「2人の娘とその夫」に送る資産形成の黄金律

第二十四話 皆が「株式インデックスファンド」でなくていい

公開日

今福 啓之

日興アセットマネジメント

ポイント

  • 自身のリスク許容度から始まるリスクの取り方でなく、目標金額を達成するための必要な利回り(リスク)を自分で納得する思考の方を勧めたい

  • 必要利回りが3%程度の人までが皆株式ファンドである必要はなく、守り重視のバランスファンドを検討してもよい

では少し照れるが早速始めますか。投資信託(投信)の仕事で32年目の僕が、父親の最後のアドバイスとして結婚した娘とその夫2人にこんな話ができるのは、まぁありがたいことだよね。

「ロボアド」っていいの?

年5%の利回りが自分の計画に必要な「パワー」なのだとしたら、それは具体的には10年後に5割、20年後なら2倍になっているだろう投資資産を選ぶことに等しいんだ、って話をしたよね。

「過去の実績では年5%は大丈夫――らしい」という類の情報ではなく、「結果としての年5%」とは、今から10年後なら5割増、20年後なら2倍になっていることに等しいんだという単純な理解の方が、自身の「腹落ち」度合いが格段に高いよね、って話だった。

「年5%」じゃピンと来なかったことが少しは見えてくるよね、と。そして、その水準はおそらく株式100%に近い中身じゃないと達成困難だろうという話もした。

値動きが大きいからと債券などに分散すればするほど、日々の値動きの「途中のリスク」は小さくなるけれど、最終的に目的としたリターンを得られるかどうかという「最後のリスク」は高くなる可能性があるという話もしたね。

悩ましいよね。投資につきものの「ハラハラドキドキ」を抑えるには世の中で言われる通り分散投資がセオリーだけど、かといって分散しすぎると高い目的の達成が難しくなるっていうんだから悩ましい

ところで「ロボアド」って知ってるだろうか。
株式などの過去の値動きデータと投資理論と、たぶんAI(人工知能)などを使って、その人に合った投資の組み合わせを提案してくれるサービスのことだ。

銀行のウェブサイトにファンド選びのサービスとして無料公開されているものから、それをオマカセ型商品として投資信託と同じように販売しているものまで色々ある。
総称してロボットアドバイザー、ロボアドっていうのよ。

多くの場合、最初にその人の「リスク許容度」をはかる質問に答える必要があるんだけど、普通の人は普通に聞かれれば、やっぱり「そりゃお金は増やしたいけど、リスクは嫌いです」っていう回答になるんだよね。

すると、債券などにしっかり分散した円グラフが「あなたが買うべきファンドはコレです」と提示されるわけ。

それはもちろん、過去データと投資理論とに裏付けされた提示なんだから何も間違ってないし、ひと昔前なら一般人には利用できなかった高度なサービスが安い手数料でネット完結で受けられるんだから素晴らしい進化だよな、と僕なんかは思う。

それでも君たちに勧めたいのは、単純な算数でシンプル化してでも自分自身の頭で考え、必要なリスクは避けずに受け入れ、その目的達成のためには何を買うかまでを自己完結するスタンスの方なんだよね。

ロボアドのことを手数料が高いからと批判する人はいるけど、そんな表面的なことではなくて、途中での元本割れが必至で最後の結果だって何の保証もない世界であるからこそ、意思決定は他人任せやブラックボックスではダメで、何をどれくらい持つかは自分自身で考えて「納得ずく」になってほしいと思うわけ。

だからやっぱり僕としては、リスク許容度を推し量るアンケートではなく、たったひとつの「あなたは20年後にいくら持っておきたいですか?」という質問を問いたいんだよね。

そして、その目標金額から導かれる「必要利回り」の水準、3%なのか5%なのか8%なのか――を知るところをスタートラインにしてほしいんだよね。

必要利回りが年3%でいいならバランスファンドがよさそうだ

さて、君たちの場合はもうそれが5%以上だってことが分かってしまっているのでいいとして、もし必要な水準が3%で十分OKな人がいたとしたら、その人は無理に株式100%のファンドを買う必要はないと思う。

いくら世の中の人気がS&P500や全世界株式インデックスファンドだとしても、その人の計画にとって、それらは無駄にリスクが大きい

年5%以上が必要な君たちには勧めないが、3%でOKなんだったら債券を適切に混ぜたバランスファンドを勧めたいかな。

それはロボアド的なアンケート結果から見えたリスク許容度に商品の方を合わせにいくような消極的な商品の選び方ではなくて、「あなたの目標達成に対してはこのリターンで十分だから、無用なリスクは取りなさんな!」っていう「積極的な割り切り」からのお勧めだ。

インターネットにはバランスファンドに否定的な意見が一定数あって、「株式100%のインデックスファンド以外はゴミで、ぼったくり商品ばかりだから見るな」という何だか強烈なやつから、「株式100%のインデックスファンドと現金の比率で調整するのが最も合理的」とか「自分で複数のファンドを組み合わせてアセットアロケーションをすればよい」という少しマニアックな意見まで様々。

