投資信託の「今」について
山崎元さんと語り尽くした3時間

テーマ①
S&P500一択?商品選択の風潮ついて

テーマ②
「クチコミ全盛時代」の今、持っておくべき知識とは?

テーマ③
インデックス vs. アクティブの議論はそんなに重要?

今福啓之(マーケティンググローバルヘッド)

テーマ②に入りたいと思います。テーマ2はですね、株式のプライシング(価格形成)の話を山崎さんにしてもらいたいかなと。

山崎元 氏(経済評論家)

はい。

(以下、敬称略)

今福: 私の方からまた少し観念的な話をさせていただければと思います。まずリスクを2つに分けたらいいかなと思っています。それがこちらです。

こんな概念や言葉はないと思うんですけれども、「途中のリスク」と「最後のリスク」っていうふうに私はずっと考えてきました。

「途中のリスク」というのがいわゆる目に見えるボラティリティ(変動性)というやつで、一方の「最後のリスク」というのは、最後に所期の金額になっていない可能性です。私いつも自分のDC(確定拠出年金)のことで説明をしています。

山崎: ええ。

今福: 私1990年に社会人になって、2000年に初めて外資系の運用会社に転職をしました。日興アセットの前です。その後2年ほどして制度が導入されて確定拠出年金(DC)に入りました。

その後ずっと世界株のインデックスファンドを転職しても持ち歩いて、継続していますが、DCは60歳になるまでおろせないので、途中ジタバタしてもしょうがないって思って無視しているのがこの「途中のリスク」です。

おろせないんだから無いものと思おうと。一方で「最後のリスク」というのは私のDCにとっては「退職時に増えてないこと」です。これは怖い。私にとっての真のリスクはこの「最後のリスク」であると思いました。

DCって、言ってみたら会社がお金を出してくれている退職金ですから、例えば「途中のリスク」を減らしたいがために預金型を選んでいる人は、DC以前の先輩方よりも自らで退職金を減らしているのと同じです。でも、今の日本には結構いるんですよね、預金型とか安定型のものを選んでいる方って。

山崎: ええ。あと保険型とかね。

今福: はい。それでも、どうしてもこの「途中のリスク」を減らしたいなら分散投資がいいだろうと思います。そして「最後のリスク」を減らすのは何かなと思うと、長期投資なんだろうと思うんですね。

長期投資するとリスクが減る、安定的になる、っていう間違った言説が昔からあって、山崎さんも何回もコラムで書かれていることだと思います。私が考える長期投資の効用は、「多少間違っても長く構えれば結果オーライになる」っていうことです。それがここに書いた「長期投資で対応する」という意味です。

長くしておけば、結果オーライになる。短いとちょっとしたタイミングの間違いが命取りになるけど、長く構えておくと結果オーライになる。だからあれこれ考えず放っておけばいいんだ。これが実は長期投資の意味であり、効果だと思っているわけです。

「途中のリスク」は、今日買って明日売る人も、今日買って10年後に売る人も一緒じゃないですか。毎日動いているそれは全く変わらないので、「途中のリスク」は長期投資では減らない。「途中のリスク」を減らしたければ、何かと分けてもっと分散をすれば減ることが多い。

ただ、混ぜすぎると(途中の)リスクは下がるけどリターンも下がっちゃうので、DCなら60歳になったときに私の資産が株100%だった場合よりも少ないでしょうね。

山崎: やっぱり短期の変動を気にしないでいることについて、どういうふうに納得するかっていうことなんですよね。

少しリスクに対する解釈が今福さんと多少違うかも知れないのは、やっぱり「途中のリスク」だからといってリスクを負担してないわけでもないし、でもそれに対して有利なリターンがあるはずだという点です。それの積み重ねがきっとあるだろうと期待するのが長期で持っているということで、ただ長期にしたからといってリスク自体が均されいるわけでも何でもないので、それはそういうリスクをずっと組み合わせて持っているっていうことなんだと思うんですよね。

