第八話 資産運用のリスクを2つに分ける―「途中のリスク」と「最後のリスク」
今福 啓之
日興アセットマネジメント
ポイント
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リスクという概念を「途中のリスク」と「最後のリスク」に分ける考え方が有用
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最後の目標達成にフォーカスし、途中の変動を無視する態度が求められる
目次
では少し照れるが早速始めますか。投資信託(投信)の仕事で32年目の僕が、父親の最後のアドバイスとして結婚した娘とその夫2人にこんな話ができるのは、まぁありがたいことだよね。
「直線をあきらめて、曲線を受け入れる」のが資産運用
株100%の投資信託にすればいいよ、って話をした。
なぜそんな決めつけを、責任も取れないくせに言うのか。それを話してみたいと思う。
2人にはぜひリスクを「途中のリスク」と「最後のリスク」の2つに分けて考える、という理解を持ってほしい。
これは、確か僕がウチの会社に転職した直後くらいに思いついたものなんだけど、それ以来、実は資産運用で一番大事な考え方なんじゃないかと思っていて、あちこちで言いふらしている自分史上最大級の自画自賛ワードなんだよね。
まず、この絵を見て。
投資信託の基準価額でもいいし、その中身である株式の値動きでもいいんだけど、とにかく資産運用って、この絵の通りに曲線なんだよ。当たり前じゃんと思うかもしれないけどさ。
本当は直線がいいよね。
直線ってつまり預貯金だよね。スタートからゴールまで直線で推移するからノーストレス、下に曲がることはないということは元本割れはない。最高ですよ。
でも今の預貯金金利は恐ろしく低いから、この絵みたいな角度の直線のはずは絶対なくって、地を這うほぼ真っ平の線になるわけ。
それが嫌だから、それじゃあ将来を描くことができないから僕や君たちはこの「直線の世界」を捨てるわけだ。
直線にこだわっていたら未来は無いから、嫌だけど曲線を選ぶわけ。これが、リスクのあるもので資産を運用することの本質だと思う。
曲線を使って遊ぶのが好きな人もいるけどね。売ったり買ったりと。曲線の振幅が大きいとギャンブル的な売買には確かに面白いんだろうね。
ギャンブルって言うと悪く聞こえちゃうけど、趣味としての投資と考えれば全然悪いことじゃない。でも僕らはそういう目的ではないわけだ。している「ゲームの種類」が違うわけだ。
投資信託の運用による「真のリスク」は何だろう?
なんてカッコいいこと言ってはみても、必ずやってくる元本割れの期間はそりゃ嫌ですよ。
積立を始めて時間が経っていけばいくほど元本が大きくなるから、損の実額も大きくなってキツイのよ。
まだ積立元本が10万円の時なら、2割下がったといっても2万円だけど、100万円積立したあとの2割は20万円だし、500万円だったら100万円の「含み損」を見ることになる。
100万円の含み損なんて聞くと「ヒー!」って思うだろうね。そんなのムリ!やっぱ株式のファンドなんて嫌!って思うかもね。
でもね、君たちにとっての「真のリスク」は実はココじゃないのよ。
僕や君たちが本当は嫌な曲線を受け入れるのはなぜなんだろう。
一度は必ず元本割れする投資信託なんてものを買うのはなぜなんだろう。
それは曲線を受け入れてでも、その先に到達したいゴール、目的があるから。
君たちでいえば20年、30年後に「人生のハンドル」を自分たちが握っている実感を持った、余裕ある大人になっていることなんだと思う。
つまり、君たちにとっての「真のリスク」とは「その夢が叶ってないまま20年後30年後を迎えていること」じゃないだろうか。
金銭的余裕はあまりなく、相変わらず上司や会社に人生のハンドルを握られた状態のまま歳をとってしまっていることじゃないだろうか。
別に大金を作って仕事を早くに辞めるべきとは全然思ってないからね。
数年前にFIRE(Financial Independence, Retire Early/金銭的自立と早期退職)という海外発のムーブメントがあったけど、そんなに早くに仕事やめたらボケそうだし、会社の仕事が嫌だからお金を貯めようなんて動機は悲しすぎる。
仕事が楽しくなければ家庭も生活も充実しづらいというのは、昭和の僕だけに限らない真実だと思う。
でも「何ならいつでも辞められる」「どちらかが1年くらい休んでも全然平気」と思えるようなお金を持った2人なら、やっぱりハンドルを握って自分で人生を運転している感覚があるだろう。
人生の選択肢をたくさん持った2人になっていることだろう。
そんなワクワクするような未来を達成することが君たちにとっての資産運用の目的であり、その目的が全然達成されていないことがリスクだ。
つまり途中の100万円のマイナスは、めちゃめちゃ大きなストレスではあるが「真のリスク」ではない。
資産運用における「途中のリスク」と「最後のリスク」
今話した将来の目的が達成されない可能性の度合いが、この絵にある「最後のリスク」であり、マイナス100万円の方は、目的達成の過程で避けては通れない「途中のリスク」だってことね。
資産運用におけるリスクをこの2つに分けて理解することを強く勧めたいんだよね。完全なオリジナルワードなんだけど、すごく大事な考え方だと思うから。
投信の基準価額は1日に1回計算されて発表されるんだけど、上か下かにとにかく変動する。すごく気になる。
でもそれはすべて「途中のリスク」なんだよね。
株式市場が下がった日には新聞やニュースが騒がしくなるし、悪いムードが続くと毎度深刻な相場解説が増えてくるんだけど、「すべては途中のリスクに関することさ」と思ってほしい。
「曲線を受け入れたんだから当たり前で仕方ないこと。自分には関係ないノイズだから無視、無視!」と思える人が、最終的に目的を達成できる人になる。
ところで君たち、会社の確定拠出年金はどうしてる?
