投資信託の「今」について
山崎元さんと語り尽くした3時間
テーマ①
S&P500一択?商品選択の風潮ついて
テーマ②
「クチコミ全盛時代」の今、持っておくべき知識とは?
テーマ③
インデックス vs. アクティブの議論はそんなに重要?
今福啓之(マーケティンググローバルヘッド)
山崎さんっていうのは、私の業界の人間は必ず気にしている方なんです。私は「ファンドマネジメント」って本から持っていまして、そういう意味では古参のフォロワーだと思うんです。あれって20年前ぐらいですよね。
山崎元 氏(経済評論家)
もっと前ですね。
今福: なんと、そうでしたか。なので、こうして対談ができるのは非常に僭越というか光栄なんです。
山崎: 私としても、本を読んでいただいているっていうことだから感謝ともに光栄に存じます。よろしくお願いします。
今福: 3つテーマを用意しました。テーマ①は「S&P500一択でいい!」みたいな風潮について。
山崎: 今何か人気ですよね。
今福: もう米国だけ買っとけば間違いないみたいな風潮が今あります。あとは本当に我々業界として悩ましいんですけれども、運用会社の人間の話よりもYouTuberを信じる。
山崎: はい。
今福:
そういう現状とか、あとはこれ昔からですけど、ランキングの上の方のものを買ってしまう、こういったところに問題意識があります。そこから話ができればと思います。
こちらの絵なんですけれど、日興アセットとしてこんなふうに考えるべきじゃないかなっていう、思考プロセスの絵になります。
つまり「投資信託 おすすめ」とか、「投資信託 動画」とかで検索して始めるのは真逆ではないか、本来こういうプロセスであるべきじゃないかと。
まず自分にとって「いついくらぐらい」あったらいいかなっていうことをボンヤリでもいいから考えることが、全ての出発点だと思います。
すると、「今いくら持っていたかな」とか、「給料からどれくらい積み立てに回せるかな」っていう「手の内」の整理ができ、次にそれを前提条件として、その目標金額をあと何年で作るにはどれくらいの「年利回り」が必要なのかっていうことが、おぼろげながらも分かるということです。
さらに3番目の(株か債券かなどという)アセットクラスのところで、「〇%が必要ってことは、嫌だけど株はマストだな」などと思える。
結果としてそのリターンを獲得するための「ファンド群」が見え、最後にその中で「どのファンドがいいか」となると。つまり商品は最後の最後です。
山崎:
そうですね。おすすめ商品を早く聞きたがる。あるいは受動的に誰かが薦めているものを、これが答えだと思って買おうとするっていう、そういう意思決定プロセスっていうのは、そもそも意思決定と言えるほどのものなのかっていうぐらいのレベルからちょっと心配です。人や世間がいいと言ったものを受動的に受け入れる、答えを早く知りたがるっていうのは心配です。
実は、そんなにたくさん考えなければいけないことがあるわけではないので、考え方を知っておけば自分で選ぶこともできるし、さっき「検索する」っておっしゃいましたが、今下手すると丁寧に検索することさえしないですよね。
YouTubeであったりSNSのやりとりだったりコミュニケーションだったり、流れてくるものの中からすぐ答えに行きたがるっていうのは、それはおそらく得でないことになりやすいです。人生の中でお金の使い方が不適切になってしまう可能性があるかもしれないです。ちょっと心配な風潮ですよね。
ところでこの表ですけどね、これは1~2ヵ所突っ込みを入れたいな。
今福: あ、はい(笑)。ぜひお願いします。
山崎:
「目標金額」と「動機」ってありますが、目標金額っていうのはまだ必要かもしれないですけど、動機っていうか資金の使い道とか、そういうことって実は運用には関係がないので、「何に使うか」とか「なぜ欲しいか」とか「いくらまで」とかっていうようなことと運用の方法を結び付けるのはあまり感心しません。
そういったものを個別に考えることができる点が、お金が持つ柔軟性というひとつの長所だと思うので、あんまりお金に意味を与えすぎない方がいいのかなあと。それがまず1点目ですね。
あと、2番目の「必要利回り」を考えて利回りに合わせて運用計画を作るっていうことですが、年金基金なんかそういう考え方よくやるし、公的年金なんかでも事実上そうなっているんだけれども、これ不適切だと思うんですよね。
