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Q. リバランス?本の読みすぎです


Q&A タイムで50代の女性から、「本には定期的に『リバランス』しろとあるんですが、どうやっていいかわからなくて」と聞かれた。具体的な投資相談は立場上(免許上)できないが、大枠の話ならできる。どんなものをどんな比率でお持ちか聞いてみた。投信積立を何と2千円ずつ10本の月2万円でやっているそうだ。

ちなみに「リバランス」とは、当初設定した分散の比率を維持するために、上がったファンドを売って下がったファンドを買うといった比率調整のことをいう。例えば、株式と債券は50%:50%が「黄金比率」だと考えて、100万円のお金を株式ファンド50万円と債券ファンド50万円に振り分けた人がいたとする。そのあと株式ファンドが150万円に上がり、債券ファンドが変わらず50万円の合計200万円になったとしたら、お金は2倍になったものの、株式と債券の比率は75%:25%と狂ってしまったことになる。

それでは良くないからと株式ファンドを50万円分売り、その売却代金で債券ファンドを買い増すことで100万円ずつにして、元の比率に戻そうという行為がリバランスだ。つまり彼女は、どのファンドを月2千円から減らしてどれを増やしたらいいのか、また現在までの積立でたまったお金のどれをどれだけ売却して、どれに乗り換えたらいいのかを悩んでいるわけだ。

思い切って申し上げた。「本で読んだそんな話は一度忘れていいです。それよりも次のようなことを、この機会に改めて考えませんか?」。

  1. ● その積立は「いつの・何の」ために続けているのか?
    給与などからコツコツ積立をしているのだと思うが、その目的と時間軸を再考したい。もし将来の安心確保に向けたチャレンジ、つまり「使う時に大きく増えていることが目的」だとすると、今はまだ「リバランスというリスク管理」よりも「目的達成力」の点検の方がよほど重要だ。

  2. ● ファンドと金額はその目的に合致しているか?
    その目的に対して今の10本への分散は正しいのかを点検したい。あまり言われないことだが、分散すればするほどリスクと共に「リターンも分散」されて迫力は落ち、目的達成のためのパワーを落としている可能性がある。一方で、合計2万円の積立金額自体が「目的達成力」として十分かという観点も重要だ。

要はセミナー本編でお伝えしている、「資産運用は『いくらにしたい』という目標金額から逆算すべき」という話に戻ってくる。目標金額と期間が先にある結果導かれる「必要利回り」の認識が重要であり、それこそがファンド選びに直結するという話だ。リバランスというリスク管理のテクニックは、このロジックにおいて重要でない。

もちろん、我々運用会社がバランスファンドという「分散パッケージ商品」において所期のリスクリターン特性を保持するために行なうリバランスや、人から資金を預かって、厳格で一貫性あるリスク管理が求められている年金資金の運用者にとってのリバランスは生命線だが、個人が将来を見据えて資産を増やしていこうとする資産形成にとって、自分でファンドを売り買いして調整するリバランスという概念はまったくピンとこない。

資産運用では意識が高く勉強熱心な方ほど、情報過多から間違った行動に陥る危険性がある。本やネット記事で読んだ「リバランス」についても、何だかクールで賢い手法を学んだ感覚を覚えるのかもしれないが、誰かが書いた資産運用の教科書的な話のコピペのコピペが、普通の人に広まっている弊害を感じざるを得ない。

多くの日本人にとって今必要なリバランスは、限られた投信資産の中での売買調整などではなく「預貯金とのリバランス」なのではないか。保有する預貯金に比べて(投信など)リスク資産の割合が極端に少ない人は多く、その方々にはぜひ、預貯金を含んだ全金融資産におけるリバランスという大きなところから考え始めてもらいたい。テクニック本はやはり、読まない方がいい。

本コラムは私が書きました。


今福 啓之(いまふく ひろゆき)

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日興アセットマネジメント マーケティング共同グローバルヘッド。1990年野村證券入社。支店営業、研修部、金融法人部を経て2000年にフィデリティ投信入社。2007年に日興アセット入社。2014年ピクテ投信マーケティング担当執行役員を経て2016年より再び日興アセット。日本証券アナリスト協会検定会員、日本FP協会認定会員


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