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投資信託の「利回り」はどれくらいですか?

公開日

今福 啓之

日興アセットマネジメント

結論

  • 投資信託に「利回り」という考え方は実はなじまない

  • 利回りの概念の裏には投資の「原理原則」が潜んでいる

  • 自分の「必要利回り」が把握できると、納得したファンド選びができるように

投資信託の積立。まず何すれば?」で積立結果の表を示しました。当ページ以外でも見かける表ですが、どうしても理解してもらわねばならない重要な注意点があります。

投資信託に「固定利回り」はありえない

重要な注意点とは、表やグラフの前提とは異なり、投資信託は絶対に固定利回りではないという点です。

その前に「利回り」という言葉になじみのない方がいるかもしれません。利回りとは一般に、1年あたりの利息の割合を意味します。元本に対して1年間で何パーセント増えるか、あるいは増えたかという意味であり、「年利」ともいいます。

投資信託の積立。まず何すれば?」で使った表はこちらです。

1年複利計算。数値は何らかの商品の運用成果を保証するものではありません。また手数料・税金等は考慮していません。
月1万円から10万円の20年積立を0%と4%と8%の年利回りで運用したシミュレーションの表

月1万円の積立では、年4%ずつ増えていくという素晴らしい運用をもってしても20年後に368万円にしかなれないが、月5万円の「本気の積立」なら1,840万円だし、月10万円という「超」本気の積立なら3,680万円だ――という表でした。

しかし、この表の4%や8%という「年利回り」は銀行預金を代表とする「固定利回り」の金融商品の話であり、投資信託では絶対にこのような毎年固定の利回りにはなりません。

「そんなことは分かっている」と思われるかもしれませんが、ここには大事なポイントが2つ潜んでいます。

ひとつは、「そもそも人によって変わるもの」だという点。

ほとんどの投資信託はいつでも買え、運用が続いている限りいつまででも保有し、いつでも売ることができます。

そして既にご理解の通り、株式市場などの変動を反映し、投資信託の値段である「基準価額」も日々動いていきます。

そのため、AさんとBさんで買った時と将来売る時の基準価額が違えば、当然2人の運用成果は変わってくるはずです。

つまり誰かが言う、ある時点で買ってある時点で売ったことによる「利回り」は、その人の過去の実績ではあっても、他の人たちのものとは同じになりません。

私たちはこれから投資をスタートするのであって、既に投資を終えた人の「過去実績」はそもそも参考にならないのです。

後から無理に「年利」に直したものでしかない

もうひとつは、利回りは「売ってはじめて事後的に決まる」という、これまた「そもそも」でありながら重要なポイントです。

時々「このファンドの利回りは何パーセントくらいですか?」といった声をネットで見かけますが、毎日動く投資信託に「利回り」という言葉自体が、そもそもフィットしません。

冒頭に説明したように「利回り」とは、1年間で何パーセント増えるか、あるいは増えたかという意味ですが、投資信託は1年単位で区切られて運用しているわけではなく、ただ毎日「基準価額」という値段が日々ずっと動いているだけです。

したがって、投資信託や株式市場全体の過去について「利回り」という言葉が使われている場合、それはある時点で買い、ある時点で売ったと恣意的に決めた上で、その差=リターンを、「あえて」年利回りに直した数値なのです。

順を追って見ていきましょう。

上記はイメージです。
先進国株式の10年間のリターンを1980年代で調べたグラフ。どの年スタートの10年投資も5%台から12%の年率リターンの上昇を見せたことがわかる

100で買ったものが日々上下に動いてきた結果、10年後に150で売れた場合、この投資は「年利5%の10年投資だった」と表現することができます。

まず100が150になったのですから「リターン」は50%です。100万円でこの投資信託を買っていた人は150万円で売れたのですから、100万円の投資元本に対して50%の利益というわけです。

