日興アセットが一部出資をする「破壊的イノベーション」に特化する米運用会社ARK(アーク・インベストメント・マネジメント・エルエルシー)のCIOから、2021年5月以降の株式市場の動揺に対するメッセージが届きました。日本の投資家へのメッセージ動画(5分33秒)とあわせて、ご覧ください。

2020年から2021年の初めにかけて、イノベーション関連の投資戦略が高水準のリターンを得た後、ここ数ヵ月間の株式市場では、景気敏感銘柄などのバリュー型投資戦略へのローテーションが急速に進んできました。ARKでは、このローテーションにより強気相場が大幅に拡大・強化されたことで、ITバブルの再来が回避され、イノベーション関連投資戦略のさらなる飛躍に向けた舞台が整ったとみています。

株式市場でイノベーション関連銘柄偏重の流れが続いていたなら、ITバブル崩壊のような株価大暴落が訪れる確率は高まっていたでしょう。むしろ、「在宅関連」銘柄を中心にバリュエーションがリセットされており、その多くは昨年の夏の水準の半分以下となっています。ARKでは、新型コロナウイルス危機を受けた世界の大きな変化は永続的なものであり、在宅関連や他のイノベーション主導型の銘柄は勢いを取り戻していくとみています。

ARKでは、このローテーションにより強気相場が大幅に拡大・強化されたことで、ITバブルの再来が回避され、イノベーション関連投資戦略のさらなる飛躍に向けた舞台が整ったとみています。

昨年終盤から今年序盤にかけて、多くの投資家がイノベーション関連の投資戦略への資産配分を増やしました。市場のピーク時においても、私たちが重点的にリサーチを行なってきた5つのイノベーション・プラットフォームが予想外の高成長を遂げたことを考えると、この戦略にはメリットがあるように思われます。

DNA解析、ロボティクス、エネルギー貯蔵、人工知能、そしてブロックチェーン技術です。14の基幹技術により実現しているこれらのプラットフォームは、過去20~30年間にわたって温められてきたものですが、最近になってようやくその「脱出速度」に達したばかりであり、今後5~10年間で指数関数的な成長軌道を辿っていくというのが当社の見解です。

幸いなことに、恐怖(fear)、不確実性(uncertainty)、疑念(doubt)、いわゆるFUDは、投資家に対してイノベーション戦略に直近高値から約30~40%割安な水準で投資する機会をもたらしました。通常、FUDは新しいテクノロジーの普及を加速させます。疑念を抱いた企業や消費者が行動パターンを変え、従来のものよりも安価で生産性が高く、創造性に富んだ製品やサービスを採用するからです。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は既に始まっていた行動の変化を加速させ、世界がそのショックから立ち直りつつある今、逆戻りすることはないでしょう。したがって、破壊的イノベーションに関連する14のテクノロジーを実現可能にしている企業の長期的な収益予測については、過去3ヵ月間においても概ね変更を加えていません。しかし、それらの企業の株価は、前述の通り平均で30~40%下がっています。

株式市場におけるグロース株からバリュー株へのローテーションはなぜ進んだか、そしていつまで続くのか?

この3ヵ月間でそうしたローテーションが進み、イノベーション関連投資戦略のバリュエーションがリセットされた主な理由は、以下の通りであると考えます。

(1)シクリカル(景気循環的な)企業の利益成長が、一時的にアーリーステージの企業による右肩上がりの成長ペースを上回り、そのV字回復と比較されていること、(2)シクリカル企業の収益成長が加速するなかで、インフレ期待と金利上昇期待の両方が高まり、長期的なキャッシュフローを評価する際に用いられる割引率が上昇したこと、の2点です。