ところでさ、今まで聞いたことなかったけど、2人の会社には確定拠出年金の制度はあるんだっけ。
企業型確定拠出年金、DCとか日本版401kと言われることもあるかな。簡単に言えば退職金制度ですな。君たちの会社が給料の他に君たちの老後のために毎月お金を出してくれてて、退職時に渡してくれるもの。
お金は会社が出してくれるんだけど、退職時までの運用方法は個人に委ねられていて、具体的には会社が用意したリストから投資信託を選ぶの。
これ、皆で最初に会社の説明会を聞くんだけど、よくわからなくて「怖いから元本確保型っていうコレにしとこ。株のファンドなんて怖いし」ってなってる人が結構いるらしいね。
これね、かなりヤバイんです。企業を超えた大きな問題とされてる。
2人の確定拠出年金の中身、どうなってるかわかる?
多分、机の引き出しのどこかに「DCナントカ」っていうウェブサイトの案内の紙があるはずだから探してアクセスしてごらん。そこに何のファンドを選んで、今どうなってるかが出てるから。
でも多分パスワードとかがわからなくてログインできなかったりするんだよね。
僕の確定拠出年金を公開しよう
ちなみに、これが僕のDCの中身。
資産配分状況(ポートフォリオ)の円グラフを見てほしい。
「外国株式型」の一色で、下の商品の欄を見ると「インデックスファンド海外株式ヘッジなし」の1本であることがわかる。
この手の円グラフは普通、複数の資産にアセットアロケーションされたカラフルなもので、したがってファンドは最低でも3つ以上が選ばれていることが暗黙の理解にあると思う。一般論として。
前の外資系運用会社で2000年に始まったDCのセットアップにあたり、僕は一切の分散をせず、株式100%の1本のファンドだけにした。
その後の転職ではDCのメリットであるポータビリティ性を活かして持ち歩き、20年以上ずっとこの状態でそれぞれの会社からお金を入れてもらってきた。退職金だからね、DCは。
なぜか。それはDCとは原則として60歳になるまで換金できない制度だから。
つまり「途中のリスク」をあれこれ気にしても、どのみち下せないんだから仕方ないと考えたわけ。それよりDCにとっての「最後のリスク」とは、リタイア時に十分なお金に成長していないことだと考えた。リタイアする時に拠出金が思い切り増えてないと困ると思ったわけ。
会社が毎月お金を拠出してくれ、商品選択は社員に委ねられているのがDCだよね。
そこで「何となく怖いから」と、リストにある低リスク型の投資信託とか元本確保型の商品とかを選んでしまっている人がすごく多いらしい。
それって「途中のリスク」を恐れるがあまりに、若いうちに「最後のリスク」を確定してしまっている行為だと思う。
つまり、退職する時に以前の制度で退職した諸先輩よりも大幅に少ない退職金、あるいは退職年金の原資しか手にできない人になる可能性を知らずに選択してしまっているわけ。
さてさて、2人は自分のDCのサイトにアクセスできそうかな。
え?やっぱりパスワードがわからない。なるほど。人事とかにサイト名を聞いてアクセスして、パスワードを再設定だな。はい、頑張って。
今福 啓之
日興アセットマネジメント