それを「あえて」1年あたりに直したのが「年利」です。

厳密には違う計算方法をとりますが、簡易的には保有期間の10年で割れば、1年あたりの利回りになりますから、50%÷10=5%です。

こういうことです。

上記はイメージです。
100が上下の値動きを経て10年後に150になったことを示す曲線に、始点と終点を結ぶ直線が加えられたイメージ図

「実際は曲線だったものを、事後的に無理に直線に直してみたら…」というのが、投資の世界における年利の意味なのです。

この10年の値動きを直線に引き直した結果は確かに年5%ですが、それはこの100が150になった期間を切り取って1年当たりに直した計算結果にすぎません。

つまり、同じ投資であっても、どこを切り取るかで数値はまったく違うものになります。

例えば最近3年間の利回りを計算すれば、同じグラフでも「利回り」はマイナスになってしまいます。

上記はイメージです。
100が上下の値動きを経て10年後に150になったことを示す曲線のうち、直近3年程度の部分だけをハイライトしたイメージ図

3年前は150よりも少しだけ上にいますから、そこで買った人は150の今、損をしています。つまり、3年間の「利回り」は年利数パーセントのマイナスというわけです。

このように、簡単に使われがちな「利回り」という言葉には大事なポイントが含まれています。それは投資信託を始める皆さんには是非理解してもらいたい、投資の「原理原則」の理解だともいえます。

事前に決まっている預貯金 vs. 後から決まる投資

先ほどの絵を改めて見ると、「事前に決まっているのが預貯金で、後から決まるのが投資だ」と表現することができます。

上記はイメージです。
100が10年後に150に直線的に増える預貯金と、上下の曲線の値動きを経て150になった投資を対比した2つのイメージ図

この2つは両方とも年利5%の10年の資産運用「でした」。10年後である今から見て、預貯金も投資も100万円を150万円に増やしてくれたのですから、両方とも同じ経済効果です。

しかし「途中のストレス度合い」はまったく違うはずです。

預貯金は利回りが事前に決まった直線だからノーストレス。一方、投資は絶対に直線ではありえず、曲線なので上に下へのストレスだらけ。

実はこのストレスの代償こそが、リスクを受け入れることで期待されるリターンなのです。

ご存知の通り、ノーストレスの預貯金には今、5%の利回りなど付きません。この絵に描くなら、ほぼ底辺を這う直線になるような超低金利です。

ノーストレスだがお金はまったく増えてくれない以上、増やさねばならないお金に関しては、私たちは「直線をあきらめて、曲線を受け入れる」しかありません。

直線をあきらめて、曲線を受け入れる。――これは、目的意識を持ってより多くの積立金額で考えようという「本気の積立」と同様、当社が昔から大事にしているコンセプトです。

その覚悟と納得がどれほど強いかどうかが、その人の投資の成否を決定づけると考えているからです。

「納得ずく」のリスクテイク

最初に見た表に戻ります。

この「0%」が直線の預貯金であり、「4%」と「8%」は曲線を「無理に」直線に引き直した年利というわけです。

1年複利計算。数値は何らかの商品の運用成果を保証するものではありません。また手数料・税金等は考慮していません。
月1万円から10万円の20年積立を0%と4%と8%の年利回りで運用したシミュレーションの表

直線をあきらめて曲線を受け入れようとしている私たちは、どの程度のストレスの曲線を選ぶべきなのか――。

それはその人が、将来の「人生の選択肢」を増やすためにいくら作っていきたいかによって、その人それぞれに決まるはず。

決してネット上の誰かが言っている「お勧めファンド」だからとか、過去の世界の株式市場の「利回り」が8%らしい、とかから意思決定されるべきものではありません。

月5万円の「本気の積立」で、20年後に1,840万円を作ってみたいと本気で思った人は、4%の裏にあるリスクを自分のために「納得ずく」で取ることができます。

もし月5万円が「本気の積立」の限界だという人が、それでも20年後に3,000万円を作っておくことを本気で願うなら、その人は4%ではなく8%の年利を求めなければなりません。

表の5万円と8%の交わるところに2,965万円とありますから。

このように、人のお勧めからではなく、自らの「納得ずく」で自分にとっての「必要利回り」を知ることこそが、この表が持つ非常に大事なメッセージです。

リスクを取る、つまり曲線を受け入れることを「リスクテイク」といいますが、「納得ずくのリスクテイク」ができた人は強いです。

始めた後に必ず訪れる厳しい期間に踏ん張ることができ、結果的に投資を成功させられるのは、自分なりのロジックで納得している人だからです。

4%を自分の必要利回りとして定め、裏にあるリスクテイクをしようとする人はどういう投資信託を選ぶべきか。8%ならどうか――。

それら大事な次のステップについては、関連記事なども参考に一歩ずつ、それこそ「納得ずく」で先に進んでいただきたいと思います。「20年後ラボ」とご一緒に。

今福 啓之

日興アセットマネジメント



当ページは、一部個人の見解を含み、会社としての統一的見解ではないものもあります。


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