初心者3分シリーズ:投信イチから編
分配金(2) 分配金は複利効果をなくす悪者ですよね? <後編>

今福 啓之
日興アセットマネジメント

当「20年後ラボ」は「これから投資信託を始めよう」または「始めたけど自信ないんだよね」という人に向けて、投信メーカーならではのちゃんとした内容を、でも社員個人の考えを自由にカジュアルにお届けしたい、というサイトです。
・・・なのですが、どうしても皆、長くなりがち。そこで通常のコラムとは別に、3分で読めるくらいのショートシリーズを立ち上げました。さて短く書けますかどうか。
前編からの続きです。
さて、もうひとつのポイントは、「分配を投資効率で考えるのはナンセンス」――です。
毎月分配型を始めとする分配型ファンドはせっかくの複利効果をなくす、「投資効率」の面で好ましくないファンドだと、長いこと言われてきました。しかし前編で説明した通り分配は“自動解約機能”であり、そこに「投資効率」といった難しい議論は、実は関係ありません。
つまり、自動解約が便利でその現金を楽しく使いたい、運用しながら取り崩したいという人は積極的に選べば良いし、定期的な現金が不要な人はそもそも選ぶべきではないという、ただそれだけの話です。
現金の要不要という「使い手のリアルなニーズの話」を、「投資効率」という使い手から遠い議論によってファンドの良し悪しに結論付けたり、分かったようで良く分からない複利効果の話と絡めた人が多かったりしたために、いつまで経っても分配型ファンドの議論が“複雑骨折”しているように感じます。

分配金による“自動解約”をしながら運用した結果が、一切解約しないで運用した結果と比べて最終売却時点で少ない金額なのは、言うまでもなく当たり前の話です。そして、その分配金の再投資で得られたであろう複利効果を失うから悪であるといった意見も、実は誤解に基づいたものです。
ご存知の方は多いかもしれませんが、(我々運用会社ではなく)販売会社のシステムに、「分配金受け取りコース」と「分配金再投資コース」というものがあります(名称は販売会社により異なります)。
出た分配金を普通預金などに振り込んでもらうのが「分配金受取コース」で、受け取らずにすぐ同じファンドに戻し入れてもらうのが「分配金再投資コース」です。ファンドを買う時にファンド毎に指定します。
その「分配金再投資コース」を選ぶのは複利効果のためだという意見があるのですが、それは間違いです。
そもそも日々価格が動くだけの投資に複利効果の話を持ち込むべきではありません。特にこの、投資信託の分配金を再投資することが複利効果を生むというのは、根本的な部分の理解不足による誤解です。
前編で説明した通り、100万円の時に10万円の分配金が出たとしたら、あなたの保有ファンドの価値は90万円になっています。預金のように元本が変わらぬまま利息が振り込まれるのとは違います。
90万円になってしまったところに再投資コースによって分配金の10万円を戻しても、それは一般的に言われる複利ではありません。再投資により「分配がなかったのと同じ」にしただけです。必要だから一部を“自動解約”で回収したことと比較すること自体がナンセンスです。
少し変な話をしますが、基準価額が下落していく局面では、分配金を受け取った方が「その分だけ下落を免れている」ことなります。元本が変わらずに常にプラスの利息が出ることを前提にした一般的な複利効果の議論が、いかに変動商品に馴染まないかが、理解してもらえるでしょうか。
基準価額は上がったり下がったりを繰り返し、その両方に付き合って長く持ち、最後に売った時に利益が出て喜ぶ――それが本質です。シンプルに考えましょう。

さて、2回にわたって分配金の「そもそも」を説明しました。「出したらその分だけ必ず減る」、そして「分配金を投資効率で考えるのはナンセンス」。
この2つのシンプルで大事な理解を持っていれば、分配型ファンドをめぐる面倒な議論とは距離を置くことができます。その理解の上で、定期的な“自動解約装置”が便利だと考えるなら、堂々とそれを使えば良いでしょう。
販売会社によってはシステムのひとつとして、それこそ“自動解約機能”を持っているところもあります。分配金のかたちで運用会社に一斉一律に自動解約されるのではなく、販売会社のシステムで自分で決めた金額や比率で自動解約させる仕組みです。
しかしこの場合も、その現金化が各ファンド毎の損益状況とは関係のない取り崩しである点は同じです。利益確定とか投資効率とかではなく、自分は現金が必要だから少しずつ売っている――ただ、それだけです。
そして、定期的な現金など不要だという人は、分配金を極力出さないタイプのファンド(「年1回決算型」などの呼称のファンドに多い)を選び、再投資コースを(複利効果のためなどという間違った理解ではなく)選択すれば良いのです。
今福 啓之
日興アセットマネジメント
