長期投資なら大丈夫って本当ですか?
今福 啓之
日興アセットマネジメント
結論
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自分の投資期間がどういう「マーケット環境」になるかという、いわば「運」に左右される
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長期投資に意味はあるが、「魔法の杖」のようなイメージだけで受け止めないことが大事
銀行で投資信託が販売できるようになった1998年以来25年以上、資産を持つ高齢者の方々の「余資運用」に使われることが多かった投資信託。
それがここ5年ほどで新しいウネリが生まれてきたと感じます。それは「将来のために喜んでリスクを取ります」という人たちの台頭。投資信託の「メーカー」の私たちとしては嬉しい限りです。
その一方で、「とにかくほったらかしの長期投資をすればイイ」といった声も聞かれますが、せっかく始めるのだから理解しておいてほしいことがあります。
投資信託の結果は「運」次第?
セミナーなどでは「どんなファンドがおススメですか?」という質問を耳にすることも増えています。
さてその答えは、身もフタもないことをいうようですが、
① そんなの事前に分かりません。
② でもすごく大ざっぱにいって、大体どれも同じような運命を辿るんですよね。
③ でも恐らく、預金で積み立てるよりは「やってて良かった」と思える結果になることが多いと思います。
別の表現をすれば、あなたが投資する期間が「運」に恵まれるかどうかによって、結果は大きく異なるということです。
投資期間中の株式や経済の環境がすごくいいのか普通なのか、イマイチなのか――。その状況、難しくいえば「マーケット環境」によって、ほとんどの投資信託の運命は決まってしまいます。
そしてお分かりのように、どんなマーケット環境になるかはまだ決まっておらず、誰にもわからないのです。まさに「運」といってもいいくらいに。
「どの期間を過ごすか」で投資の結果は決まる
具体的に過去の例で見てみましょう。
先進国株式に10年投資した結果
(1971年末スタート~1979年末スタート)
このグラフは、縦軸のそれぞれを起点として先進国株式のインデックスに投資し、10年間保有した場合の上昇率を棒グラフで示し、棒の横にそれを年率換算した数値を添えたものです。
一番上にあるデータは、1971年12月末に投資して10年間放置したら、10年後の1981年12月末には50%弱(44.1%)上昇しており、それを年率換算すると年3.7%だった、という意味です。
2年後の1973年12月末からスタートした10年間だと121.7%の上昇で、年率換算すると年8.3%。
パーセントだとわかりづらいので金額で示すと、71年末スタートの場合は100万円が144万1,000円、73年末スタートの場合は221万7,000円に、それぞれの10年後になっていたということです。
でもよく考えると、この2つの10年間のうちの8年間は重なっており、完全に独立した10年投資のデータとはいえない点には留意が必要です。
最後の1979年末スタートだとどうでしょう。1971年末スタートとの重なりは2年しかないので、違うマーケット環境の2つのケースといえそうです。
10年後までの上昇率は268.2%で、年率換算13.9%。100万円を投じていたら10年後には368万2,000円なので、1971年末スタートの144万1,000円とはかなりの差です。
この後のデータについても10年ずつ見ていきましょう。80年代です。
先進国株式に10年投資した結果
(1980年末スタート~1989年末スタート)
そして90年代。1998年末と1999年末スタートは「10年も持ったのにマイナス」という残念な結果に終わっています。
先進国株式に10年投資した結果
(1990年末スタート~1999年末スタート)
マイナスだった背景には、スタート時点がのちに「ITバブル」と呼ばれるような高い株価だったということと、10年後の「エンド時点」が2008年末と2009年末と、いわゆるリーマン・ショックの余韻が残る時期だったから、という2つの「不運」が挙げられます。
さて2000年代です。最初の2年のスタートはまだ「マイナスの10年」で終わっていますが、その後にスタートした10年は大丈夫でした。
先進国株式に10年投資した結果
(2000年末スタート~2009年末スタート)
2010年代は2013年末のデータが最後。2013年の10年後が今だからです。
先進国株式に10年投資した結果
(2010年末スタート~2013年末スタート)
どれもすごい上昇ですが、特に2つめの棒が際立っています。2011年末スタートの10年は422.3%、つまり5.2倍の上昇で、年率換算では18.0%という驚異的な上昇率です。
これはエンド時点の2021年末が、たまたまコロナ・ショックからの反動で大きく上昇していたタイミングだったのと、円安効果が合わさった結果です。
スタート時の2011年末は1米ドル76円で、2021年末は115円なので、為替だけで51%のリターン、すなわち円安による株式の評価の底上げがあったのです。
それでも、長期投資の意味はやはり大きい
どうでしょう。同じ10年という長期投資でも、「どの10年のマーケットに居たのか」によって、結果は大違いです。
「長期投資なら大丈夫」という、よくある投資教育コンテンツのイメージだけでは不十分だという気がしないでしょうか。
「長期の平均リターンは〇%」という話も、もちろん間違ってはいませんが、こういうリアルな理解を持った後ではあまり意味がないことに気付くのではないでしょうか。
それでもやはり、長期投資には意味があります。
ただし、「魔法の杖」のようなイメージで信じるのではなく、自分なりの納得と共に長期投資の意味を理解していることが大事です。
このグラフは一番最初の1971年末から1979年末の10年投資グラフに、3年間で投資をやめた場合の結果(オレンジの棒)を加えたものです。
先進国株式に10年投資した結果と
3年でやめてしまった結果
1971年末にスタートした人は、実は3年後には23.8%ものマイナス状態だったのです。それを「無視」して10年後まで放っておいたら、先ほどの数値、44.1%の上昇になったわけです。
他の年においても似たような結果になります。つまり期間が短いとマイナスだったり、上昇そのものが小さかったのに、放ったらかして10年経ってみたら比較にならないような結果になっているのです。
10年でなく20年だったらどうでしょう。
同じ1971年末からで、グリーンは10年、イエローは20年での上昇率です。想像の通り、10年でやめずに20年後まで我慢できた人は、もっと素晴らしい結果を手にしています。
先進国株式に10年投資した結果と
20年投資した結果
もちろん私たちは、グラフの中の「一番いい棒」を選びたいに決まっていますが、事前に選ぶことはできません。
投資する期間の株価や金利や為替が「いいか悪いかイマイチか」という「運」に左右されてしまいます。
そうした大きな「運」の下では、多少の商品の違いは大した意味を持ち得ません。
たとえば今、巷では「S&P500がいいか全世界株がいいか」とか、「投信のコストはもっと下がるのか?」などの話題がアツいですが、投資期間の「運」が良ければ、米国株も世界株も、どのファンドも満足のいく結果が得られそうです。
そして、逆に「運」に恵まれない時は、残念ながらどれも下がってしまうはず。
それでも、それを無視して10年我慢できたら大体「結果オーライ」、20年も我慢できたら「結果・大オーライ」になることが多いことを、過去のデータは教えてくれます。
「しょせん結果は『運』次第だけど、預貯金に置いたままのノーアクションに比べたら、比較にならないくらいマシな結果になると自分は信じる。長く頑張れば頑張るほど、それは報われるはず。それでいいじゃないか――」
自分なりの長期投資の意味を理解した上で、そんな大らかな心持ちでいられる人が最も成功を手にする人のはずです。
今福 啓之
日興アセットマネジメント