小さなお金は小さいなり、大きなお金を大きいなり、同じようなアセットアロケーションで同じような商品で持てば同じような結果が得られるので、一番良さそうなものをみんなでやればいいじゃないかと。それは富裕層なのか庶民なのか、若いのか高齢なのかっていうこととも関係がないし、案外運用の方法っていうのって独立に決まるような、ある意味では金融的な意思決定の中では一番簡単だよなっていうふうに思いますよね。そういう意味で、必要利回りを先に決めてっていうのは、ちょっと違うぞって思うわけです。
例えば何となく便利なものが欲しい。でもそれはパソコンの方がいいこともあるだろうし、スマホの方が便利なこともあるだろう。カテゴリーを決めて、その中でどの商品がいいのかっていうことを決めないと、いきなり何かインフルエンサーが薦めているからこれ買うことにしたよっていうのは、消費者として賢くないし、特に金融商品の場合には金額も大きいので、そういう決め方はしない方がいいよなとは思いますよね。
ところで今は、やっぱりYouTubeとかSNSが多いんですかね。
今福: そうですね。YouTubeが多そうですし、あとはもしかすると山崎さんの発信についても曲解している人がいるかもしれません。結論としての商品名だけがネットで独り歩きしているかもしれません。
山崎: 特に運用の問題って、前提条件を置くと答えが簡単にひとつに決まるので、そういう意味では割と議論がスッキリしているはずなんだけれども、でもやっぱりその考え方のところをスキップしていきなり商品に、答えに行こうっていうのはやっぱりちょっと危険だし、残念だなと思いますね。
今福: そうですね。ところで先ほどご指摘の2点については「多分おっしゃるだろうなー」と思いながら話していました。
山崎: (笑)
今福:
私がこの「必要利回り」を「目標金額からの逆算」でもいいから把握した方がよいと思う理由には、必要性に根差していない、腰の据わっていないリスクテイクをしている人が増えているなという想いがあります。
つまり、自分にとって必要だから(必要利回りの裏にある)リスクを取るんだと思って欲しいと思っているわけです。特にここ数年のアメリカ株の調子の良さとか、コロナで一瞬肝を冷やしたんだけど、その後「あれよあれよ」と上がったっていう状況の中で、結構安易なリスクテイクをしている人が増えているのではないかと。
もうひとつは、昔からの業界の悪い癖ですけど、「危機感あおりパターン」というか、(老後が)不安でしょ?だから投資をしましょう!みたいなことがずっとあったじゃないですか。あれも嫌で。
山崎: 何か不安で脅しておいて、これがソリューションですっていうのはマーケティングとかセールスの定石だから。こういうことが起こったら大変ですよって脅かしておいて生命保険を売るとかね、やっぱりそのパターンで売ることもありますよね。
今福: ですよね。私はそれがすごく嫌で、もっと前向きな、自分の人生を自分で作っていくっていう、必要性に根差した「本気のリスクテイク」をして欲しいんですよね。
山崎: ええ。
今福:
例えば自分は何で株のファンドを買うのかというと、それは売れ筋No1だからとか山崎さんが言っているからではなく、自分の目標金額達成のために必要な利回りが年5%とか6%とかっていう水準である以上、リスクは嫌だけど他に方法がないから買うんだ、みたいな覚悟というか。
そういうのがないと、下落時に積立を停止してしまったり、利益確定だとか新しいファンドを探してみたりとか余計なことをしたくなるじゃないですか。そうしたことを回避するためにも、自分にとっての必要利回りが何%かを理解しているのは大事だと思うわけです。
山崎: ええ。
今福:
あと「目標金額」における「動機」というのは、別に使い道を縛るという意味ではなくて、こういうふうな人生を送りたいっていう夢とか希望とか、漠たるものでもいいんです。自分が本気になれるのなら何でも。そこから目標を考えたい、という意味です。
私自身そうでしたけど、積立中に40歳でマンションを買いたくなったら頭金に一部を崩すなど、そのとき含み損だろうが含み益だろうが躊躇なく、必要な時には使えばいいんです。
山崎:
その目標金額として、例えば2,000万目指していても、運用が上手くいって2,500万になったからって、500万部分が邪魔だとかっていうことは基本的にないので、取ることが可能な、自分でマネージできるリスクの中でなるべく増やせばいいということで、多分切り離して考えることができます。
でも今の稼ぎを今、全部使うんじゃなくて、今の支出と将来の支出に分けるっていうことは、これは計画的にやらなければいけない。ここはある程度マストでやらなければいけない。
