「2人の娘とその夫」に送る資産形成の黄金律

第二十三話 投資信託が「もし5%で運用できたら」――そんな無責任な!?

公開日

今福 啓之

日興アセットマネジメント

ポイント

  • 「過去の株式市場が年〇%でまわってきたから」という考え方はあまり意味がない

  • 「今から10年後なら50%は上昇しているだろうか?それは50÷10で年5%に相当するな」などとシンプルに考えてみる

では少し照れるが早速始めますか。投資信託(投信)の仕事で32年目の僕が、父親の最後のアドバイスとして結婚した娘とその夫2人にこんな話ができるのは、まぁありがたいことだよね。

そもそも投資に「利回り」という言葉は馴染まない

前にも話した通り、皮算用で使ったような毎年固定の3%とか5%とか7%の利回りなんてことは、投資の世界では絶対にない。常に変動するのが投資なんだから

それでも10年とか20年の「平均値」としてでもいいからと皮算用してみることは、思考を前に進めるためにとても有意義だという話をしてきたつもり。

自分にとって必要な利回り水準は固定利回りに当てはめると3%水準なのか5%水準なのか7%水準なのか――を考えることで、次のステップに進めるからね。

では実際はどうなんだろう。5%は可能なんだろうか。
ここでよくある話は、過去の指数の歴史を振り返って「過去は〇%だった」、「これからも経済は成長し続ける以上、同程度だと考えてもいいはず」っていうストーリーで、僕らも似たようなコンテンツは発信している。

でも、それがいい悪いの前に、もっと単純な「算数」で自分自身が納得することが、やっぱり大事だと思ってるんだよね。僕はこんな感じで本当に算数的に、単純に腹落ちしている。

  • ● 僕の選ぶ投資対象は、今から10年後に5割上昇しているかな?

  • ● それって50%上昇だよね。

  • ● 50%上がるのに10年かかるなら、「1年当たり」は10で割れば5%だな。

  • ● つまりそれが「年5%」って世界だよな。

もちろん、色んなことを単純化した考え方だし、君たちは元本を少しずつ投下していく積立をしていくんだから、一括投資が10年で5割上がるっていうこの例とは前提からして違う。

でも、どちらにしても決まってないことをいくら精緻に考えても仕方ないわけなので、こういう思考で十分だと僕は思ってるわけ。

大事なのは、10年という時間軸を与えること、そして10年後の「エンド」だけに集中していることだ

10年後のエンドに集中し、その時に「この投資対象はどれくらい上がっているだろうか」を考える。それに尽きるんだよ。

ついつい「今買って大丈夫か?」、「今下がってるけど大丈夫か?」ばかりになりがちなんだけど、違うんだよね。前に難しい年率換算の話もしたよね。あの時も実はこの話をしてたんだよね。

一応さっきの話を「20年バージョン」で考えるなら、「私の選ぶ投資対象は、今から20年後に2倍になってるかな?」ってことだよね。2倍って100%上昇ってことなので、100%÷20年=年5%だ。

つまり年5%を想定に皮算用をするとは、ザックリ言って投資対象が10年後なら5割上昇していること、20年後なら2倍に上昇していることを想定した投資計画ということだ。

どうだろう、ボヤけていたものが少し見えてきただろうか。
「過去は年〇%でまわってきたから」と有名な誰かが言ってるから――みたいな話では、とても自分を納得させられないなと僕は思う。

投資における利回りとは「曲線」を無理やり「直線」に直したもの

念のため言うけど、「過去〇年間の世界株式は年〇%でまわってきた」という情報は別に間違っていないからね。理解の仕方を間違うなよ、って言ってるだけ。

例えば過去の2時点の変化を1年当たりに直した数値であるコレを「年平均利回り」と表現をする場合があるけど、基本的な理解がないと誤解を招きかねないと思う。

だってまるで平均して安定的にその利回りが得られるみたいに聞こえるじゃない。もうおわかりのとおり、それはまったく違うよね。

この絵で、最も大きく凹んだところをスタートに、最も大きく上がったところをエンドの2時点として年率換算したら、すごく高い平均利回りになるし、逆だったらマイナスになるよね。

つまり、どこを「切り取る」かによって年率換算の利回りはまったく異なる数値になるわけだ。

具体的にはここ数年の米国株の2時点を取ったらかなり高い数値になるし、だからといって50年前と今とを比べて年率換算した数値が正しいのかというと、それも微妙だなと思う。
だって、50年も前からの巨大な変化ってピンと来ないじゃない。その年率換算した〇%を今後の参考にするのが正しいのかどうかって、ちょっと微妙じゃない。

