「2人の娘とその夫」に送る資産形成の黄金律

第二十九話 じゃあどうする?投資信託選びの具体策(前編)

公開日

今福 啓之

日興アセットマネジメント

ポイント

  • S&P500など時価総額加重方式のインデックスにおける「歪み」が気になるレベルになっている

  • 国・地域や時価総額によらないコンセプトベースの観点からの「補正」を検討したい

では少し照れるが早速始めますか。投資信託(投信)の仕事で32年目の僕が、父親の最後のアドバイスとして結婚した娘とその夫2人にこんな話ができるのは、まぁありがたいことだよね。

インデックスファンドの盲点

しばらく「インデックスvs.アクティブ」の話ばかりしてきたね。あまりグダグダ言ってると、「じゃあどうしたらいいのさ!」って言われそうだから、そろそろ具体的なアクションについて話をしていこうかな。

もちろん、「これ買いなさい」と言うつもりはなく、今まで通り、考えるためのロジックについて話していきたいと思う。

前にも話したけど、インデックスファンドは指数への連動を目指しているのであって、投資家から預かったお金を増やすことを目指してはいない
そしてその指数自体も、市場の今をキャプチャ(捉える)し続けることが使命の経済指標のようなものであって、決して指数の成長を目指して作られているわけではない――。これは2人にもう一度思い出してもらいたい、とても大事なポイントだな。

その大原則を理解した上で、それでもS&P500やオール・カントリーなどの海外株式インデックスのファンドは、ベースとして持っておくべきファンドだと言っておく。

ただ、あえて「ベースとして」と言ったのは、それだけでは十分でないと僕は思っているから。
どの本もYouTuberもきっと「低コストのインデックスファンドを積立で買ってほったらかしにしておきましょう」としか言っていないと思うけど、今日は思い切って僕の持論を話そうと思う。

まずインデックスには、宿命的な課題というか盲点があると思っていて、投資する君たちの時間軸が長ければ長いほど、本気であればあるほど、それは重要だと思っているんだよね。それは、これまで何度か触れてきた「時価総額加重方式」のこと。

S&P500もオール・カントリーも、メジャーな指数は時価総額加重方式で計算されている。
何度も話したけど、時価総額とは「株価×発行済株式数」のことだから、たくさん株式を発行してきた大きな企業が、投資家に評価されて高い株価になればなるほど時価総額は大きくなる

創立間もない企業は、創業者が持っていた株式を上場時に一般の人に放出したのにプラスアルファ程度の株式数しかないから、株価が多少高くなったとしても時価総額はそんなに大きくない。株価も低い企業であれば、もちろん時価総額は小さい。

この時価総額というものが大きければ大きいほど、指数に占める割合が高くなる計算方法が「時価総額加重方式」で、もうひとつの計算方法が「単純平均方式」。
日経平均株価なんかがそうで、細かな調整方法は置いておいて単純化すると、225社の株価を足して225で割るといった感じ。

どっちも一長一短あるんだけど、数年前からは特に、時価総額加重方式の問題が大きくなっていると思ってる。
それは、何度も出てきた「GAFAM集中」に加えて、機関投資家の「パッシブ集中」が重なって起こってきた数年だからだ。

「パッシブ」とはインデックスと言い換えてもいい言葉で、「機関投資家」とは年金基金とか銀行とか、ウチのような運用会社とか、とにかく仕事として株式市場にお金を投じている巨大な投資家のこと。
つまり、日本でインデックス投資が流行っているのとは比べ物にならないくらいの巨額のお金が、世界中のプロの投資家からインデックス投資に向かってきた、という意味だ。

「GAFAM集中」の方はもうわかるよね。
グーグルとかアマゾンとかマイクロソフトとかの米国の巨大IT銘柄の時価総額が突出して大きくなり、S&P500はもちろんオール・カントリー指数にも大きなインパクトを与えるようになっていることね。

2023年初からの短い期間のグラフではあるけど、このグラフはこの問題を端的に表しているんじゃないだろうか。

期間:2022/12/30~2023/12/29 グラフ起点を100として指数化
マグニフィセントセブンの時価総額がとても大きく上がっているのに対して、S&P500 からそれらを除いた時価総額が横這いであることを示すグラフ

S&P500は数多くの米企業から一定の要件を満たした「優良500社の平均株価」では確かにあるものの、GAFAMなど限られた銘柄に過度に引っ張られている様子が分かるよね。
上位7銘柄を除いた指数をあえて作ってみたら、こんな横這いのグラフになるんだから。

グラフにある「マグニフィセント・セブン」とは2023年にアメリカで言われるようになった、人気銘柄群の新しいニックネームなんだ。
それまでのGAFAM(グーグル(アルファベット)、アマゾン、フェイスブック(メタ)、アップル、マイクロソフト)に電気自動車のテスラとAI時代の半導体メーカーのエヌビディアを加えた7銘柄のこと。マグニフィセント、壮大なる7銘柄という意味らしい。

これが意味するのは、広く分散されていて安心感すら抱かせるインデックス投資の一般的なイメージとは裏腹に、まるで「AI&ITテーマ株投資」のようになっているインデックス投資の現状だ。

これはいい悪いの話ではなく、時価総額の大小で重みを付けて計算するというルールに則ると、その時々の「高株価の人気の大企業に重きを置いた投資」になるという、いわばインデックス投資の宿命だと思う。

それは昔からある課題ではあるけど、ここまで極端になった背景にはさっき言った機関投資家の「パッシブ集中」があると思う。
世界中で巨額なお金が皆この同じインデックス投資をすることによって、この状況が加速しているんだと思う。

