「2人の娘とその夫」に送る資産形成の黄金律

第十九話 投資の前に――将来いくらあれば正解なんだろう?

公開日

今福 啓之

日興アセットマネジメント

ポイント

  • 資産形成の成功には、見栄と上手に付き合うことによる「入金力」と「本気の積立」が求められる

  • 「いくらあるといくら使っていけるか」から目標金額を具体的にイメージできると投資のかたちが見えてくる

では少し照れるが早速始めますか。投資信託(投信)の仕事で32年目の僕が、父親の最後のアドバイスとして結婚した娘とその夫2人にこんな話ができるのは、まぁありがたいことだよね。

FIREの「FI」だけは目指したい

我が娘と夫に対しては綺麗事じゃなく本音を言いたいんだけど、やっぱりお金って大事だ

何をいきなり、って思うかもしれないけど、最近は何だか数学みたいな話ばかりしちゃっていたので、少し初心に戻った話をしようと思う。

今まで何度か「人生のハンドルを握っている大人になるために」みたいな表現を使ってきたよね。
もちろん「人生のハンドル」を握っているという感覚には色んな要素があると思う。絶対にお金だけではないと思う。
それでもやはり、お金が占める部分は相当に大きいと思う

ところで、多分気づいていると思うけど、僕は政治にまったく興味がない。
僕は不遜にも、政府がどうあれ景気がどうあれ、自分と自分の家族のことは自分で何とかする、しなくては、みたいに思っていた。

税金や社会保障などの負担は上がる一方だし、と思ったら急に「何とか給付金」がバラまかれたりした。
その度に政治が紛糾して、ニュースが騒いだけど、僕はそんなのに関係なく、自分の家族を余裕で守れているようでありたいと思っていたんだと思う。

もちろんそれはとんだ「勘違い野郎」で、実はすごく恵まれた日本という国に生まれたおかげで、たまたま巡り会えた会社のおかげで、何とかやってこられたに過ぎない。

それでも若気の至りというか何というか、「自分のことは自分で何とかする。そのためにはお金をしっかり貯めておかねばならない」っていう思いが強かった。

32歳で初めて転職したのが外資系だったことで、否応なしに自立心のようなものが芽生えた面もあると思う。

前にも少し話したけど、一時話題になったFIREというコンセプトがあるじゃない。Financial Independence, Retire Early(金銭的自立と早期退職)の頭文字だね。
この前半のFIについては、僕が勘違いしながらも意識していたのと同様、君たちも目指していいと思う。まさに「ハンドル」を握るためにね。

でも後半のREについては、早期退職を目指すよりは、いつまでも辞めたくないと思える仕事を見つけることに頑張る方が、人生は豊かになりそうだとだけ言っておくわ。

見栄と上手に付き合い、「入金力」アップを

でも普通の勤め人である僕らは、そう簡単にFinancial Independentにはなれません。一念発起して起業して大成功でもしない限りね。

だからこそ、ずっと話してきたコツコツの積立はマストであり、手取りの25~30%の「本気の積立」を、夫婦一緒にオープンに、長期戦で臨むことがおそらく最善の作戦だ

そして日々の仕事を頑張ることで毎月の積立の金額を上げていくことが大事。

この俗に言う「入金力」のアップはすごく大事。
いつまでも月1万円ではいくら時間をかけても、いくらスゴイ投資信託を選べたとしても知れているからね。

そしてもうひとつ大事なことが、人生における見栄との付き合い方だと思う。

ウチはお母さんも僕もその点で有利だった。
決してケチケチな家ではなかったと思うし、色んなところに皆で遊びに行ったけど、そういう時の宿もレストランも、普段着る物も乗る車も、住む場所にも見栄はなかったよね。

見栄と上手に付き合い、「入金力」アップのために仕事を頑張り、できるだけ早い段階から「本気の積立」をずっと続ける――。

これができれば、Retire Earlyできるほどではないにしても、「ハンドルを握っている感」のところに、思ったよりも早い時期に近づけるはずだ。

「いくらあったらどれくらい使っていけるか」を考えてみる

というわけで、手取りの25~30%の積立を頑張ろう!ということを何度も言ってきた。
一方で「いったい将来いくらあったらいいんだろう」という具体的な金額のことは言ってなかったね。
この「最初に目標金額を持って始めること」って、実はすごく大事なことだと思う。

Financial Independenceって、やっぱりピンとこないじゃない。
1億円とか2億円とか、あるいはもっとないとダメなんじゃないかって気がしてくる。もう少し現実的な目標金額じゃないと頑張る気にすらならないよね。