ARKでは、これらの要因は向こう6ヵ月間のうちに解消されるとみており、株式・債券・コモディティ市場のボラティリティが極端に高まっていることから、その時は割と早く訪れるかもしれないと考えています。 昨年のこの時期に詳しく説明した通り、世界各国による様々な政策が消費者貯蓄を押し上げ、耐久財および非耐久財の消費を刺激したことから、今回のV字回復は必然的に起こったものです。また、恐慌には至らないまでも景気後退が長期化するとの見通しから、企業は在庫や設備投資を削減していましたが、今では売上高に対して在庫が過去最低の水準となった状況への対応に追われています。

実際、企業が需要に追いつこうと必死になって在庫を2~3倍発注したあとで、耐久財と非耐久財の需要が期待外れに終わる結果となっても不思議ではないでしょう。消費者はひとたびワクチン接種を受けると、今度はサービスセクターにおける繰延需要を充たすべく動くからです。

通常では消費財市場の3分の1を占める耐久財および非耐久財への支出は、過去1年間で総消費額の41%超を占めるまでに増加しています[1]。現在では消費者がサービスへの支出の割合を増やしつつある様子であり、総消費額に占める消費財の割合は30%未満へと低下し、サプライチェーンの問題がかなり突然に終息する可能性があります。商品価格は過剰な供給に反応し、過去1年間で上昇したのと同じように突然かつ急激に下落する可能性があります。米国国債10年物利回りが既に3月31日に達した1.74%[2]を下回って失速している状況にあることは、このシナリオの可能性を示唆しているのかもしれません。

興味深いことに、過去6ヵ月間で景気敏感セクターへのローテーションの最も大きな恩恵を受けたのは、今後5年間においてイノベーションによる破壊的影響を最も大きく受けると当社が考えている2つのセクターでした。それは、エネルギーと金融サービスです。エネルギーセクターが9月30日以降のリターンで77.67%、年初来39.06%、また金融サービスセクターがそれぞれ56.17%および26.77%にのぼり、S&P500指数全体の23.57%および10.19%を大幅に上回っています[3]。当社の見解では、自動運転電気自動車、そして暗号通貨やブロックチェーン技術により幅広く関連している分散型金融サービス(DeFI)を含むデジタルウォレットは、今後5年間でエネルギーと金融サービスの両方を著しく破壊し、仲介業は排除されていくとみられます。


2021年は2006年を思い出させる:紛らわしい!

2006年の住宅ブームの際、米国の5つの規制当局は、異種のホームエクイティローンや住宅市場における投機への懸念を払拭するためのガイダンスを発表しました。当局の懸念を真剣に受け止め、ポートフォリオのリスクを抑えた投資家たちがいる一方、株式市場とコモディティ市場では、景気循環の見通しを過大評価する傾向が続き、原油価格は2006年終盤の1バレル約60米ドルから、2008年初めには1バレル約140米ドルへと2倍以上に上昇しました。一方、米国国債10年物利回りは2007年6月の5.29%から、2008年の初めには3.31%まで低下しました。明らかに、債券市場は株式やコモディティ市場よりも先に、そして2008年後半に住宅市場が底割れする前から、先行きを予見していたのです[4]。

今日においても再び、商品価格が高騰している一方で、債券利回りは低下しています。原油価格は、コロナ危機が深刻化した2020年4月に20米ドルを割り込んだのち、足元では3倍以上の63米ドルへと上昇している一方、債券利回りは、「心臓発作」的な上昇を経て落ち着いています[5]。2021年第1四半期中の米国国債10年物利回りは、1月4日の0.91%から3月31日の1.74%まで2倍近い上昇を見せました[6]。

これほど短期間に金利が倍増したことは未だかつてありませんでした。その理由として考えられるのは、コロナ危機が深刻化するなか、米国連邦準備制度理事会(FRB)が認めていた、銀行が自己資本比率の要件を満たすために短期国債の代りに、より利回りの高い長期国債を使用できる一時的な緩和措置を3月31日に解除したことです。それを受けて、銀行は保有していた米国国債を第1四半期に記録的なペースで売却したようです。3月末以降、商品価格の高騰を背景に、債券利回りは低下しています。5月15日までの6週間において、銅価格は16.7%、木材価格が55.2%上昇した一方、債券の利回りは1.74%から1.61%へとやや低下しました[7]。