2023年に出た海外の行動経済学の本の邦訳版ではこんな風に表現されていた。同じことを言っていると思う。

『時価総額加重平均の考え方をインデックスファンドに適用するのは欠陥がある。どの企業への投資額も株価と連動するため、割高な銘柄が過大評価され、割安な銘柄が過小評価されるからだ』

『個人投資家にとって賢明なアプローチであると考えられているインデックス投資は、その根底に行動上のガンを抱えている。
S&P500のような時価総額加重平均型インデックスを買うと、(ITバブルピークの)2000年にはそのうち50%近くをハイテク株で、(リーマン・ショック直前の)2008年には40%近くを金融株で保有することになる』


―The LAWS of WEALTH-富の法則 ダニエル・クロスビー
(徳間書店)※カッコは筆者

投資の成功のカギは、できるだけ株式を「安く買って高く売る」だよね。もちろんとっても難しいことだから、僕はそんなチャレンジを自分でしようとは思わないけど真理だろう。
でも、時価総額加重方式のインデックスの中で起こっていることは、逆の「高く買って安く売る」だと、この本は言っている。

時価総額の大きな銘柄がさらに人気になって株価が上がると、インデックスに占める比率はさらに高くなる。
機関投資家や我々個人投資家のインデックス投資へのマネーの流入は、それらの株をさらに上昇させることになる。もしかしたら既に割高な株価になっているのかもしれないけど、インデックスの中での力、比率は自動的に大きくなっていく

逆に、株価が下がって割安になった株は、本当は買って増やしておきたいところだが、インデックスの中では時価総額の低下に伴って比率は自動的に下がり力を失っていく。
——確かに「安く買って高く売る」とは逆のことが起こっていると言えるかもしれない。

長々と小難しいことを言ってきたが、つまり僕は、世界的な機関投資家のインデックス志向や、特に日本で顕著なインデックス投資ブームに対して、そこはかとない居心地の悪さを感じているんだと思う。
皆で一緒になって、一部の銘柄に傾斜した「歴史的に割高な」株式投資を行なっている側面があるのではないか?という心配。

もし僕の感覚が多少なりとも正しいとしたら、指数を信じて長期の積立投資を行なった君たちの「献身や忍耐」は十分に報われない、つまり過去に比べて低いリターンしか得られない可能性がある

君たちの皮算用計画では少なくとも年5%、できれば8%あったら最高、という計画をしていたはずなので、もしそのレベルのリターンが達成できないとすると、「人生のハンドルを握る」という目的が達成されないことになる。つまり「最後のリスク」が顕在化してしまう。
そうしたモヤっとした心配を僕は現在のインデックス投資に抱いていて、だから「ベースとして」という言い方をしているんだと思う。

オール・カントリーへの「万能感」も気になる

巷ではまだ「やっぱりS&P500が最強!」「いやいや〇〇さんが本でオール・カントリー1本が賢いと言っていた!」という議論が盛んみたいだけど、そのモヤっとした心配からすると、「良くも悪くもGAFAM頼みという意味ではどっちもほとんど一緒だよな」というのが僕の理解。

「いやいや、オール・カントリーは国の調整をしてくれるから、今後のインドの成長なんかも押さえられるでしょ」と言うかもしれないけど、それは違う。

インドに限らず、色んな国の色んな企業を押さえてはいるけど、ファンド側が良きに計らって「調整してくれる」わけでは、まったくない。これはまたさっきとは多少違う話なので説明するね。

少し前に、あるオール・カントリーのインデックスファンドの月次報告書を見せたことがあったよね。そうそうこれ。

上記はあくまで指数の概要を把握することを目的に、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスを連動対象としたあるインデックスファンドの、ある時点の情報を参考までに掲載したものです。特定の商品の内容を解説するものではありません。また、当社ファンドの現在および将来の組入を示唆するものでもありません。

上の上位10ヵ国にも下の10通貨でもわかる通り、インド株がオール・カントリー指数に占める比率は今1.6%しかない。
ということはつまり、もし今から1年間でインド株全体がドーンと2倍になったとしても、オール・カントリー指数に対しては1.6%分しか寄与できない
2倍になるということは100%のリターンということなので、まさにその1.6%分。基準価額が10,000円ならわずか160円の上昇でしかない。

インド株が2倍になった1年後には、オール・カントリーにおけるインド比率は、他の国の企業の株価動向にもよるけど、今の1.6%ではなく2%とかになっているかもしれないね。

それでもまだわずか2%なんだよね。しかし既にこの1年でインド株自体は2倍になってしまった。「おいしいところ」は終わってしまったかもしれない。

いやいや、まだまだこれから。次の1年もそこからさらに2倍になるかもしれないね。
はい、確かに。だとしても、その100%上昇の恩恵は、指数に占めるインド比率である2%分の200円しか獲れないんだよね。

もし君たちがインドの今からの成長を資産運用に取り込みたいと思うのなら、オール・カントリーの中の1.6%の比率としてではなく、別途インド株のファンドをそれなりの金額で買わないと、その望みは叶わない。

別にインドのファンドを買うべきだと言ってるわけじゃないからね。ただ、そうした算数的なシンプルな仕組みの理解を持った上で、いい悪いを考えてほしいってことなの。ネットの情報の中には、果たしてどこまでこうしたことを理解して発信しているのか、怪しいのも多いしさ。

長くなったので、また次回。


個別銘柄については、売買を推奨するものでも、将来の価格の上昇または下落を示唆するものでもありません。また、当社ファンドにおける保有・非保有および将来の銘柄の組入れまたは売却を示唆・保証するものでもありません。

今福 啓之

日興アセットマネジメント


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