている場合があります。そして、多額のキャッシュフローを生み出している企業においては、株主還元にも積極的です。多額の現金を有し、安定したビジネスを営んでいることから、厳しい経済環境も乗り越えていくことができると考えています。
3つ目は、ポートフォリオの中核を担うことになる非常に重要な「配当成長」銘柄です。こうした企業は、配当利回りが 非常に高い水準にあったり、配当がとても速く増えているというわけではないため、市場では見落とされがちで、時にはとても魅力的な株価で取引されることもあります。その中には、長年にわたり配当を増やしてきた企業も多くあり、配当を継続できる能力だけでなく、経営陣の意欲も備わっていると言えます。そして、そもそも収益成長を続けなければ 配当成長の維持は困難であるということを踏まえると、魅力的な収益成長機会、つまり株価上昇機会もあると考えています。
配当に焦点を当てた投資哲学に、アナリストの調査力を組み合わせることで銘柄の選別力を高めています。更に、バリュエーションを見極めたうえで、3つのセグメントの比重も検討しています。
マイケル・ロッシ
「配当成長」銘柄を中心に
幅広い業種の高配当株式に目を向ける
サム:
「配当成長」銘柄を中心としながらも、「成長」銘柄よりも足元での投資妙味があると考えている「高配当」銘柄への投資割合を高めています。この背景には、「成長」銘柄がバリュエーション面で相対的に割高になっているということもありますが、景気の先行きをやや弱気に見ているということもあります。
そうした考えのもとでポートフォリオを組んでいることから、相場の変動に対する影響は市場平均よりも多少マイルドなものになると期待しています。ただ、当ファンドの予想配当利回りは2.9%(ご参考:MSCIワールド指数は1.8%)*2で、組入銘柄の配当成長予測も高い水準が続くと見ています。配当は、パフォーマンスを下支えするクッション役になってくれるので、現在のようなやや不透明な市場環境においても、高配当に焦点を当てた戦略は長期的なリターンが期待できる考えています。
*2 2024年3月末現在。MSCIワールド指数は、当ファンドのベンチマークではありません。過去の実績であり、将来の運用成果等を約束するものではありません。
高配当株式と聞くと、通信や公益などのようなオールドエコノミーのような企業が想像されがちですが、必ずしもそういうわけではありません。例えば、当ファンドの場合は、テクノロジーやヘルスケア、資本財などといった業種の企業も含めて幅広く投資をしています。これは、シンプルに「高配当」銘柄のみを選定しているわけではなく、「成長」銘柄や「配当成長」銘柄もしっかり捉えて運用をしているからこそだと言えます。
外国株式組入上位10業種
2024年3月末現在。上記はマザーファンドの状況です。比率は、マザーファンドの純資産総額に対する比率です。過去の実績であり、将来の運用成果等を約束するものではありません。
足元の注目銘柄
組入銘柄の筆頭は
配当の成長が著しい米国企業
マイケル:
3つのセグメントの中では、配当の成長と高い配当を兼ね備えた「配当成長」銘柄が中核になるということをお伝えしましたが、足元では「成長」銘柄と位置付けている米国のマイクロソフトが組入銘柄の1位となっています。
同社は、クラウドプラットフォームのMicrosoft Azure(アジュール)や、ビジネス用アプリケーションソフトのMicrosoft Officeを手掛けている企業として有名です。それに加えて、最近では、多くの顧客企業に対して、生成AI(人工知能)などの最先端の機械学習技術の提供を始めています。配当利回りの水準こそ低いものの、配当は高成長を続けていくと見ています。
写真はイメージです。
サム:
組入銘柄の3位には、「配当成長」銘柄と位置付けている米国不動産投資信託(REIT)のプロロジスが入っています。REITというと、オフィスをイメージする方も多いと思います。ただ、在宅勤務の増加や過剰建築、金利の上昇などもあり、商業用不動産やオフィス市場に対して楽観視はしていません。
その一方で、同社は、物流施設の開発や所有を行なっている世界最大級のREITとして、多くの小売事業者や電子商取引企業を顧客に抱えています。物流施設は、不動産市場の中でも需給がひっ迫している分野であり、同社の今年の物件稼働率は97%程度になる見込みです。75%程度であるニューヨークのオフィス稼働率と比較するとその稼働率の高さを伺い知ることができます。
写真はイメージです。
また、私たちが「高配当」銘柄と位置付けており、組入銘柄の6位となっている米国のCMEグループもご紹介させていただきます。同社は、先物・デリバティブ取引所を運営している金融機関で、独占的な地位を確立することで、高水準の粗利益率を生み出しています。
金融の高度化とともに先物取引の利用は増加してきましたが、その中でも過去10年程の金利先物取引は横ばい傾向でした。ここには金融緩和政策の影響が多分にありましたが、最近の金融引締局面への移行とともに状況は好転しており、比較的安定していた同社の成長を加速させる要因となっています。
組入上位10銘柄
2024年3月末現在。銘柄数:66銘柄。上記銘柄について、売買を推奨するものでも、将来の価格の上昇または下落を示唆するものでもありません。また、当ファンドにおける将来の銘柄の組入れまたは売却を示唆・保証するものでもありません。上記はマザーファンドの状況です。比率は、マザーファンドの純資産総額に対する比率です。過去の実績であり、将来の運用成果等を約束するものではありません。
人工知能の領域も含めた
幅広い銘柄でポートフォリオを構築
マイケル:
オールドエコノミーだけでなく、様々な業種に投資をしているということは既に述べた通りですが、最近のトレンドである人工知能(AI)もその一つです。ブームの様相を呈していることから、投資家の関心を一点に集めることでバリュエーションが高まった銘柄もあると見ていますが、その一方で高い配当と配当の成長を実現する企業もあると考えています。
例えば、一言でAI関連銘柄と言っても、AIの頭脳である半導体の製造企業もあれば、その半導体を作るための上流工程である半導体製造機器などを手掛ける企業や、下流工程として実際にAIを実社会で活用できるサービスとして展開する企業もあります。
私たちは、約2,500社を調査対象企業群と位置付けて企業価値や収益力をの分析を行ないポートフォリオを構築*3しています。そして、ファンダメンタルズやバリュエーションを基に判断を行なうことで、毎年新たな銘柄への投資を行なうとともに、相対的な投資魅力が低下した銘柄については入れ替えを行なっています。
*3 上記は2023年9月末現在の運用手法(プロセス)であり、将来変更する可能性があります。
JPモルガン・アセット・マネジメントでは、リサーチ・アナリストによる長期の企業調査データを活かした銘柄の選定が可能な体制を構築しています。この強みを活かして、これからも魅力的なポートフォリオを構築するとともに、投資家の皆さまに優れたリターンを提供できるように努めていきたいと考えています。