そこで生じた金融資産については、効率的に運用すればいい。資金のサイズは違うかもしれないし、あるいはその中でどれぐらいリスクを取るかっていうことは違うかもしれないけれども、方法とか商品とかっていうのは概ね同じでいいっていうことですよね。
今福: 山崎さんが以前から提唱されている「人生設計の基本公式」っていうのもその考え方でしたよね。運用利回りの前提を置かず、まず老後の必要資金を把握し、支出と貯蓄を切り分ける。あれすごく大事だなと思っているんです。
山崎: 直感的に現在の支出と将来の支出を割り振って、例えばここに子供の学費が加わったどうなるんだろう、逆に退職金があったらどれぐらい楽になるんだろう。結局それで足りないとすると、例えば65歳までじゃなくて70歳まで働けばいいのかとか、そういうことを自分で計算してみて、自分の数字で把握するということが大事なんじゃないかと思うんですよね。
2019年に老後「2,000万円問題」っていうのは大炎上して話題になって、あれは何がマズかったのかっていうことをあえて言うと、2,000万っていう数字はいくつかの仮定を置いた平均の数字だからです。2,000万もなくても大丈夫な人もたくさんいるし、2,000万では全然足りない人もたくさんいる。例えば2,000万では全然足りない人っていうのは、それはやっぱりその人は自分の数字で、自分はどれぐらい貯めていけば老後の生活に対してつじつまが合うのかってことを、自分の数字で計算する方法を教えなきゃいけなかったんですよね。
今福:
人はある中でしか暮らせないし、稼ぎも人によって違うからその中で自分のことを自分で作っていくしかないですよね。私はこの会社のマーケティングの責任者でありますけれども、自分自身の意見を言うと、「運用はしてもいいけど、しなくてもいい」と思います。逆に運用だけで何か解決すると思っている今の風潮の方が問題だと思っているんですね。
さっき申し上げたように、ここ1~2年マーケットがすごく良かった。稀有なほどに良かったじゃないですか。そこで新たに積み立てを始めた人なんかが多いので、きっと今皆すごく含み益ができているし。
山崎: はい。
今福: でも原点に戻って、何のためにリスクを取るのかっていうところを自分なりに考えて欲しいし、リスクを取らなくていい人もたくさん世の中にいるだろうと思うわけです。とにかく勧められたからとか、何か定期預金の満期があるから何かいいのないの?っていう商品選択がこの20年ぐらい日本で多かった。
もう5年以上になりますが、当社が使っているキャッチコピーに「前を向く人の投資信託」っていうのがあります。
将来が不安だからとか、人がやっているからという後ろ向きな動機では多分いいことにならないので、目標を定め、必要な利回りと裏にあるリスクを自ら前向きに取っていこう、そのために投信を正しく使ってほしいというふうに思っているんです。
山崎:
長期にしても、あるいはいろんな組み合わせをするにしても、リスクフリーの金利よりも高い利回りを絶対に確保できるかっていうと、絶対っていうことはあり得ないからこそ、リスクプレミアムが存在するわけです。
そういう仕組みになっているので、やっぱりそこを納得した上で賭けるっていう人が投資をすればいいわけだし、別に投資をしなくても人生は成立するし、それはやりたい人はそれこそ「前を向く人」がやっていったらいいっていうことだと思うんですよね。
もうひとつ、多少逆の意味で心配なのは、結構若い人でもFIRE(Financial Independence Retire Early)とかが流行っているとか。
今福: そうです。そうです。
山崎:
会社から自由になることができるような金融資産を早く作るんだ。そのためにはたくさんのお金を投資して、早く資産を作るんだっていう、我々の商売を考えるとすごく都合のいいこと考えてくれているらしいんだけれども、要はその人たちが例えば若いときに上手にお金を使っているのかどうなのか、効果的に使っているのかどうなのか。少し硬い言葉で言うと、人的資本に対して過小投資になっていないかってことが心配ですよね。
必要な分ぐらいは貯蓄し運用した方がいいけれども、あまりにもその金融資産に過大に投資が偏ると、人的資本が貧しくなっちゃう。ひと言で言うと「将来稼げない人」になる。まず将来稼げる人になるための投資っていうことも考えた方がいいし、稼げる人っていうことだけじゃなくって、「つまらない人」になってしまう可能性がある。
でもそういうリスクもあるので、自分の人的資本に対する投資と、それから金融資産に対する投資とっていうことも、バランスも考えてほしいなというふうに思いますね。