じゃあ、そうだな。例えば君たちが65歳になった時にいくらくらいのお金があったらいいと思う?
65歳で定年退職する時に、ってことね。退職金で家のローンの残りを全部返しちゃったので住む場所の心配はないってことにしよう。

僕らもまあ、ポックリと迷惑かけずに死んだってことにしよう。つまり親の世話とかも気にする必要ナシ。
君たちの子供もいたけど、独立していて何の心配もない。つまり2人が夫婦で素敵なセカンドライフを送るスタートタイミングだってことにしよう。

はい、想像してみて。
2,000万円? 2人で? 了解。65歳で2,000万円持ってます、と。
では今度は使う方はどう?
月いくらくらいお金使いそう? 20万円? OK。
30日で割ると1日当たり6,666円だな。なるほどね。

ということはこういうことだ。

1%の1ヵ月複利で運用しながら毎月月末に取り崩す計算。手数料・税金等は考慮していません。
2000万円を1%で運用しながら月20万円取り崩すと8.7年でゼロになることを示す計算結果

どうだろう。引き出し可能年数が8.7年ということは、2,000万円を銀行に置いておいて毎月20万円ずつ引き出していくと9年経たないうちに残高がゼロになるという計算結果ですよ。

9年後には2人は路頭に迷わなくてはならない。だって大事な虎の子の2,000万円がなくなっちゃうんだからね。

2,000万円って大金だよね。でもさ、いざセカンドライフで使っていこうと思ったら、全然弱いよね。ビックリするよね。

いったいいくらあったら安心と言えるんだろうか。この表を見てみて。

1%の1ヵ月複利で運用しながら毎月月末に取り崩す計算。手数料・税金等は考慮していません。
20年間にわたって毎月いくら取り崩せるかのシミュレーションの表

これは期間の方を20年間に固定して、つまり65歳からなら85歳までに毎月いくらずつなら使っていけるか、という表。

もし2,000万円を持っているなら、さっき月に20万円使うって言ったのを9万2,000円に抑えられれば、無事85歳まで20年間取り崩せるってことだね。

でももし3,000万円あったら、月13万8,000円ずつ使うことができる。20年間ずっと。

ちなみにさっきの表もこの表も、年利1%の預金に置いておいて毎月取り崩していく計算をしている。
今の銀行預金にはそんな利率は付かないけど、君たちが65歳になるずっと先の金利なんて分からないから適当に1%にしてみた。

もし今と変わらない超低金利時代だったとしたら、取り崩せる金額はこれより小さくなるってことだよね。

さあ、もし5,000万円あったとしたらどうだ。
月23万円だって。すごいね。

逆にさっき君が月20万円使いたいって言ったってことは、持っているべきお金は2,000万円じゃなく5,000万円だったってことだね。

さてさて、この表を見て2人はどう思っただろうか。
すごく単純な計算なんだけど、僕はこの表から考えることって、大げさでも何でもなく、人生設計をすることと等しいと思う

さっきのFinancial Independentって、なんだかカッコいいけどイマイチ意味が分からなかったよね。
でも、当たり前だけどお金って、使うために持ちたいんだよね
それを使って人生を安心して送り、さらにはより豊かにしてこそ意味がある。

いくらお金を持っていても、それを使えずに死んでしまったとしたら、通帳の上の記号を見て満足してただけってことだ。何か切ないよね。

その意味では、不必要にたくさんのお金なんて、僕はいらないと思う。自分にとっての必要なだけを持ち、しっかりと意味ある使い方をしたい

『DIE WITH ZERO』(ゼロで死ね)っていう本が数年前に流行ったんだけど、僕はまさにそれを目指すね。

悪いけど君たちには一切残さずに、お母さんと2人で使い切って死にたい。
そう考えると目標は3,000万円で十分。もし5,000万円に到達してたら最高、って感じだ。

3,000万円なら月13万8,000円、5,000万円なら月23万円を20年にわたって取り崩せるからね。

僕がそれで十分だと思う理由は、公的年金で最低限の暮らしができると思うから。
公的年金で生活をし、月13万8,000円、つまり1週間あたり3万5,000円はすべてプラスアルファの楽しみに使う。月23万円なら週6万円くらい使える。いいよね。

こう言うと「お父さんたちはそうでしょうけど、私たちは違うんだよ。年金なんてアテにできないんだから」って言うんだと思う。
どうして日本人にはここまで年金不信が根付いてしまったんだろう。

それは間違いです。次話します。

今福 啓之

日興アセットマネジメント


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