でも、「途中のリスクを気にしない」っていうことの良さっていうのは、やっぱり先ほどおっしゃった、ちょっと今は心配だから株を売って下がったところで買い増ししようとか、やり直そうとかっていうようなことの抑制に繋がることです。基本的にはいつ株価が上がるのか下がるのかなんてわからないわけで、いわばコントロールが効かない、鍛えても強くならない能力なんですよね。

だからそういうところを修行によってとか勉強によって回避しようとかっていうことは意味がない。そういうものっていうのは予測できないんだけれども、リスクに対して有利にプライシングされるだろうと期待できる、それに自分が賭けてもいい範囲だけで賭けていようっていうことだと思います。その繰り返しをしていくことが結果的には長期投資になっていくっていうことなのかなと。

玄人でもタイミングはうまく判断することはできないっていうのは年金運用なんかの世界でほぼ常識です。さらに素人と玄人にそのレベル差があるかっていう問題についてもまたあります。でもやっぱり下がって怖くなってとか、ちょっと気持ちが振れてポジションがない状態が起きて、そのときに短期的に株価が急に上がるっていうことが結構多いんですよね。

アメリカのマーケットはずいぶん上がっているけれども、その値上がり上位の数十日を除いてしまうと国債とほとんど変わらない(リターンになってしまう)みたいな、そういうデータもあるわけで、それがいつ起こるのかっていうのが分からないからマーケットに居続けるしかない。

上げ相場にも下げ相場にも全部付き合うつもりで、自分にとって適切な量のリスクを持っているしかない。できるのはそれだけっていうことだとすると、じゃあできるリスクの取り方について、適切なリスクをとったら、あとは投資として改善できることってなくなるわけだから、人生を楽しみなさいっていうことですよね。

今福: 確かにそうですね。あとはリスクを取る量を多くする、つまり仕事での「稼ぎ力」を高めていわゆる「入金力」を上げるっていう観点も大事ですかね。私も転職組ですが、山崎さんみたいに上手に転職するなどして!(笑)。何回でしたっけ?

山崎: 転職12回はね、引っ越し貧乏的なコストが結構ありましたね。いわゆるボーナスが、例えば半分カットとか全然もらえないとかっていうようなことで言うと、12回のうちボーナスで損したのは6回ありましたね。

今福: ちゃんと覚えているんですね(笑)。

山崎: うん、恨みがましく覚えていますね(笑)。

今福: ありがとうございます。私が「途中のリスク」をないものとして無視すると話した、いわば心の持ちようについて、山崎さんはその間もしっかりとそのリスクプレミアムを回収している、積み上げているんだという、理論的なお話を追加してくださいました。その株式の価格形成について、少し深掘りしてみたいと思います。

これも私の非常に簡易的な、それこそ突っ込みどころ満載なコンセプトなんですけど。

山崎: はい。

今福: 今ついている株価っていうのは利益、正確には利益の予想に対して、皆で値段を付け合った結果だと思うんですが、その利益、将来利益の予想に対して、市場の「ムード」が掛け合わさっているものが日々の株価であるというふうに理解しています。

「ムード」は毎日猫の目のように変わるから、それによって右往左往するのは賢明ではない。ただ「マーケットはひとつ」なので、そのムードの変化でお客様がお持ちのファンドの基準価額は実際に日々変わってしまうわけですよね。

そうすると「下がったらもう駄目なのか」とか、「上がったから一旦売った方がいいのか」って思ってしまう。でも「利益」の方が変わっているのか「ムード」の方が変わっているのか、あるいは両方なのかという検討なしに、下がった上がったと言っても意味はないんですよね。

山崎: 多分この「ムード」の変化の中には、利益の成長率に対する見通しの変化、それからリスクプレミアムの変化という両方の要素が入っていると思うんですよね。

だから成長に対して過度に楽観的になるようなとき、あるいはリスクって大したことないっていうふうに思ってリスクプレミアムが縮小するときに株価が上がる、利益が一定でも株価が上がってその株価で投資すると、儲かりにくくなるっていうような仕組みになっていますよね。