ということで、過去の推移を元にした「過去の株式のリターンは年平均〇%でした」という数値には、あまりとらわれない方がいいと思っているわけ。

そもそも僕らは、これから何も決まっていない未来に向けて投資を考えているんだから、さっきみたいに「コレは10年後なら5割は上がっているだろうか」とか、君たちなら「さすがに20年後なら2倍になっててもバチは当たらないかな」を自分の頭で考える方が、相当にマシだと思うのよ。

  • ● 私の選ぶ投資対象は、今から20年後なら2倍くらいにはなっているかな?

  • ● それって100%上昇だよね。

  • ● 100%の上昇に20年かかるなら、「1年当たり」は100を20で割った5%だね。

  • ● つまりそれが「年5%」って世界なんだね。

「10年で5割、20年で2倍」は投資の利回り想定として無謀?

その上で気になるのは、「10年後に5割上がっている」とか「20年後に2倍になっている」って、いったいどういうことなんだろう?ってことだよね。

実はそれこそが投資資産を選ぶってことなんだよね。具体的には株式なのか債券なのか、はたまた……ってことね。

今度もう少し丁寧に話すけど、具体的には自分の投資の中での「株式比率」をどれくらいに設定するかという作業
結論から言うと、10年後に5割や20年後に2倍になるパワーを自分の資産運用に取り入れるためには、少なくとも株式比率を8割以上にする必要があると、僕は思っている。できれば株式100%にした方がより「固い作戦」になると思う。

さっきの絵だとこんな感じで、株式100%だと「ゴールの高さ」の期待は高くなる。
10年後に5割、20年後に2倍の世界、つまり単利換算の年平均5%の期待は、もちろんどんな株式かによってまったく異なるとはいえ、一般論としては期待してもバチは当たらないレベル感だと思う。

ただその代わり、途中の上下はとても大きい。
これがとても厄介でストレスになるわけだよね。そこに債券という資産を混ぜると、絵のようにストレスの軽減が期待される。

株式100%の場合は最後の到達点が高く、債券を多く混ぜた場合は低くなることを示した概念図

でも非常に悩ましいことに、債券を混ぜると、ほとんどの場合「ゴールの高さ」は低くなってしまう。つまり年5%相当のパワーが必要な君たちの皮算用は達成されなくなってしまう。

続けている間の「途中のリスク」は小さくなるんだけど、目標達成の確率が低くなるという意味で「最後のリスク」は高まってしまうわけ。

もちろん、株式100%の方が「途中のリスク」が高いということは、ゴールでの「着地位置」も確実ではないってことだよね。
例えばだけど、最後の最後に「何とかショック」が来てしまったら、株式100%の分、大きく下がるだろうね。

ところで、世の中の投資の話って皆、「リスクとはブレのことであり、上手に分散することでリターン獲得の効率が上がるのです」みたいな話ばかりなんだよね。
これは投資理論としては正解なんだけど、僕は普通の人にはまったくピンと来ないだろうし、実際的にも資産形成の役に立つ考えは、そういうことじゃないと思ってるの。

僕らに必要なのはリターン獲得の効率ではなく、「途中を無視して最後に笑う」ための理解だと思ってるわけ。そのためには「リスク」の理解を2つに分けるべきだと思っているんだよね。

一般的なリスク、つまり日々のブレは、長い旅路で避けられない「途中のリスク」として受け入れ、できるだけ無視する
無視できないほど大きいと思う人は、必要なだけの分散投資をもって対処する。ただ単にコンサバに分散しまくるデメリット(リターンの低下)には注意しながらね。

そして僕らにとって本当に避けたい真のリスクは、目標達成がなされないまま退職するとか、何らかのゴールを迎えてしまうことにあると考える。

それはつまり「最後のリスク」なのだから、投資対象を選ぶにあたっては、自分に必要なリターンの水準を念頭に、具体的には「株式比率」を真剣に考え、そして「長期投資」をもって対処する。
「エンド」にどれくらい上がっているだろうか、を考えることでもあるね。

この「途中」と「最後」のリスクについては結構前に似た話をしたけど覚えてるかな。

次回はもう少し突っ込んで、年3%や5%を想定するためにはどんな考え方でファンドを選んでいったらいいのかの話をしたいと思う。

今福 啓之

日興アセットマネジメント


当ページは、一部個人の見解を含み、会社としての統一的見解ではないものもあります。


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