「何が分からないか、分からない!」方のためのFAQ

まとまったお金も積立で買うのがいいですか?

公開日

今福 啓之

日興アセットマネジメント

結論

  • 「まとまったお金」の場合は、そのお金が担う役割に立ち返って考える

  • 必ずしも「株式100%」だけが正解ではない

  • 「積立か一括投資か」の答えは、商品のリスク水準によって変わる

シミュレーションを交えたコンテンツ「まとまったお金の対処法」でも触れているように、ある程度の期間働いてきた方々の中には、預貯金にある「まとまったお金」をどう投資していくかという悩みをお持ちの方も多いでしょう。

実際、当社がリサーチ目的で毎月開催しているウェブセミナーで毎回のように出る質問のひとつは、「実はまとまったお金があるのですが、これも毎月の積立でS&P500か全世界株式のインデックスファンドを買えばいいですか?」です。

「積立vs.一括」の議論は無意味

書籍やネット上では、「定金額」と「定口数」の積立効果の比較や、いわゆる「ドルコスト効果」を魔法の仕組みのように持ち上げたものを見ることがありますが、それらの言葉を覚えたり、意味を理解しようと苦しんだりする必要はありません。

まず積立投資について、「投資手法としての優劣」を議論するのは意味がないということを強調しておきたいと思います。

毎月の積立とは、まとまったお金がない場合などにコツコツと積み上げていくために選ばれる投資手法の一つであって、それが投資手法として優れているかどうかは二の次です。

なぜなら、もし今日からずっと上がっていくなら、1日も早く全額を投じた方がいいに決まっていますし、下がっていくなら一度に買わない方が傷が浅くなって助かるに決まっています。しかし、そんなことは事前に分かりません。

また、いくら積立が優れている「らしい」からといって、手元の100万円を1万円ずつの100回、つまり8年以上にわたって積立することにしたら、1年経ってもたった12万円、5年経っても60万円しか運用に回っていないのです。

それ以外のお金は8年間にわたって相変わらず普通預金に置かれているわけです。もちろん、結果的な「成否」は分かりませんが、直感的には合理的な話には思えません。

確かに、投資信託の積立が一定の条件下で投資効率の良さを発揮する場合はあり、それを専門的に「ドルコスト効果」と呼んだりします。しかしそれはあくまで、“仕方なく”選択した積立に付いてくるオマケのようなものと考えておくのが正解でしょう。

一度、冷静になって投資のやり方を考える

もちろん、実際に手元にまとまったお金がある場合に、「さて、どういうやり方で投資すべきか」を悩んでしまう気持ちはとてもよく理解できます。

NISAでいうなら、年間240万円までの「成長投資枠」をどう使うべきか、といったところでしょう。もし500万円あるなら、今年と来年の枠(240万円×2年)を使えるわけですから、その枠で何を買っていくのが正解かと悩んでしまいます。

考え方の糸口は、「その500万円のような『お金のかたまり』が、どういう性質かに立ち返って考えること」にあると思います。

働きながらコツコツと貯めてきたそのお金が、自分や家族の5~10年後までに換金されることが予想されるようなお金なのか、それとも20年以上よりその先の豊かな生活の実現のために充てていい「軍資金」なのか――。

もしあなたが、最近の「NISAで投資を!」の世間の盛り上がりによって焦っている自覚があるなら、一度冷静になって「そのお金の性質」を考えてみることをお勧めします。それは、「一括投資と積立投資のどちらが得か」、「S&P500か全世界株式のインデックスファンドでいいのか」よりも何倍も大事なことです。

冷静に考えてみた結果、その「お金のかたまり」の性質が前者、つまり5~10年後までに換金されることが予想されるようなお金なのだとしたら、積立で買うか一括で買うかに関わらず、株式100%のファンドではそもそものファンド選びが間違っている可能性があります。リスク水準が高すぎるということです。

それはインデックスファンドであっても、アクティブファンドであっても同じこと。中身が株式100%の投資信託は、5年後に換金する可能性があるような、かつ100万円以上のような、しかも働きながらコツコツと貯めてきた大事なお金にとっては、リスク水準が高すぎる可能性があります。

今、メディアやYouTubeなどSNSの一部には、インデックス投資、とりわけNISAのつみたて投資枠適格のインデックスファンドは「安心・安全な投資」であるという印象を与えるものがありますが、実際はそんなことはありません。

安心・安全どころか、買った後に一時的に半値になってしまう可能性があるのが株式100%の投資信託です。そのあるかもしれない痛みを覚悟して受け入れて、20年後、うまくいって15年後などには2倍とか4倍などに増えていることを夢見て行なう「前向きなチャレンジ」だと言っても、言い過ぎではありません。

