「何が分からないか、分からない!」方のためのFAQ

トランプ関税で米国株はシンドイですか?

公開日2025年04月03日
更新日2025年04月18日

今福 啓之

日興アセットマネジメント

結論

  • “トランプ関税ショック”ともいえる下落は、「トランプ前」から見ると約10%

  • 市場参加者のロジックの短期的な揺れには振り回されたくないもの

  • トランプ氏についても、長期視点からの自分なりのロジックを持っておきたい

「20年後ラボ」ではマーケット、つまり株式市場や為替市場の解説は基本的にしません。でも、今年に入ってからの値動きに戸惑っている方も多いのではないでしょうか。私の考え方を少し、お伝えしたいと思います。

「トランプラリー」から一転の下落

「私は長期ほったらかしの覚悟ある投資をしているから大丈夫!」という方は多いでしょう。でもその覚悟が試されるのはまさに今かもしれません。

株価がすぐに切り返して、緩やかにでも上がってくれれば「ほらね!」となるのですが、調子の悪い期間が3ヵ月6ヵ月と長引いたり、あんなにあった含み益がジワジワと減ってきたり、あろうことかマイナスに突入したりすると、心がザワついてきます。私、何度も何度も、何度もありました。

まず冷静に足元までの動きを見てみます。

インデックスファンドとして保有している人も多い米国株式の指数S&P500と全世界株式のオール・カントリー指数でグラフを作ってみました。

期間:2024年11月1日~2025年4月16日
S&P500とオール・カントリー指数(MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス)は米ドルベース。配当考慮せず。
グラフ起点を100として指数化。信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成。データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

「トランプラリー」とその後の動き

2024年11月1日を100としたグラフにしたのは、トランプ氏の勝利が確定したのが11月5日だから。見て分かるように株式市場は意外にも「トランプ勝利」を歓迎し、S&P500は上昇しました。上位銘柄の多くが重複するオール・カントリー指数も同様です。専門家は当時、この盛り上がりを「トランプラリー」と呼んでいました。

しかし今年2月に入って以降、ご存知のように様子がおかしくなっています。このグラフの期間での最高値(さいたかね)から最安値までの下落率は18.9%です。

私たち日本人にとっては、ここに円高がダブルパンチとして効いてきます。グラフの茶色の線にあるように、年初からは円高傾向で、1月初旬の約158円から足もとでは140円台前半まで、率にして約10%の円高となりました。

この為替の動きを加味したもの、つまり「円建て」の指数の動きが下のグラフ。多くの方が買っているS&P500やオール・カントリーのインデックスファンドは、まさにこの円建ての指数に日々連動するファンドですから、これらのファンドをお持ちの方は、ほぼこの通りの動きを見てきたはずです。

期間:2024年11月1日~2025年4月16日
S&P500とオール・カントリー指数(MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス)は米ドルベースを日興アセットマネジメントが円換算。配当考慮せず。
グラフ起点を100として指数化。信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成。データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

為替動向も加味した動き

先ほどのグラフと比べてみると、4月上旬の安値の位置は円高のせいでより深く、逆に年初来の高値の時には、ちょうど150円台後半の円安になっていたため、米ドルベースのS&P500よりも上がっていたことも分かります。

「トランプ前」からだと約10%の下落

先ほどのグラフには2つとも、縦軸の100のところにオレンジ色の線を引いています。つまり「トランプ勝利以前」の水準の線です。

そう思ってグラフの形状を見ると、(もちろん全く嬉しくないものの)10%程度の下落に、日本人特有の「円高ダブルパンチ」が加わったのが今、と言うことができます。もちろんこのコラムを書いた翌週にどうなっているか分からないのが日々の株式市場ですが、少なくともこの期間を見る限りはそう見えます。

もう一度、円建ての方のグラフを載せておきます。

期間:2024年11月1日~2025年4月16日
S&P500とオール・カントリー指数(MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス)は米ドルベースを日興アセットマネジメントが円換算。配当考慮せず。
グラフ起点を100として指数化。信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成。データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

為替動向も加味した動き

株式市場に参加する人々が、11月のトランプ勝利以降「都合の良い連想ゲーム」で盛り上がってはみたものの、いざ1月に政権が発足して動き出してみると、連発される大統領令や輸入品への関税引き上げなどの政策で一転、急に熱が冷め、動揺している、といったところでしょうか。