今福: 株式って得体が知れないものというのが一般的な解釈ですけれども、株式に限らず証券価格というのは、将来のキャッシュフローをどう現在の価値に評価するかというロジックにおいて共通していて、ある意味理論的に形成されるんですが、なかなかそこは理解されてないってことですよね。

山崎: そうですね。

やっぱり利益成長に賭けて、成長していると株価が上がるんだっていうのは一番直感的には分かりやすいんだけど、ただ株式ポートフォリオを運用してみれば1~2年で分かるし、個人投資家でも数年やれば実感すると思いますけど、例えば2割増益が続いているみたいな会社の株を買って、買った瞬間は気分いいかもしれないけど、2割増益が15%増益に落ちたとき、その株価の落ち具合みたいなのって結構悲惨で大きいものがあるわけです。

過去の成長は確実に見ることができるけれども、あくまでも問題なのは将来思われている成長と次に現れる情報とがプラスの変化なのかマイナスの変化なのかってことが問題だから、それはプラスの変化だけを選ぶことができるといいけどそういうことは難しいので、せめてプラスマイナスの変化を分散投資でばらしておけば、もう長いこと持つことができるんじゃないかっていう、そういう世界ですよね。

今福: はい。

山崎: 理屈で考えるとそういうことだし、会社を応援しようとか、なんかそういう過剰な意味を投資に与えすぎないことが大事だなと思うことが多いですよね。

今福: 今本当に情報がたくさんあるので、そうした原理原則の普遍的で冷静な理解よりも、テクニックや変にプロっぽい話の方が溢れている気がします。

例えば何割下がったら自動的に売る「ロスカットルール」とか、一旦利益確定、「利確」をすべきだとか、「リバランス」をすべきだとか、「シャープレシオ」が高いものがいいとか。

さっきの「最後のリスク」ってとこでお話したことですが、あまりに一所懸命になりすぎるのは逆効果で、「使うときにしっかりと自分の人生が少し豊かになる程度に増えてればいいじゃないか」ってくらいの気持ちでいることが、個人の資産運用のポイントだと思うんですよね。

山崎: なんかあれですよね、勉強すると投資がうまくいくみたいな、そういうマッチョな努力主義とでもいうようなものが、変に良くない作用に働くっていうか、なんかそういうことがあるような気がしますよね。

例えばロスカットとか利確とかっていうのは、それは金融論的には意味がない。そういうことにこだわるのは駄目な運用です。せいぜい役に立たない民間療法のようなものだし、シャープレシオって言っても、過去のシャープレシオではなく期待値が大事なんだし、リバランスとか最適バランスとかっていうことも、そのときそのときに最適であるということを自分で計算できて分かっているんだったらまだ意味があるけれども、そうでもないんだったら、そういうことを上手くできているような気分になっているに過ぎない。

気分も趣味だと言えば片目をつぶって許してあげればいいのかもしれないんだけれども、ちょっとあんまりそういうこと言っていても別にカッコよくないぞ、っていうようなことは言ってあげたい。絵に「機関投資家じゃあるまいし」ってありますけど、機関投資家だって顕著に結果を改善できているのかっていうと、そういうことはないので、例えば個人が機関投資家に憧れるとか、あるいはたまたま運良くうまくいった投資家—「億り人」たちに憧れるとか、何か専門家がやっているような、あるいは成功した人がやっているようなことを学んだり真似したりするとうまくいくんじゃないのかという素朴な感覚を、まず自分で疑った方がいいですね。

今福: わかりました。次のスライドも一応説明させてください。さっきの「ムード」の話から繋がるスライドなんですけれども、色んな人が色んなことを考えて値段が動いているマーケットは、当たり前ですが「残念ながらひとつ」なんですよね。