今福: FIREについての本を読むと、いかに節約して早期リタイアし、リタイア後も節約しつつ取り崩していくかっていうことが描かれていて、おっしゃる通り本当につまらない「前半」と、爪に火を灯す「後半」になりそうな感じが心配です。
山崎: 爪にFIRE(火)を灯すってことですよね。
今福: 本当ですね。仕事しなくなって40歳からでボケないのかなとかも心配です。私は「FI(Financial Independence/経済的自立)」は是非目指すべきと思うんですよね、早くできた方がいい。ただ、できればやっぱりしっかりと仕事をして、そこで成功してWork Happilyというか、Work Enjoyablyというか。「FIWH」、語呂が悪いですね。
山崎: あと、どうも最近「S&P500一択!」っていう人が多いらしいんだけれども、それについて御社的にはどんな印象をお持ちなんですか。
今福:
そうですね。違和感覚えます。実体験として良い時しか知らない人による意見かなと。例えばナスダック指数は2000年のITバブルの高値を15年ぐらい上回れなかったですよね。15年って恐ろしく長いです。
そういう時代も含めて考えて発言している人たちばかりではないっていうことと、あとは山崎さんからするとご異論があるかもしれないんですけれども、やっぱりインデックスファンドの仕組みを妄信し過ぎている、しかも国だけで考える「国家ベースすぎる」という点が気になります。
山崎:
アメリカは人口も増えているし、経済成長率もしばらく高いかもしれない。それに今まで好調だったし、アメリカ企業はどっちかっていうと株主に気に入ってもらえるような経営をする。一番象徴的には自社株買いをしているっていうことだったり、あるいはアメリカ企業が世界でビジネスをしているから、アメリカだけ買っていれば世界に投資しているのと同じことだ。みたいな、まぁいくつかこういう理由はないわけではないんだけれども、やっぱりリスクを考えると、例えば過去5年ぐらいのリスクをざっと概算してみると、例えばS&P500が17%というような数字が出るとすると、例えば世界株のETFなんかで計算すると16%前半の数字が出る。やっぱり広く分散投資することによるリスクを縮める効果みたいなものはあるので、投資の一般論として考えると「一択」っていうのはちょっとな、っていうふうに思いますよね。
やっぱりアメリカの制度変更のリスクだとか、アメリカとどこかの国との間で問題が起こるようなリスクだとか、アメリカ固有のリスクっていうのは、アメリカ企業にだけ投資しているとやはりあるはずだから、そこはなるべく「分散しておいてよかったね」っていうようなことって、やっぱりお金の運用をやっていると、特にファンドマネージャー時代には強く感じたことですけれども。
今福:
なるほど。アメリカの制度変更と今おっしゃったんですけど、特にS&P500を引っ張っているGAFAM(Google,Amazon,Facebook(Meta),Apple,Microsoft)などと言われるところについては、その点ちょっと気になりますよね。
大きな環境変化の中、そういった銘柄が(指数に)異常なほどに大きな比率を占めているのは気になるところです。もちろん時価総額の変化に応じて指数の組入比率も変わる仕組みなわけですが、それってすごく時間がかかり、基本的に大勢が決まってからの後追いなわけです。テスラだってあれだけ高くなってから指数に入るわけです。
山崎: 投資の妙味っていうことで考えると、アメリカの企業っていうのはもう十分に評価された、っていうような感触がないでもないですよね。ただアメリカを中心に株式のポートフォリオを持つということについてはそう異論はなくて、あとは、世界株で考えたらどうなんだ、あるいは国内株と外国株の組み合わせで考えたらどうなんでしょうかと。もう少し分散を指向して、一点に絞らない運用を考えた方がいいんじゃないのかな、長い目で見たらっていう気はしますね。
(本対談の内容は、全て2021年9月時点のものです)
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山崎元氏をお招きして実現した当対談。フラットで率直なご意見や示唆に富む見解を数多くいただいた時間でした。常に投資家目線に立ち、資産形成における情報発信や鋭い問題提起をくださった山崎氏。心より哀悼の意を表し、ご冥福をお祈り申し上げます。
(2024年1月 日興アセットマネジメント・追記)
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