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Q.「複利のチカラ」が大事と聞きました


1年目に生まれた利益を元本に組み入れて2年目の投資元本として運用を続けていくことを複利運用という。1年目の利息を受け取って懐に入れ、2年目は当初元本と同じ金額で始めることを単利運用という。これは単に預金の利息の扱い方の違いでしかなく、投信を使った資産運用には単利も複利もない。日々上がったり下がったりして推移するだけだから当たり前のことなのだが、「複利の力を活かすために長期投資を!」などという記事を多く見かけるから不思議だ。

長期投資をすべき理由は複利のためなどではない。長い時間がないとそもそも投資資産自体が成長できないのが「理由その1」であり、長い時間で構えると多少のタイミングの間違いが「結果オーライ」になりやすいという経験則が「理由その2」だ。

企業は今日明日で大変身はできなくても、ある程度の長い時間があれば利益を大きく成長させ、株価もそれを受けて大きく上昇する可能性がある。債券も期間が長ければ長い分だけ利息が積み上がってリターンは大きくなる。考えてみれば当たり前だが、時間がなければ企業は成長できないし、投資対象である株式や債券も成長できない。これが「理由その1」だ。

そして「理由その2」の「結果オーライ」とはこういうことだ。たとえば今日という、後から見て「やっちゃったなー」という(直後に下落するような)タイミングで株式を買ってしまったとすると、それは1ヵ月後の「勝敗」にシビアに影響する。しかし1ヵ月後に売らずに1年後まで待てるのなら、買値より上がっている可能性はある。2年後3年後、さらにもっと後になればなるほど「結果オーライ」となっている可能性は一般に高いだろう。もちろん長く持てば持つほど下がっていくダメダメな株式もあるはずだが、そんな株式はそもそも買ってはいけない。

いずれにしても、過去多くの場合において投資タイミングの「多少の間違い」は、長く待つことで「結果オーライ」となってきた。つまり長期保有は皆を救ってくれた。なぜだろうか。それは単純に投資対象が「右肩上がり」だったからだ。変動しながらも「右肩上がり」だったからこそ、短期のタイミングの間違いは長期保有で「結果オーライ」になった。リーマン・ショックもコロナ・ショックもじっと耐えたことによって救われてきた。これこそが長期投資が推奨される理由だ。複利効果などではない。

しかし「大きな間違い」は、いくら時間をかけてもなかなか「結果オーライ」とならない。日経平均株価の史上最高値である1989年末の38,915円で買ってしまった人は、30年以上の長期保有でもまだ救われていない。やはり一発のタイミングで参加してはいけない異常な水準というのがあるということも覚えておかねばならない。

ちなみに、投信の分配金を受け取るか再投資するかという話は、少しだけ「複利or単利」の話に聞こえるので補足しておく。分配とは運用そのものとは別の「投信の機能」であり、要は自分の資産の一部解約と同じこと。つまり分配金を受け取るということは投資資産を減らしながら運用することとイコールだ。したがってお金が増えるスピードは当然落ちる。しかし必要なお金を分配金として一部解約しているのなら、そこに運用効率の優劣をつける意味はない。逆に、分配金を受け取っても使うアテがないのなら分配型を選ぶべきでないし、分配金が出ても自動的に元本に繰り戻す「再投資コース」を選択すべきだ。

本コラムは私が書きました。


今福 啓之(いまふく ひろゆき)

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日興アセットマネジメント マーケティング共同グローバルヘッド。1990年野村證券入社。支店営業、研修部、金融法人部を経て2000年にフィデリティ投信入社。2007年に日興アセット入社。2014年ピクテ投信マーケティング担当執行役員を経て2016年より再び日興アセット。日本証券アナリスト協会検定会員、日本FP協会認定会員


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