でも自分で調節したり作ったりなんて「言うは易し」で、普通の人には絶対に意味不明な世界だと思う。それに、いくら全体資産を俯瞰的に見て、現預金と株式100%のファンドを一体化してスマートにロジカルに管理しているつもりでいても、いざそのファンドが2割、3割、4割と下がると、そんな理性が吹き飛んでしまうのが普通の人間なんだよね。

「私は全資産の6割は預貯金で持っている。だから持ってる株式インデックスファンドは3割下がったが、全資産で考えれば預貯金分を除いた4割を下落率3割に掛けた12%の下落に過ぎないんだ!」だなんて思えないってことよ。

「僕はAファンドとBファンドとCファンドを組み合わせて最適なアセットアロケーションを実現しているぜ!」という人でも同じだと思う。

基準価額って当然、持ってるファンド毎に別々に見えるよね。ある日のAファンドのリターンが+10%、Bファンドは−5%とか別々に。そうすると単純に、その時好調なファンドは嬉しいし、ダメなファンドのことは苦々しく思ってしまうのが普通だと思う。
「分散しているんだからこれでOK、トータルで見れば効率よく運用されている」って風にはなかなかならないんだよね。

バランスファンドの良さは「基準価額がひとつ」なこと

賢い感じの意見はクールだし、腑に落ちはするんだけど、実際に自分のお金になった途端、僕らは賢くはいられないんだと思う

一括投資はもちろんのこと、積立であっても投資元本がそれなりの規模になってくると、株式100%の投資の場合はちょっとした株式市場の悪化で青くなるくらいのマイナスの「金額」を見ることになる。

それまでのイケイケが一転、急に様子がおかしくなり、平気で短期で1割2割下がり、そこからもダラダラとさらに下がったりして、何年もかけて実現していた「含み益」が数週間で消えてしまう恐怖。僕は何回も経験してきたわ。

その時にもし、「私にとっての必要利回りは3%なんだから」とリターン期待も日々の値動きのリスクも両方ともが小さいバランスファンドを選んでいた人なら、目にする基準価額の下落率は僕に比べて小さいので相当に気がラクだったはず。夜も気にせず眠れたはずだ。

バランスファンドの中に組み入れてある株式部分は当然1割2割と下がっているんだけど、債券も混ぜてあるから全体としてはその分だけ軽微になる。目にする基準価額はひとつだから、混ぜ混ぜになった結果の基準価額の動きだけしか見ないで済むってことだ。

これは株式が上昇する時も同じで、バランスファンドは他にも混ざっているものがある分、株式の上昇の恩恵が小さくなる。
前に話した通りだね。リターン期待も小さくなるから最後のゴール地点の期待は低くなる。でも「最後の最後に大失敗!」みたいなリスクも小さくなる

どうかな。バランスファンドの役割が分かっただろうか。
今の君たちには必要ないかもしれないけど、もう少し上の世代の人たちや、毎月の株式100%の積立とは別に少し「まとまったお金」を分けて運用したい人なんかにはアリな選択肢だと思う。

ただバランスファンドって、株式と債券などの組み合わせ方の比率によって、すごくたくさんあるんだよね。名前だけでは中身がよく分からないのも多くてさ。でもネット取引を前提にするなら「ネット専用・ノーロード」、つまり申込時の手数料がゼロの条件で絞り込むことで、急に数は減って選びやすくなると思う。

その上で「年3%レベル」の、高望みをせず夜眠れることを優先するバランスファンドの選び方としては、「債券比率が5割以上あるもの」が大まかな目安になると思う。逆に言うと、株式とリートの合計が半分以上を占めるようなバランスファンドは、株式100%のファンドを選ぶことと大差ない感じになる。

具体的には「〇資産均等型」って呼ばれるタイプかな。株とREITと債券の3つの比率を単純に等しくするものなので、株とREITを合わせると全体の3分の2を占めてしまう。

株式市場がいい時はリターンがあがっていいバランスファンドに見えるかもしれないけど、下がる時は結構きびしい下げを経験することになると思う。

だからバランスファンドを選ぶ時は、安易に飛びつかずにマンスリーレポートとか月次報告書とかっていうPDFを探して開いてみて、全体の中に株式が占める割合を調べてみてほしい

日本株とか米国株とかに分けて書いてあるはず。あとREITも株式にカウントしていいので、それらを全部合計して6割を超えていたら、それは「攻めたバランスファンド」と思っていい。
それを買うくらいなら、普通に株式100%のファンドを金額調整して買った方がいいんじゃないかと思う。

とにかくここ数年、S&P500と全世界株式のインデックスファンドが人気すぎて、まるでその2つしか選択肢がないかのような風潮があるけどそれは違う。特に必要利回りが年3%でいい人までが無用なリスクを取って、あとで後悔することがあってはならないと思うんだよね。

バランスファンドの選び方に終始しちゃった。君たちに直接関係ない話でゴメンね。

今福 啓之

日興アセットマネジメント


当ページは、一部個人の見解を含み、会社としての統一的見解ではないものもあります。


資産運用に役立つ情報をお届けします。