絵の通り悪そうな人もいるし、米国のロビンフッドで短期売買するパンク風な若者もいるわけです。でも、我々の投資信託を特に個人の方が買ってくださっている場合は、(投信を通じて)その中に居ながらも、いかに違うスタンスが取れるか、違うものを見ているかっていうのが、すごく大事だなって思うんですよね。

山崎: いろんな要素があるっていうことは、この株式市場とか資本市場の著しい特色ですよね。増税が注目されるときは増税の話だし、アメリカの雇用統計が日本人も固唾を飲んで見守っているようなときもあるし、その辺はひとつの楽しみではあるんですけれどもね。

趣味としての楽しみっていうようなこともあるし、あともう一つ、運用会社とか証券会社が一般の人にマーケットを説明するときって、やっぱりマクロ経済の話とか景気の見通しとか、制度とかそういうことから話すと、なんとなく順序立てて話しているように見えて賢そうに見えて、ありがたそうに見えるから一種の儀式みたいなものなんですよね。

だけど金融政策が大事だとして、金融政策を人よりも有効に予測できたときに初めて、そのファクターが運用の役に立つわけなんだけれども、でもそういう優越性を持つこと、あるいは持ち続けることっていうのはどんなプロにも難しいので、基本的にはリスクと情報が株価をはじめとする資産価格に反映していて、それによって価格は動くのだけれども理屈としてはリスクプレミアムが期待できるはずだ、くらいのスタンスで眺めているくらいなんですよね、できるのは。

今福: 確かにそうですよね。最後この項の最後になりますけど、次のスライドも説明させてください。最近ちょっと違和感を覚えるのが、ネット上とかで「アメリカは米国企業のダイナミズムが素晴らしいから」とか、「人口が増えるから安心だ」とかっていう言い方が増えている。何て言うのでしょうね、天下国家を語りすぎているというか。

山崎: 国家単位で物事を語ってみたくなるっていうのは、何となく投資っていうか広いマーケットを相手にしていると、単純化しながらあるいは擬人化して、アメリカは今こんなふうに思っているはずだから、けれども中国はきっとこう考えるだろうみたいな話にしたいってことですよね。抽象的にアメリカっていう主体もないし、抽象的に中国っていう主体も本当はないはずなので、その国家単位で物を考えるっていうのはかなり大雑把な捉え方ではありますよね。

そもそも投資している対象っていうのが、どういう経済生産に関わっていて、どれぐらい分散されているのかっていうような、そういうことを考えた方がいいですよね。アメリカのマーケットにたくさん投資することがおおよそ適当なのは、アメリカにはたくさんの企業があって、経済活動が活発に働いているから、そこには投資すべきビジネスがたくさんあるので投資できる、またマーケットが大きいから投資できる。資金がちょっと入っただけでマーケットが持て余すみたいなことがない大きなマーケットなので投資ができる対象だっていう、そういう形で考えればいいんです。大元が企業であるっていうことを忘れるのは、趣味としての株式投資としてもつまらないし、国家を大雑把に語って相場を考えたつもりにはあんまりならない方がいいのかなあと思いますね。

(本対談の内容は、全て2021年9月時点のものです)

テーマ①
S&P500一択?...

テーマ②
「クチコミ全盛時代」の今...

テーマ③
インデックス vs. アクティブ...

山崎元氏をお招きして実現した当対談。フラットで率直なご意見や示唆に富む見解を数多くいただいた時間でした。常に投資家目線に立ち、資産形成における情報発信や鋭い問題提起をくださった山崎氏。心より哀悼の意を表し、ご冥福をお祈り申し上げます。

(2024年1月 日興アセットマネジメント・追記)

上記で言及した個別銘柄について売買を推奨するものでも、将来の価格の上昇または下落を示唆するものでもありません。また、当社ファンドにおける保有・非保有および将来の銘柄の組入れまたは売却を示唆・保証するものでもありません。