残念ながらマーケットはひとつ

さて、これは昔から私が好んで使う表現なのですが、こういう時に私たちが思い出すべきは、「残念ながらマーケットはひとつ」というコンセプトです。

自らリスクを取って前向きな資産運用を行なおうとする私たちにとっての最大の敵は、様々な思惑(多くは短期的な判断で機敏に売買を繰り返す)を持つ「市場参加者」の存在と、世の中に溢れる彼らのロジックやコンセンサス(共通認識)ばかりを解説する情報の多さです。

NISAのおかげで日本人の投資家が増えたとは言われますが、米国など主要な株式市場には比較にならないほど多くの投資家がいて、莫大な資金を持っている場合も多いです。

その中にいるプロやセミプロのツワモノは、上の絵にあるように、市場で共有されるその時々のロジックやコンセンサスをベースにしつつ、少しでもその先を行って競争相手に勝つために戦っています。

そうした人たち専用と、私たちのような「日々の値動きを無視して長期での成長の側面を利用したい人たち」専用の株式市場が別々に存在するのなら良いのですが、当然そうではありません。「残念ながらマーケットはひとつ」です。

そして私たちの投資信託の基準価額は、中に入っている一つひとつの株式などのその日の最終価格を集めて算出しますから、短期勝負の人たちなどが「今日のロジック」で売買して決まった値段を反映せざるを得ません。株価などの「値段もひとつ」、だからです。

彼らのロジックは猫の目のようにコロコロと変わっていきます。1日に1回しか値段の付かない投資信託ではとても追いつくことはできませんし、追いつこうとする必要もありません。

私たちが常に思い出すべきは、残念ながらひとつのマーケットの中で「違う種類のゲームをする人たちが動かした結果を反映しているだけなのだから気にしない、気にしない」です。

でも耳に入ってくる投資関連の情報は、実はその違う種類のゲームをする人のためのものが多かったりもするのです。

昨日今日の値段を決めたマーケットの人たちのコンセンサスを解説するそうしたレポートや動画を観たとしても、「気にしない、気にしない」は却って難しくなるばかりです。

私たちがトランプ氏に対して持つべきロジックは?

ではどんなロジックを持っていれば、「気にしない、気にしない」と思えるのでしょうか。

トランプ氏について言えば、彼の一挙手一投足はまだまだ日々のニュースを飾るでしょう。でも第一次政権の時のように、いずれ短期的な市場参加者にとっての「トランプ離れ」、「トランプ慣れ」、「トランプ飽き」といった状況が訪れるような気がします。

もちろん話題の関税が(市場参加者の連想ゲームに留まらず)米国の実体経済を著しく痛め、あるいは企業業績を悪化させ、それらの株価が「真の下落」を見せる可能性はあります。

しかし、トランプ氏の政治的野心を考えると、「彼が米国の株価が崩壊するようなことをし続けるだろうか?」といった大きな考え方も持っていていい気がします。

実は足もとでは、「トランプ政権は株価の下落を気にしていないのでは?」という疑念が市場参加者を不安にしているのですが、少なくとも2年後の中間選挙をメチャクチャな経済状態で迎えようとはしないだろうと考えることは、そう間違っていない気がするのです。

実際、米国にはそのための「打ち手」があります。金融政策としての利下げ余地です。インフレを抑え込むために上げてきた政策金利は、昨年9月に利下げに政策転換したとはいえ4%台の比較的高い水準にあります。景気がいよいよ心配になったら利下げを行なう「のりしろ」があるということであり、これは日本にはない強みでしょう。

期間:2000年1月末~2025年3月末
信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成。データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。
基準価額は投資信託で保有しているすべての株式の株価に為替レートを掛け算した結果を、その日時点の総口数で割ったものになるという概念図

米国のインフレと政策金利の推移

さて、NISAの2年目にして訪れたやや難しい局面ですが、今後の長い旅路のためには早めのいいレッスン機会なのかもしれません。「残念ながらマーケットはひとつ」という大きな考え方のもと、自分なりの大きめのロジックで世の中の情報を峻別しつつ、頑張っていきましょう。

今福 啓之

日興アセットマネジメント



当ページは、一部個人の見解を含み、会社としての統一的見解ではないものもあります。


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