投資信託の積立。まず何すれば?
今福 啓之
日興アセットマネジメント
結論
-
資産形成の王道は毎月の「天引き」
-
「運用」は大事だが、実は「元本」がとても大事
-
自分にとっての「本気の積立」を考えよう
投資信託について調べると、どこでも「長期・分散・積立」が王道とされています。でも心底納得できるような説明は多くない気がします。
ということで、まずは「積立」について掘り下げていくことからチャレンジしてみたいと思います。でも、できるだけ分かりやすく。
投資信託の積立は確かに王道
まず投資信託の積立とは、「毎月〇日に〇〇ファンドを〇〇円分買う」のように、毎月自動的に普通預金などのお金を証券口座に移動して、あらかじめ指定した投資信託を定額で買付けていく方法です。
最近はクレジットカードから積み立てるサービスがありますが、まだ上限が月5万円のところが多かったので、5万円以上でやりたく、かつお金の流れを複数にしたくない私は、普通預金からの1本にしていました。
クレカならポイントがつくのにもったいない?――確かに、毎月数十円から数百円分のポイントをためて、何かの買い物に使うのも素敵ですが、私にとっては何か面倒です。
ポイントは証券会社などのサービス競争によるオマケですから、いつ終わるかも分かりませんし、人生設計の一大計画とそうした「ポイ活」の組み合わせも、気持ちとしてしっくりきません。
というよりも、私はそのために新たにカードをつくったり銀行口座を紐づけたりといったことを面倒に感じてしまうズボラな性格というのが正直なところ。あとは、給料が振り込まれた普通預金から、毎月引き落とされる記録がシンプルに残っていく方が大事だとも考えました。
ところで、毎月給料が入ったらまず強制的に引き落としていく方法のことを昔は「天引き」といい、貯蓄法の王道とされてきました。意志の弱い私たちは昔から、「余ったら貯金しよう」とか「ある程度まとまってから」ではダメなのでしょう。
給料などが入ったら強制的に別の場所に動かして、元々無いものとして生活するのが王道だというわけです。
最初だけは「証券口座」というものの開設と、普通預金などからの毎月のお金の移動のための手続きが必要ですが、一度セットしてしまえばあとは「自動運転」です。
買う投資信託の指定は1つでなくてもよく、複数を組み合わせるかたちでも構いません。2024年からのNISAの「つみたて投資枠」の口座の上限は月10万円になりましたから、そういう人が増えるかもしれません。
「運用」は大事だが、実は「元本」がとても大事
ところで、投資信託にはまとまったお金が必要と思っている方も多いようですが、そんなことはありません。
月1万円、月100円からOKというところもあります。つまりスタートのハードルは、今や重い腰をあげられるかどうかという、私たちの気持ちの方にあるといえます。
一方で当社は当「20年後ラボ」を始めるよりずっと前から、月100円や1,000円、思い切っていうと月1万円でさえ、「その金額だったら(投資信託でなく)銀行の積立定期でいいのでは?」という発信をあちこちでしてきました。
せっかく投資信託を考えてくださっているのに、何とも偉そうな物言いです。世の中の「100円から手軽にスタート!」といった宣伝に異を唱えているわけです。
ただ、せっかく重い腰をあげて手続きをし、一度は元本割れを経験するかもしれない投資信託で積立をしていただけるのなら、自分なりの「覚悟」のもと「本気の(金額の)積立」をしないとダメではないか――と、マジメに思っているのです。
「一度は元本割れを経験するかもしれない」だなんて、縁起でもないことを言って脅かしたいわけではないのですが、残念ながら事実です。
なぜなら投資信託の価格が毎日動くものである以上、買ったその日が歴史的大底だったという「奇跡の人」以外は皆、翌日か1年後かは別として一度は買った日の値段を下回ると覚悟しておく方が無難だからです。
もちろんそこで売らずに持ち続けることで最終的な利益を期待するのが投資ですから、そのいわゆる「含み損」の時とは、歯を食いしばって頑張るべき試練の時です。
でも月1万円や1,000円での積立なら、そんな面倒なことを考えずに済む銀行の積立定期でもいい気がします。
まずそもそも、月1,000円の積立は10年続けても元本12万円。1万円でも120万円です。ここにいくらスゴイ投資信託の運用が乗っかったとしても、10年後に人生を助けてくれるような金額になっていることは難しそうです。
でも、もし月5万円できるなら年60万円だから10年で600万円です。仮に月10万円できるなら10年で1,200万円。ここに投資信託の運用が乗ってくれるなら、結構インパクトのある話になってきます。
つまり肝心なのは元本の方であり、そこに運用の力が乗っかってくると考えてほしいのです。
投資信託とかNISAとかの難しい話の前に大事なのは、「毎月の積立元本でどこまで本気で頑張れるか」だということです。
運用の力が乗っかると?
では、運用の力が加わるとどうなるかを、期間を20年に伸ばした上で見てみます。
やはり、月1万円では限界がありそうです。
月1万円の積立が20年にわたって仮に年率4%という素晴らしい運用で行なわれたとしても、20年後の私たちが手にしている金額は368万円という計算です。
もちろん368万円は大した金額ですが、素敵な車を買うことはできても、20年後の私たちの人生で頼りにできるお金とまではいえないでしょう。
私たちが一時的な元本割れの時期を我慢してでも投資信託で積立する理由は、車のためではなく20年後の自分の「人生の選択肢」を増やすためのはずです。
でももし、同じ人が月5万円の「本気の積立」で同じ20年間を頑張ったとしたら、同じ4%で1,840万円です。もし月10万円の「超」本気の積立だったなら3,680万円です。
20年後に1,840万円や3,680万円というお金を作ったこの人は、人生の色々な選択肢を選ぶことができるのではないでしょうか。
世の中には「まずはライフプランを立てることから」とか、「自分で難しければファイナンシャルプランナーに相談を」とかといったアドバイスもありますが、私はあまりその「説」を信用していません。
私自身がそうですが、そもそも人生は予定通りに進みません。その時々で大事なことを、大事にしながら進むしかありません。そしてお金は持っている範囲で何とかするしかありません。
でも、ある時点でまとまったお金があるのなら、その時にベストな選択肢を選び取ることができます。ライフプランは変わっても、お金が持つ「人生を前向きに動かすパワー」は変わらない――そんな風に私は考えてきました。
さて、1万円では車代にしかならなかったケースと、人生の選択肢を増やすパワーをもつに至ったケースの違いは、「本気の積立」を設定できたかどうか。
選んだ投資信託は同じでも、違ったのは「毎月の積立額をいくらにするか?」について最初の最初で真剣に考えられたかどうかです。
だからこそ、これから始めようとする皆さんには、あるいは既に数年前から始めているが「よく考えると何となくだったなあ…」という皆さんには是非、「本気の積立」のコンセプトのもと投資信託を始めて欲しいのです。
私たち「20年後ラボ」としては、まさに20年経った後に、「あのサイトのおかげで、本気の積立にしておいてよかったなあ」、「おかげで人生のハンドルを握ったイケてる私になれたなあ」と自由なマント、いや翼を持った人になってもらいたいのです。
投資信託を始めると、NISAを始めると、まるで魔法のようにお金が増えるかのように、つい私たち業界側は思わせてしまいがちですが、そんなことはありません。
大事なのは「運用」より「元本」の方。
あなたにとっての「本気の積立」を。
――なのです。
今福 啓之
日興アセットマネジメント