インフレ懸念が大きな注目を集め、高バリュエーション株に大きな打撃を与えていた様子であったことから、デフレの気配は見通しの再考を促す可能性もあります。銀行は先行きを見誤って第1四半期に債券を大量売却してしまったのか、また、足元の債券市場は、株式市場よりも先にデフレ下の好況、不況、またはその両方を織り込む初期段階にあるのかどうか、その答えは時間が経ってみないと分かりません。


デフレ下の好況、デフレ不況、それとも両方か、真実やいかに?

世界経済において金融・財政政策による大規模な景気刺激策が実施されていることから、大半のエコノミストやストラテジストは当然のようにインフレの可能性を重視していますが、当社ではデフレのリスクに注目しています。しかし、デフレは悪いことばかりではありません。

ITバブル崩壊、そして2008年から2009年にかけての世界金融危機の余波を受けた過去20年間において、多くの企業は短期志向・リスク回避志向の株主による「目先」の利益・配当の要求に応えてきました。多くの企業は自社株買い、収益力強化、増配などにバランスシートを活用してきた過程で、イノベーション投資を行なってきました。その結果、今後中抜きされたり破壊されたりする側に立つ可能性があります。製品やサービスの老朽化に伴って在庫を整理し、膨らんだ債務を返済していくために値下げを余儀なくされる可能性もあります。更に、モノからサービスへ消費がシフトしていくなか、それを受けた商品価格の周期的な下落が予想されることから、結果として「悪いデフレ」に陥る可能性があります。

対照的に、「脱出速度」に達したとARKがみている5つの主要なイノベーション・プラットフォームから生まれる指数関数的な成長機会に備えてきた企業も存在します。そうした企業の多くは、レースに勝つ「ポールポジション」を取るべくあえて目先の利益は犠牲にし、人工知能を活用し、「勝者総取り」を狙っています。これらすべてのテクノロジー間の融合に伴なうデフレは、かなり大きなものになる可能性があります。人工知能の訓練にかかるコストだけでも年率68%のペースで低下しています[8]。ゲノム解析、バッテリーシステム、産業用ロボット、3Dプリンティングをはじめとして、人工知能との融合が進んでいる多数のテクノロジーは、その習熟が進むにつれてコストの低下が加速し、今度はそれが価格に反映され、新しい製品やサービスに対する需要の波を引き起こすとみられます。それらの多くは、現時点で想像もできない製品やサービスでしょう。まさに「良いデフレ」です。

結論

今後の見通しに対するリスク要因がインフレではなくデフレであるという当社の判断が正しければ、名目GDP成長率は予想を大幅に下回る可能性が高く、希少な二桁の成長機会がそれに応じて報われることを示唆しています。グロース銘柄全般、そして特にイノベーション関連の銘柄が、その最も大きな恩恵を受けることになるでしょう。


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[1]第三者サービス(FRED)から入手したデータに基づきます。 [2]第三者サービス(Bloomberg)から入手したデータ。
[3]第三者サービス(Bloomberg)から入手したデータ(2021年5月19日現在)。
[4]第三者サービス(Bloomberg)から入手したデータ。
[5]第三者サービス(Bloomberg)から入手したデータ(2021年5月19日現在)。
[6]第三者サービス(Bloomberg)から入手したデータ。
[7]第三者サービス(Bloomberg)から入手したデータ(2021年5月19日現在)。
[8]アルゴリズムの効率性は16ヵ月ごとに倍増しており、年率約68%向上しています。



当レポートは、ARK社による独自の見解であり、文責はARK社にのみあります。また、ARK社の英語による2021年5月発行のレポートの日本語訳であり、内容については英語による原本が日本語版に優先します。全文を確認したい場合はhttps://ark-invest.com/articles/market-commentary/bull-market をご覧ください。



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