コツコツと貯めてきた「あのお金」のすべてを、そうした結構スリリングな「前向きなチャレンジ」に投じられるかどうかこそが、まず考えるべきことであり、S&P500と全世界株式のどちらがいいかとか、積立がいいか一括がいいかなどは、あくまでその大事な意思決定の次の段階の話です。

投資信託のリスク水準によっては、一括投資も選択肢

もし「あのお金のかたまり」が、5年後から10年後までのどこかで何かの大事な目的のために使われる可能性のあるお金だとしたら、その換金時に大きく元本割れしていることは耐えがたいことでしょう。

買いたい家が買えない、子供に理想の教育を用意してやれない、それ以前に日々を安心して生活できないなどとなることは、絶対に避けなければならないことです。

「長期の平均リターンは〇%」という話も、もちろん間違ってはいませんが、こういうリアルな理解を持った後ではあまり意味がないことに気付くのではないでしょうか。

20年後ラボ」の名前の前にも付けたように「前を向いて」、将来のために投資することは素晴らしいチャレンジではありますが、日々の生活がストレスにさらされるようでは本末転倒です。

そうした性格の「お金のかたまり」である場合は、他の記事(NISA全体をどう設計するか(3))でも説明しているバランスファンドが選択肢になります。株式100%ではなく、債券など他の投資資産とミックスされた投資信託を選ぶということです。

「積立か一括か」という買い方のテクニックで調整するのではなく、買う投資信託のリスク水準の方で調整するという考え方です。

バランスファンドは、株式100%の投資信託のようには値上がりしません。同時に、いざ換金しようとした時に大きな元本割れ状態で目も当てられないといった“悲劇”に遭う可能性は、株式100%の投資信託に比べて低くなります。

そして、値動きが株式ファンドよりも小さいため、「今月買うか、来月買うか」の運不運を気にする必要が小さくなります。つまり「思い立ったが吉日」とばかり、一括投資で買うことの妥当性が高くなります。

15~20年後のための「軍資金」づくりなら、株式100%の投資信託でも

もし“あの”「お金のかたまり」も毎月の積立投資と同様に、15年とか20年後の人生の選択肢を増やすために使っていいと思えるのであれば、逆にバランスファンドを考える必要などありません。

その場合は、積立投資のセッティングと同じように、潔く株式100%の投資信託を選べばいい場合が多いでしょう。

ただしその場合には、多少の「金額調整」と、最初に戻って「買い方の調整」の2つの観点を、念のため考えてみることをお勧めします。

「金額調整」とは、「そうはいっても最後のひと悩みはありませんか?」という話です。

5年後に使う予定は思いつかないけれど、コツコツ貯めてきたお金だからこそやっぱり大事にしたい、金額が大きすぎて何だか怖いといった、理屈ではない気持ちの話です。

その場合は、例えば500万円なら半分の250万円、NISAの成長投資枠を使うなら年間上限の240万円など、単純な数字で割り切って、リスク水準の低いバランスファンドを一括投資で買い、残りの250万円、もしくは260万円で株式100%の投資信託を買うのです。

その株式100%の投資信託の分についても、一括投資で買っていいのではないでしょうか。まず「お金のかたまり」の性質としては、かなり先のためのお金だと整理できています。かつ、理屈ではない気持ちの問題としては、半分の250万円ないし240万円はすでに分けて、リスク水準の低いバランスファンドを手当て済みだからです。

それでも保守的に、数回に分割して買う「分けて買い」ということでもいいかもしれません。例えば3ヵ月毎の月の1日に、感情を挟まず機械的に4回に分けて1年かけて買う、といった具合です。

先の例の260万円なら、65万円ずつ4回に分けることになります。株式100%のファンドの場合、3ヵ月も間を空ければそれなりに買った値段が異なることで、いわゆる「時間分散」にはなっていますし、普通預金から1年間で投入できたなら、効率的にも悪くないでしょう。

さて、その場合に、まとまったお金の一部で買う株式ファンドは積立で買っているものと同じがいいのでしょうか。それとも、あえて違うものにすべきでしょうか。

そうした「ファンド選び」の具体論については、「20年後Lab.セレクトファンド」のパートや「「インデックスvs.アクティブのホントの話」でも触れているので、参考にしてみてください。

今福 啓之

日興アセットマネジメント


当ページは、一部個人の見解を含み、会社としての統一的見解ではないものもあります。


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